第25話
なっちゃん、びっくりしたでしょう
。
大丈夫?
でも、安心して。
それは久保先生の虚言だったの。
その話しは、今年の春に言ってきたのよ。
美奈子がパニック症候群の診断を受けたのは、昨年の春。
だから、それが原因で死にたがっていたわけではないの。
でも、拍車がかかったのかも知れない。
そもそも、パニック症候群の原因は伸輔さんが釧路から、帰って来るのが突然なので、だんだんそれが、重荷になってきたらしいの。
伸輔さん、機嫌が悪いから。
美奈子のお父さん、あ、なっちゃんと賢ちゃんのおじいちゃんだけど、その、おじいちゃんも機嫌の悪い人だったの。
なっちゃんの小さい時に亡くなったから、なっちゃんは覚えていないわね。
私は、高校時代に一、二度、会ったことあるけれど、他人には愛想が良かったみたい。
私が美奈子の家へ遊びに行った時、
そんなに悪い印象を持たなかったの。
だから、美奈子にそう言ったら、他人には愛想がいいんだって、美奈子も言っていたわ。
でも、家族には機嫌が悪かったみたいね。
いつも、眉間にしわを寄せてにらみつけていたんですって。
それに美奈子、暴力も振るわれていたみたいなの。
でも、そんな家庭環境でも、美奈子はとても明るくてチャーミングな子だったわよ。
どっちかと言うと、お姉さん肌でみんなに頼られていたわね。
美奈子、文を書くのが上手で、よく友達から頼まれて、ラブレターの代筆をしていたわよ。
なっちゃんが文学部へ行ったのも、美奈子の血筋ね。
でも、美奈子はお父さんから受けたDVがトラウマになっていたの。
美奈子は明るい性格だったから、自分でも気が付かなかったのだけど、
心の底にやはりお父さんから受けたDVが過去の葛藤だったのね。
だから、20歳の時、医者になったばかりの伸輔さんと知り合って、直ぐに結婚したの。
伸輔さんはその頃、機嫌が良い人だったのよ。
そうね。ずーっと、機嫌の良い人だったわ。
釧路に転勤になるまではね。
なっちゃんはそのことは知っているわよね。
ただ、あなた達に勉強のことは厳しかったけれどね。
特に、賢ちゃんにはね。
賢ちゃんには自分と同じ、医者になってほしいという、期待があったから。
美奈子は伸輔さんと知り合って、安らぎを覚えて家から、逃げるように結婚したの。
美奈子のお父さんとお母さんは、仲が悪くて喧嘩ばかりしていたらしいの。
美奈子、高校時代からよく言っていたわ。
早く家を出たいって。
美奈子は伸輔さんに出会ったことで
、伸輔さんの良き理解を得て、なっちゃんや賢ちゃんといういい子にも、恵まれて幸せだったの。
独り身の私からしたら、うらやましかったわよ。
でも、2年前のある日、釧路から帰ってきていた伸輔さんの前で、
美奈子がしょう油瓶を落として、割ったらしいの。
その時、伸輔さん、眉間にしわを寄せて睨みつけたらしいの。
そしたら、お父さんとの顔とだぶってしまい、何とも言えない恐怖感が襲ってきたらしいの。
胸が苦しくなって、呼吸も苦しいって、美奈子から電話が来て…
夜も眠れないって。
だから、精神科の受診を勧めたの。
美奈子の場合、やっぱり、お父さんのDVに原因があったのね。
伸輔さんが良き理解者だったのに、
その伸輔さんがお父さんと同じ顔をしたと、いうことにとてもショックを受けたの。
要するに、伸輔さんにしがみついていたことによって、お父さんのトラウマが実は固定してしまっていたらしいのね。
難しいわね。
人の心っていうものは。
美奈子から、電話がきて、よく言っていたわ。
何をやっても楽しくないって。
人生、楽しいことばかりではないわ。
でも、悲しみの中にあっても、ちょっとしたことに、楽しみを感じることができるのが、人間なのよ。
だから、生きていける。
だけど、楽しみを感じなくなったら
、死にたくなるのよね。
そして、賢ちゃんも変わっていった
。
賢ちゃんの不登校を美奈子は、自分のせいだって、泣いていたわ。
賢ちゃんがふるう暴力にも、美奈子はパニック発作が起きていたの。
それで、伸輔さんが学校に行って、
担任の久保先生に相談したの。
しばらくして、久保先生のストーカーのような行為が始まったのだけど、伸輔さん受け入れてしまうの。
つづく
最後まで読んでいただき、感謝いたします。