第13話
お通夜は6時半から、始まるということだった。
校長先生、久保先生、吉永君、私は6時15分に葬儀場に集合した。
葬儀場は家から、歩いて行ける所だった。
葬儀の部屋は小さかったが松村のお母さんの祭壇は部屋の大きさに比べて立派だった。
部屋の入口で、祭壇に向かって一番前の椅子に座っている松村の後ろ姿が、目に入った。
肩を落とした松村が小さく見えた。
入ろうとした時である。
松村のお父さんと思える人が、私達4人を制した。
「お引き取り下さい」と、言うのだ
。
校長先生が「お線香だけでも」と、言うのさえ断るのだった。
押し問答するわけにもいかないので、私達はそのまま辞した。
夏至が過ぎたとはいえ、外は6時半でも明るかった。
帰る方向が私と吉永君は東に、校長先生と久保先生は南に別れて帰ることになった。
別れのあいさつの時、改めて見た久保先生は喪服の黒が似合っていて、いつもより大人ぽっく見えた。
私と吉永君は制服を着たまま、黙って歩いていた。
でも、私は吉永君にどうしても聞きたいことがあった。
それは吉永君も覚悟しているはずだった。
私はさっきの肩を落とした松村の後ろ姿が目に焼き付いていた。
安易に松村に会えると、心を浮き立った自分を恥じていた。
松村のお母さんは階段から、落ちて亡くなった。
尋常な亡くなり方ではないのだ。
松村は私達が入口まで、来ていたことは分かっていたはずだ。
でも、松村は振り向いてもくれなかった。
私は振り向いてくれなくて良かったと、思った。
松村の顔を見たら辛くなったと、思うのだ。
私と吉永君はもうすぐ別れ道まで来ていた。
小さな公園の所まで来たら、私は左に曲がり、吉永君は真っ直ぐに
行く。
私はさっき、そんなに見ることが出来なかった、松村のお母さんの遺影
を思い出していた。
生前にも学校行事などで会ったことがある。
その記憶も重ねて、松村のお母さんの目は松村の目と似ていないと思った。
松村は奥二重の切れ長だが、お母さんは二重がはっきりしていて形が良かった。
さっき、葬儀場の部屋の前でお参りすることを拒絶したお父さんの目も、松村と同じ奥二重で切れ長の目だった。
「松村君って、お父さん似なのね」
私は思い切って、吉永君に話しかけた。
吉永君はほっとしたように、「そうだな」と、いつもの微笑んだ顔を私に向けた。
私に聞かれる内容を察して、身構えているのが、伝わっていた。
公園に近づいた時、私は勇気を出して、吉永君に切り出した。
「吉永君、少し、この公園で話していかない?」
私は吉永君の返事を待たずに、公園に入っていくと、ベンチの左端に座った。
吉永君はためらっている様子だった
。
少し、間があったが、吉永君は公園に入ってきて、ベンチの右端に座った。
夕飯時もあってなのか、公園には誰もいなかった。
先に口火を切ったのは吉永君からだった。
「高山さんに尋問を受ける前に、ぼくから言うよ」
「尋問だなんて!」
私は低く叫んだ。
吉永君はいつもの笑顔を私に向けた。
「賢介の母さんが死んだ朝、賢介の家から、飛び出していったの男の子
は誰か?というより、ぼくか?って
聞きたいんだよね」
私はゆっくりとうなずいた。
吉永君は真顔で私に告げた。
「ぼくだよ」
つづく
最後まで、読んでいただき、感謝いたします。