第7話*小説『冬のカケラ』 | jun2980さんのブログ

jun2980さんのブログ

 何にでも興味をもっています。今、ミステリー小説の連載中です。また、韓国ドラマ、良い加減料理や難病の膠原病をテーマに写真なども載せながらつぶやいています。皆さんのペタやコメントが励みになります。どうぞよろしくお願い致します。



      第7話


短い髪が似合っている萌え子さんが
そこにいた。

「『宮沢りえのヌード写真集』を買いに来たの?」

「ええっ?!」

女性からこんなこと言われることに慣れていないというか、こんなことをさらりという女性に会ったことがない。

萌子さんの綺麗な顔と大胆な言葉のギャップに僕は動揺していた。

『宮沢りえのヌード写真集』は、この年1991年の11月に売り出されていた。

どちらにしても、僕はエロ本を読もうとしていた。

萌子さんはそんな僕を見透かしたように、いたずらっぽく微笑かけていた。

そして、萌子さんの目が僕を捉て離さない。

「お茶を飲みに行きませんか?」

萌子さんの信じられない誘いの言葉に、僕は自分の耳を疑った。

腕時計を見ると、午後2時過ぎだった。

「いいんですか?!」

この時の僕は、滑稽なぐらいに舞い上がり、声が裏返ってしまった。

僕にとって、こんな美しい女性とお茶を飲むことなど、まさに青天の霹靂だった。

世界一、幸せな男に思えた。

僕は、すぐにでも朔に自慢したいと思ったほどだった。

僕たちは地下街に移動した。

萌子さんがそう提案したのだ。

僕は見晴らしの良い地上の喫茶店がよいと思った。

地下の喫茶店で萌子さんとお茶を飲むのは、息苦しくなるような気がしたのだ。

本屋からほど近い店に僕たちは入った。

僕は喉が渇いてカラカラだった。

冷たいジュースで喉を潤したかったが、萌子さんがホットコーヒーを注文したので、僕もそうした。

ブラックを飲んで大人ぶりたかった。

でも、萌子さんはコーヒーが運ばれてくると、砂糖を3杯入れて、ぐるぐるとよーくかき混ぜた。

一心にスプーンを回している。

楚々とした萌子さんに僕は見とれていた。

「私、何歳に見える?」

萌子さんはいつも唐突だ。

しかし、僕は萌子さんの歳は気になっていた。

僕より大人ぽく見えるが、ちょっとしたしぐさにあどけなさも残っている。

正直言って、分からなかったが僕は自分の歳より一つ少なく答えた。

「22」

萌子さんは小さく笑った。

「答えに困った?」

「いや、そんなことは…」

僕は口ごもった。

「23よ」

「あ、僕と同じです」

僕はなぜかすっかり、有頂天になってしまった。

でも、直ぐに僕はきまりが悪くなり照れてしまった。

「あのう…名前を教えて下さい」

最も知りたかったことを僕は聞いた


店に来た時、「カードをお作りしますか?」と聞いたが、萌子さんは「作らない」と答えた。

萌子さんはお砂糖を入れて、よくかき混ぜたコーヒーを一口飲むと、僕を見て微笑んだ。

「まつしたもえこ」

そう、教えてくれた後で、

「まつしたは普通に松下。もえこは『若草萌える』の萌子」

萌子さんは説明に慣れている口調で付け加えた。

萌子さんと僕は自然に「秀治君」と僕の名前を呼び、僕も「萌子さん」
と呼んだ。

萌子さんが髪を切った理由を僕は訊いてみた。

「変えたかったの」

「何を?」

いつも、僕を捉える目が伏し目がちになった。

僕は儚げな萌子さんを抱きしめたいと思った。

何からと言うものは分からないない。

でも、何からか守ってあげたい。

そう思ったのだ。

1991年、時雨月、僕はこれから始まる恋に胸がいっぱいになっていた


しかし、本当は何も始まらなかったのだ。



 
小説(ミステリー) ブログランキングへぽちっとしてくださいね