第10話
私はめまいがした。
松村の「詮索するな」と、言う声がいつまでも耳に残っていた。
心が痛いって、こういうことなのかと、思えた。
自分の思いが相手に届かない。
こんなに心配しているのに。
もどかしくて、淋しくて、辛い。
考えてみたら、私の片思いなのだ。
松村が私を頼って、話してくれる訳がない。
分かりきっていたのに、私は何を期待していたのだろう。
こんなに、心が痛むのなら、松村と繋がっていたいという気持ちを、私はあきらめようと思った。
うとうとしたように思う。
気が付くと、いつの間にか朝になっていた。
「美波、起きなさい」母の声が悪魔の叫びに聞こえる。
私は松村はどんな朝を迎えたのだろうと、松村の奥二重の切れ長の目を思い出していた。
学校に行くことに気が重かった。
おそらく、松村の話題で持ち切りになるだろう。
私はクラスの女子が松村の噂の真相を聞いてきたメールに、一切返信をしなかった。
きっと、私が登校するやいなや、私を取り巻くだろう。
クラス委員というだけで、私が何かを知る由もない。
私はみんなに松村の名誉を守るべくして、ちゃんと受け答えをしようと、決めていた。
だって、私は女優になるのだもの。
しかし、登校してみると、私に真相を聞きにくるなどという予想は全く
、余計な心配だった。
私が教室に入っていっても誰も真相を聞きに来なかった。
それどころか、逆に教えられることになる。
「ねえ、高山さん、知ってる?」
誰ともなく数人が寄って来た。
「昨日の朝、松村君のお母さんが、階段から落ちた時間に、一人の男の子が松村君の家から飛び出して行ったんですって」
私はどぎまぎしてしまった。
家の母に信子のお母さんから電話が
かかってきて、その話しは聞いていたから知っていたが、すでに、みんなも知っていた。
「それがさ、その子…」
そして、教えてくれようとしている子は声をひそめて続けた。
「吉永君なのよ」
その言い方は断定されていた。
つづく
最後まで、読んでいただき、感謝いたします。