第5話
松村賢介は自分の部屋のベッドの上で、座り込んでいた。
体育座りをし、壁に腰を押しつけて
、背中を丸めると両膝の間に顔をうずめていた。
もう、暗くなっているのに、電気も付けないで、じっと、さっきからこの態勢でいた。
不意に、となりに置いてあった携帯の着信音が鳴った。
松村賢介は怯えながら携帯を手にした。
表示板を見ると「吉永航平」の名前だった。
松村賢介は少し頬を緩ませた。
松村は長くてしなやかな指で2つ折りの携帯を開いた。
「もしもし、航平か?」
「賢介…お前、大丈夫か?」
吉永航平の優しい声音が、何十年ぶりかに会った友のように懐かしかった。
「大丈夫だ。航平は大丈夫か?」
「俺は大丈夫だよ。それより、高山
が賢介のことをすごく心配していたぞ。話していて辛かった」
松村の奥二重で切れ長の目から大粒の涙が溢れて流れた。
「航平、ありがとうな。もう、切る」
松村は吉永に泣いていることを、悟られたくなかった。
高山美波の様子を聞いて、泣いたと知られるのが恥ずかしかった。
「賢介」
携帯を切ろうした松村を吉永が呼び
止めた。
「俺のことは気にするな」
「ああ」
松村は携帯の切りボタンを押した。
拳でごしごしと涙を拭うと、両掌を広げて顔を覆った。
階下では、親戚が集まって、何やらひそひそとやっている。
気を使って誰も何も話しかけてこない。
それが返って松村には淋しかった。
母はもう、この世にいない。
松村には受け止めることなど、出来るはずもなかった。
遺体は鑑識のため、まだ、警察にあ
って、家に帰っていいなかった。
棺がないことも、賢介が母の死を実感出来ない理由だった。
けれど、賢介は母親が階段から落ちるのを見ていた。
いきなり、部屋のドアが開けられて
、眉間にしわを寄せて睨みつけた父親の顔が現れた。
そして、ぞっとするほどの冷たい声で父親が詰め寄った。
「賢介、本当のことを話しなさい」
松村賢介は怯えた。
警察の事情聴取より、厳しい空気が流れた。
「警察は騙されても、父さんは騙されないぞ」
松村は何も言えなかった。
と、いうより、声が出なかったと言ったほうが正しいかも知れない。
「父さんは僕を信じないの?」
声をしぼり出して訴えた松村の声が消え入りそうだった。
父親はその眉間にしわを寄せて睨みつけた顔をそのまま残して、部屋を
出て行った。
「母さんは父さんのあの顔がいやだったんだよな」
松村はつぶやいた。
涙がポトポトと膝の上に落ちていった。
「航平…」
松村は側にいない友の名を呼んだ。
「お前、どうして、今日に限って
家に来たんだ」
松村賢介は吉永航平に借りが出来たようで、悔しい思いが込み上げてきていた。
つづく
最後まで、読んでいただき、感謝いたします。
わたしもこのラ