第23話小説『私は私~I can be me.~』 | jun2980さんのブログ

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      第23話


松村は伸輔より背が高かったが、体格ではやはり伸輔のほうが勝っていた。

伸輔に飛びかかって行ったが、松村は伸輔に押し返された。

松村は手当たり次第の物を伸輔に向けて投げ始めた。

「あんた、何を考えているんだよ」

松村は泣き叫んでいた。

と、同時に奈津子の悲鳴も聞こえていた。

「賢ちゃん、やめて!!」

奈津子には弟がこんな風に暴力を振るうことが信じられなかった。

あんなに温厚で利発で、従順だった
のに。

奈津子は弟の変貌ぶりを目の当たりにして、狼狽した。

松村が手当たり次第に投げる物に、伸輔は器用に避けながら、応接間のほうへ逃げて行った。

松村は追いかけて行く。

伸輔がソファーの脚に引っかかって
、バランスを崩した隙をねらって、松村は胸ぐらをつかまえた。

「賢ちゃん、やめなさいってば!」

姉の声など、松村には聞こえない。

聞こえたところで、止めることなど出来なかった。

松村は床に父親を倒すと、馬乗りなって拳で顔を何度も殴った。

「どういうことだよ。ひよこと結婚するってどういうことだよ。おれに新しい母さんって何なんだよ」

「賢ちゃん!やめて!!」

奈津子が松村の両肩を揺さぶって、
やっと、馬乗りになっている松村を伸輔から引きずり離した。

「何なのよ!いったい!賢ちゃんもお父さんもどうなってんのよ!」

奈津子は訳が分からず、取り乱した。

自分が家を出ていた2年間の間で、なぜこんなに変わってしまったのか。

やるせなくなった奈津子は泣いていた。

「お前がそんなんだから、美奈子は精神を病んで死んだんだろう」

伸輔の言い方が恐ろしく冷たかった。

そして、上体を起こすと、青色のポロシャツの襟元を整えた。
 
「何だって!」

松村がまた、伸輔に飛びかかっていこうとしたところを、奈津子が松村に体当たりして抑えた。

それでも、松村は手足をばたばたさせて叫んだ。

「あんたの不倫が原因で、母さんはあんな風になったんだろう。だから、薬飲んでは『死にたい』って、階段の上に座り込んでいたんじゃないか」

奈津子の顔色が変わった。

「お母さんが?お母さんがそんな風になっていたの?」

にわかには信じられないことだった


「お父さん、知らなかったなんて嘘でしょ!?いくら、単身赴任して離れて暮らしていたからって、知らない訳ないわよね」

奈津子は伸輔のほうに向き直ると詰め寄った。

奈津子がそう思ったのは、直感だった。

「父さんは知っていたさ」

奈津子の言葉に少し冷静になった松村が、伸輔を睨んで吐き捨てるように言った。

「父さんは母さんが薬飲んでたの知っていたんだ」

息子が明らかにしようとしていても伸輔は慌てている様子もなかった。

「父さんは知っていたけれど、警察で事情聴取された時、おれに口止めしたのさ。知らなかったことにしてくれってね」

「どうして?」

「めんどくさいことになったら、いやだからさ」

「そんな…」

「それに、妻が自殺じゃ面子が立たないから、絶対、事故にしたかったのさ」

「お父さん、どういうことなの?」

伸輔は開き直ったのか、否定をしなかった。

「まだある」

松村の次の告白に奈津子は
、目を見開いた。

「父さんはおれが母さんをつき落としたんじゃないかって、疑っているんだ」

「何てことなの」

奈津子は言葉を失った。

「警察でそれを疑われるのを一番恐れたんだよ」

松村は溢れ出る涙を拳でぬぐった。

「全ては自分の体裁のためなんだ」

「違う!」

初めて伸輔は大きな声をだして、否定した。

「賢介。お前の将来を考えてそうしたんだ」

「ふん。おれのことなんか何も考えてない。考えているのは自分のことだけだ」

「何だと」

松村と伸輔がまた、つかみ合いになりそうになった。

「やめて!!もう、やめて!!」

奈津子はリビングを出ていくと、母が落ちて死んだ階段を上って、2階の自分の部屋に戻っていった。

残された2人の男たちは、しばらくの間、そこで呆然としていた。

2人の側で、美奈子が大切に可愛がっていた、大きなベンジャミンの観葉植物が倒れていた。

鉢から土がこぼれて床に広がっていた。

枝も折れているようだった。

奈津子は自分の部屋で、確かあの父と弟のもみ合いの最中に、ベンジャミンはそうなったはずだと、ベッドの上で考えていた。

片づけるのが大変だと、奈津子は考えている自分がおかしかった。

今、そんなことよりも、この起きている問題を考えなければならない。

でも、あまりにも現実離れした問題が突然、降りかかってきた。

とても、受け止めることなど出来なかった。

奈津子は天井を睨んでいた。

生前の母の様子を知りたい。

そう思った。



奈津子は思いついたように起き上がると、ベッドの端に座り直した。

側に置いてあった携帯電話を手にして、電話をかけた。

電話の相手はワンコールで、出てくれた。

すでに登録されている名前で、誰からの電話か分かったらしく、奈津子に呼びかけた。

「なっちゃん?大丈夫?」

「舞さん…」

奈津子は涙ぐんだ。

「舞さんは知っていたの?お父さんが不倫していたこと」

「なっちゃん、それ、誰から聞いたの?まさか、お父さんが自分で言ったの?」

それには答えず、奈津子は続けた。

「お母さんは知っていたの?それで自殺したの?」

宮下舞は答えに窮しているようだった。

「舞さん、本当のこと知りたいの」

奈津子は必死に訴えた。

「美奈子が事故なのか、自殺なのかは分からない。でも…」

舞が戸惑っているのが奈津子に伝わってきた。

「ねえ、明日、会って話そう。私の知っていることは、全部話すわ」

「本当?舞さん、ありがとう」

奈津子は携帯電話にもたれて泣いた。


宮下舞から話しを聞いた奈津子が、
久保怜奈を呼び出して会ったことは、警察でも調べがついた。

奈津子は警察から事情聴取を受けて
、久保怜奈の推定死亡時刻 7月6日 午後8時から深夜0時の
アリバイを聞かれている。

いますしかし、アリバイが実証されて、帰される時の奈津子の不敵な笑いを浅井刑事は見逃さなかった。
          
          つづく

最後まで読んでいただき、感謝いたします。 



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