最終章小説『私は私~I can be me.~』 | jun2980さんのブログ

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      最終章


私は吉永君の電話の意味が分からなかった。

「何を言いたいの?」

「だから、階段の上で座って眠っていても落ちないということさ」

「それで?」私はつっけんどんに言った。

「続きは会って話したい」

吉永君の思わせぶりな言い方に、私は幾分苛っとしてきた。

「どこで?」

「T神社の石段で」

「嫌よ」

私は即答で拒否した。

常盤靖子に呼び出されて、ビンタされた悔しい場所だ。

吉永君とのキスを強要された恥ずかしい場所でもある。

そして、久保先生が死んだ恐ろしい場所だ。

そして何よりも、松村が警察に連れていかれた悲しい場所だ。

「どうしても嫌なの?」

吉永君がいつもの吉永君ではないような、妙な感じがした。

「嫌」

私は素っ気なく答えた。

少し間があった。

「じゃあ、いいよ。仕方ない。諦めるよ」

吉永君が電話を切る気配がした。

私は肩透かしを食わされた気分だった。

「ちょっと、待って」

咄嗟に吉永君を呼び止めた。

興味を持った訳ではなかった。

でも、このまま切られては気になる


私は仕方なく、1時間後の約束をして、T神社の石段へ行くことにしたのだった。

吉永君の真意が分からなかった。

私はそれでも、気を取り直すと、お洒落をしていこうと思った。

こないだ買ったガーリー(少女ぽくて可愛いらしい)なオレンジピンクのレースショートパンツをはいた。

トップスは白のTシャツをさり気なく着た。

私は髪をとかすと、頭の高い位置にひとつに結んでポニーテールにした


それを丸めてペパーミント色のバナナクリップで留めた。
 
何となく、吉永君は私を好きなのかも知れないと、前から思っていた。

私の気持ちは松村を好きでありながら、憎んでいる。

吉永君に対して、どうということはなかった。

でも、可愛いい私を見せたかった。

そう演出しなければならないと思った。

キッチンに行くと、昼食としてレーズンパンが置いてあった。

でも、食べる気がしなかった。

冷蔵庫の中で冷えていたガラナの缶を一気に飲んだ。

薬くさい味が口の中に広がった。

松村が好きだと聞いて、私も飲み始めた。

好きなのか嫌いなのか分からないが
、いつの間にか薬くさい味に馴れていた。 

時計を見ると、約束の一時間後の15分前だった。

私は外に出た。

むっとした夏の風が吹いていた。

私は自転車をこいで、T神社に向かった。

T神社に着くと、吉永君はすでに来ていて、石段の一番下に座っていた


私を見つけると、軽く手を挙げた。

さわやかな好男子がそこにいた。

私は自転車を適当に止めて、吉永君のいる場所へと進んだ。

「来てくれてありがとう」

濃くて長いまつげは形よい瞳を縁取り、いつものように微笑んでいた。

「早く、話しをして」

そう急かしながら、私はペパーミント色のハンカチで額の汗を拭いた。

バナナクリップと同じ色を使って、
涼しさを醸し出しているはずだ。

吉永君はしばらく、私を見つめていた。

私も永君を見つめた。

目を反らすと、吉永君のペースに飲み込まれて、負けてしまうような気がした。

だから、私は自分をガーリーに仕上げてきたのだ。

先に目を反らしたのは、吉永君だった。

「ここで、高山さんに唇を差し出された時は、本当にぼく、どきどきしたよ」

「……」

「気絶された時は、ちょっとショックだったけれどね」

「そんな話しを聞きに来たんじゃないんだけど」

私は凛として言った。

吉永君は微笑みを浮かべたまま、淋しそうにうつむいた。

「石段を登ってみよう」

吉永君は私を誘いながら、石段を登って行く。

「吉永君!!」

私の呼びかけに振り向きもしないで
、吉永君は先に登っていった。

仕方がなく、私も後を付いていった


吉永君はGパンをはいていた。

黒のTシャツだった。

コンビニの袋を持っている。

袋の中に水のペットボトルが2本入っていた。

十数段の石段を登り、一番上の石段左端に座った。

私も登りきると右端に座った。

「これ、飲まないかい?」

そう言って、ペットボトルの栓を開けてくれて私に差し出した。

私は暑い風の中、自転車をこいで来たからか、喉が渇いていた。

ごく自然に「ありがとう」と受け取ると、ごくごくと音を出して、飲んだ。

それも、私の可愛いらしさを出す演出だった。

冷たい水が喉を通り胃に落ちていく


正直言って、こんな時の水は美味しくてありがたかった。

でも、私は久保先生がここから落ちていったことを思い出すと、怖くなった。

昨日、松村はここからから現れて、そして消えていった。

私がそのように仕向けたことだけど、何となく後味が悪いのは、もしかしたら、浅井刑事に密告したことを後悔しているのかもしれない。

私はやっぱり、松村を思っている。

私はその思いを振り切って、吉永君に訊いた。

早く本題に入りたかった。

「階段の上に座って眠っても、落ちていかないって、吉永君言ったわよね。何が言いたかったの?」

「よく、居眠りしている人がコクンコクンと前後に揺れていることを、『舟を漕ぐ』っていうよね」

私は頷きながら、次の言葉を待った。

「でも、前に倒れていかない。倒れないんだ。人間ってそういうもんなのさ」

私は目を見張った。

「賢介のお母さんの場合は、きっと事故なんだろうな。ぼくが賢介んちの玄関のドアを開けたので、賢介が慌てて降りてきた時、お母さんが引っかかって来たんだろうな」

そう言って、吉永君は私を観察するように見た。

その目は真剣だった。

私はペットボトルの水を全部飲み干していた。

それを確かめたようだった。

何となく、ざわざわとしたような感覚が体を通り抜けた。

「久保先生の場合は、賢介のお父さんと不倫したから、ぼくが背中を押した」

私は声にならない悲鳴をあげた。

腰を浮かそうとしたが、何故なのか
動かない。

「ちょっと‥待ってよ‥吉永君‥何を‥言って‥いるのよ‥」

呂律が回らない。

私が吉永君を演出しているはずだったのに、吉永君の演出に巻き込まれてしまったのだ。

だんだん、眠くなってきていた。

吉永君は私の背中も押すのだろうか


「高山さんがいるから、賢介は成績がトップになれなかった。だから、賢介は賢介のお父さんにとっても酷く叱られていた。賢介は君を恨んでいた。君がいなければ、賢介はトップになれたのに」

「そんな‥こと‥私‥関係‥ないよ‥」

「ぼくは高山さんが好きだと、自分に言い聞かせていた。でも、やっぱり、嘘はつけない。ぼくは賢介が好きなんだ」

私はもうろうとしながらも、空を見た。

雲の峰が見えた。






「今日は良い雲が出ていないから、撮影中止」

と、監督に言われても、私は我がままを言わない女優になるの!

私は意識が遠のく中で叫んでいた。


         完 


最後まで読んでいただき、感謝いたします。


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