第9話
「別に詮索なんてしていない」
美波はやっとの思いで声を絞り出した。
その声は震えいた。
松村は一息付くと、「じゃあな」と言って、携帯電話を切った。
本当は何もかも話したかった。
話して楽になりたかった。
自分一人だけで抱えているには、あまりにも惨い母親の死に方だった。
美奈子は睡眠剤を飲み過ぎているのかいつも眠そうだった。
美奈子が夫の伸輔に帰って来る時は連絡してほしいと頼んでから、不意に帰って来ることはなくなった。
伸輔が帰って来ることが分かる日は
、睡眠剤を飲まないでいた。
しかし、伸輔が帰った日の夜、美奈子は少し睡眠剤を増やして飲んでいたようだ。
美奈子は朝から眠そうだった。
今日も美奈子は朝から眠そうだった
。
松村はまだ、生々しい母親の死に方を、どう受け止めたらよいのか、分からないでいた。
美波から電話がかかってきた時、美波になら真相を打ち明けてもいいかも知れないと、一瞬、思った。
でも、母の死は自殺だとは言えなか
った。
美奈子はいつも、もうろうとした中で、階段の一番上に座っていた。
初めて、松村がそんな美奈子を見つけたのは、中一の夏休みに入って直ぐだった。
「母さん、危ないじゃないか!」
驚いた松村は美奈子を後ろから、抱きかかえて引き上げた。
「いいのよ。賢ちゃん」
美奈子は抵抗した。
しかし、156㎝の美奈子がもはや長身の息子に勝てるはずもなく、松村は美奈子を後ろにずらした。
美奈子は涙ぐむと言った。
「母さん、眠りながら階段から落ちていくんだから」
「そんなことしたら、死んじゃうだろ」
松村は真剣だった。
「母さんね、死にたいの」
思いがけない母親の告白に松村はうろたえた。
その日から、松村は美奈子を見張らなければならなかった。
つづく
最後まで、読んでいただき、感謝いたします。