第26話
なっちゃん、聞いていて辛くない?
大丈夫?
私ね、美奈子が事故で死んだのか、自殺なのか分からないと、言ったけれど…
実はね、私は、自殺だと思っているの。
ごめんね、なっちゃん。
こんなこと言って…
えっ?なぜって?
そうね。
これから、話していくわ。
賢ちゃんの暴力は中学校に入った夏休み前から始まったの。
ちょうど、伸輔さんが釧路から、帰っていた時で、学校の三者懇談に行ったらしいの。
そこで、初めて伸輔さんと久保先生は会ったことになるわ。
賢ちゃんの成績、クラスで一位だったけれど、学年で二位だったの。
普通の親はそれで満足するわよね。
でも、伸輔さんは満足しなかったの
。
伸輔さん、賢ちゃんは咎めたらしいの。
そしたら、賢ちゃん、まるで獣のようになって、伸輔さんに飛びかかって行ったらしいの。
取っ組み合いになって、伸輔さん、賢ちゃんを投げ飛ばしたらしいの。
そしたら、賢ちゃんは、手当たり次第に物を投げて、とにかく大変だったらしいわ。
まあ!昨日も賢ちゃんそうなったの?
なっちゃんも大変だったわね。
美奈子、その時にパニック発作が起きたのよ。
美奈子にとって、伸輔さんは安住の人だったのに、壊れてしまったから
。
そしてね。
私もあまり詳しいことは、分からないけれど、久保先生、どういう訳か伸輔さんに恋心を持ったらしく、釧路まで会いに行ったらしいの。
初めは伸輔さんも拒んでいたらしいけれど…
そのうち、夏休みになったら、久保先生、ずうっと、釧路の伸輔さんのところで、同棲みたくなっちゃって。
それがね、今の若い子って、一括りにできないけれど、大胆なのよね。
美奈子に久保先生の方から、そういう知らせが入ったの。
美奈子、パニック症候群になってから、乗り物に乗れなくなってしまったらしいの。
それはパニック症候群の症状なのよね。
乗り物に乗ると、私、どうなってしまうんだろうって、不安になるらしいの。
私が一緒に釧路まで、行ってあげるって言ったんだけれど、乗り物がとにかく怖いって。
そして、美奈子、精神科の先生はうつ病ではないというのだけれど、でも、うつ状態だったと思うわ。
誰だって、夫に浮気されたらなるわよ。
賢ちゃんは、伸輔さんを憎むようになったの。
夏休みになって、理科の実験とか言い訳して、オキシドールで髪の色を抜いたりしていたけれど、結局はそれも賢ちゃんの演出だったの。
そんな、赤い髪をしているのを、誰かに見られたら、それだけで、世間は不良と見るでしょ。
そしたら、二学期から学校へ行かなくても、みんな納得するもの。
そうやって、美奈子が睡眠剤を飲んでもうろうとして、階段に座る美奈子の見張り役をすることになったの。
賢ちゃんは引きこもりということにもなったのよね。
美奈子の力になってあげられなくて、申し訳なかったわ。
もう少し、美奈子のこと、考えてあげれば良かったのにね。
ごめんね、なっちゃん。
私の話せるのはこのぐらいかな。
そう、言って、舞さんは壁のからくり時計を見た。
奈津子もつられて見た。
ちょうど4時だった。
正時になると、楽しげな音楽に合わせて、縦長の時計は2つに割れ、森の動物たちがくるくる回って出てくる。
それがもう五回繰り返されたのだなあと、奈津子はぼうっとした頭の中で考えた。
舞さんが立ち上がって、キッチンへ行った。
サイダーをトレイに入れて持って来てくれた。
奈津子の口の中で、炭酸がはじけて頭の中がすっきりしてくる感じがした。
奈津子は舞さんから、話しを聞いても、すっきりしなかった。
久保先生、あなたは何者なの?
会わなくてはならない。
母が死んだのだ。
名前だけしか聞いたことのない、まだ会ったことのない、ひよこに会わなければと強く思った。
憎悪の炎が、奈津子の胸の中で、燃え上がるのだった。
鑑識の結果、久保怜奈は多量の睡眠剤を飲んでいたことが判明していた。
浅井刑事は松村美奈子の死んだ朝、家から飛び出して行った男の子が、吉永航平であることを突き止めていた。
つづく
最後まで読んでいただき、感謝いたします。