第12話小説『私は私~I can be me.~』 | jun2980さんのブログ

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      第12話

始業チャイムが鳴ったので、みんな私に、射すような視線を残しながらそれぞれの席に着いた。

まもなくして、担任の久保先生が教室に入ってきた。

憂うつそうな顔をしている。

ひよこ先生が教壇に立つと、日直が形式だけの朝のあいさつの号令をかけると、みんなも適当に従った。

ひよこ先生は緊張を解くように深呼吸をした。

みんなもいつもとは、違う面もちで先生の言葉を待っていた。

「この度の松村君のお母様の事故は、非常に残念でした」

そこまで言うと、ひよこ先生は一呼吸をして続けた。

「今夜、お通夜が執り行われます。松村君のお父様のご希望ですが、親戚の内輪だけで行います、ということで、クラスの皆さんには遠慮願いたいとのことです」

みんなから、ため息がもれた。

私はお通夜に行こうと、思っていた


松村に会いたかった。

顔を見たかった。

正直、がっかりした。

重たい空気が流れている。

私とあまり口を利いたことがない、常盤靖子が、ひよこ先生に疑問を投げかけた。

「先生、松村君のお母さんの死因は何ですか?」

みんながもっとも明らかにしてほしい事柄だった。

みんなは固唾を飲んでひよこ先生を見守っている。

狼狽の色を浮かべながらひよこ先生は答えた。

「それは…お母様が誤って階段から落ちたと…そのように、先生は聞いています」

「ただそれだけかよ」「松村が関係してんじゃないのか」「事件じゃないの」

色々な声が入り混じり、先生に質問と言うより、勝手にみんなが噂話を始めた。

こうなったら、ひよこ先生は半泣き状態になり、何も出来ない。

いつもなら、こんな時、吉永君が上手くまとめる。

しかし、彼の肩はぴくりとも動かなかった。

私はもちろん、何もしない。

何もしないから、常盤靖子と2票の差で、クラス委員に選ばれたんだろう。

何もしない私はみんなにとって、都合が良い存在なのだ。

常盤靖子がひよこ先生に質問を投げかけた。

「今日、親たちへの説明会があると、聞きましたが」

ひよこ先生がきょとんとしている。

「そんなものは、今日、学校では行いません」

「えーっ」という驚きの声が湧き上がった。

「家のお母さん、説明会があるって、言っていたわよ」「家のお袋も言っていた。」「全く、事件性がないの?」

そんな声々に混じって、興味のない奴らが違う話しも始めている。

「今度の日曜日、アイスクリーム食べに行こ」「今日、ゲームしようぜ


興味のない奴らにとっては退屈な話題に化していた。

松村という、2年4組の仲間のお母さんの死について、興味のない奴らがいても、しかたがない。

変に野次馬根性を出して、噂話をするよりいいかも知れない。

ただ、私も親への説明会がないと、いうことに軽く驚いた。

母親も信子のお母さんからの電話でそんなことを言っていた。

それぞれが勝手しゃべりだしている収拾のつかない状態になっている中で、靖子の一言で、みんなの興味が一つになった。

「松村君のお母さんが階段から落ちて亡くなったころ、1人の男の子が松村君の家から飛び出して行ったと、聞いたのですが」

ひよこ先生は最後まで、言わせないように、靖子の言葉を遮った。

「事故です。大変、お気の毒な事故です」

ひよこ先生なりに、毅然としていた


大分、先生という、職業に慣れてきたのか。

数学の学習だけを教えていればいいと、思っていたのに違いない。

そういえば、連立方程式の濃度問題の文章問題が途中で終わっている。

ー40%の食塩水X㌘と50%の食塩水Y㌘を合わせて24%の食塩水を200㌘作りたい。それぞれの食塩水は何㌘ずつ必要かー

百分率を教えてくれたのは、松村、
君だったね。

今度、私が教えてあげるのに。

ふと、気がつくと、みんながいっせいにに吉永君と私を振り向いて見ている。

「では、吉永君、高山さん、よろしくお願いしますね」ひよこ先生が念を押した。

吉永君が「はい」と、返事をしている。

私も吉永君に従って「はい」と、返事をした。

みんなの好奇の目に私は戸惑った。

特に、廊下側の前の席の常盤靖子の視線がしつこく刺していた。

教室の真ん中の席の杏がかなり下の方で、ピースを出していた。

ひよこ先生が教室を出て行った。

杏が私の席に飛んできた。

「美波、良かったね」

「ねえ、杏。ひよこ先生何を私と吉永君にたのんだの?」

「ええ?」杏は拍子抜けしたように
言った。

「美波、しっかりしてよ。聞いていなかったの。誰にも来てほしくないと、松村君の家では言っているけれど、クラス委員の吉永君と美波には行ってもらうという話しでしょ」

私は思わず、腰を浮かした。

松村に会える!

松村の顔が見られる!

その場所が例え、松村家のお通夜であっても、松村に会えると思うと、心が浮き立った。

吉永君を見た。

彼はこちらに背中を向けたまま、文庫本に目を落としていた。

彼はちょっとした時間でも、本を開く。

不謹慎に喜んだ私は、気まずかった


顔を赤らめて、杏と楽しげに話す私を、常盤靖子が、そして、取り巻きが鋭い視線を射っていることなど、
私は知る由もなかった。

杏、私の唯一の親友も、あなたも、私の元から去っていってしまった。

            つづく

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