とても悲しいことがあった
放課後 イッコが 教室で ずっと慰めてくれてた
「もう!!こんな時に 宮本君 何しているんだろ」
「“おにいちゃん”、バンドの練習だから。 もう大丈夫だよ。イッコ、私 “おにいちゃん” 待ってるよ。 ありがとうね」
そう言って、視聴覚室の前でバンド 練習が終わるのを待った
程なくして練習が 終わり 視聴覚室のドアが開き バンド メンバーたちに混じって“おにいちゃん”が出てきた
「おう! どうした?」
屈託のない明るい笑顔と声に思わず安堵感で また泣きそうになり そんなブサイクな顔を見せまいと下を向いた
「ん?? 顎を上げろよ」
“おにいちゃん”は 少し屈んで首をちょっと横に傾げ 下から私の顔を覗き込みながら右人差し指で 私の顎を優しく持ち上げて
「よし ちょっと寄るか!
ついて来いよ」
と言った
校舎を出ると 私が 帰る道と反対方向の“おにいちゃん”の帰る道へ歩いて行った
どこへ行くのかわからないけれど絶対的に信用している人の後ろをトコトコついて行った
あるビルの前に来るとエレベーターのボタンを押し、何だかわからないまま5階か6階まで上がった
チーン という音でエレベーターのドアが開いた
目の前には 夕暮れでも まだ 初夏の青い空が 広がっていた
胸までの高さのフェンスが グルっとある誰もいない屋上
「いいの?勝手に来ちゃって?」
「気にしない 気にしない」
“おにいちゃん”は バッグから ノートを取り出し 丁寧に 白紙のものを 一枚 一枚 切り取り いきなり 何かを折り出した
折り紙???
「よし できたぞ。こいつ 結構 よく飛ぶんだ 見てろよ!」
ヒューっと滑るように空へ向かって飛んでいく
紙ヒコーキ
右に旋回して隣のビルの陰に消えて行った
「すごい!!すごい!私もやりたい」
「こう折って ここは こうして..,,,」
レクチャーされ、いざ 出陣!
私の手から スーッと離れて それは 気持ちよさそうに風に乗り まだ青い空へ向かって 消えて行った
そんなトリトメモナイものに心が ワクワクし 何回も作っては 飛ばし 最後の一つが 朱く染まり出した空へ勢いよく飛んで行った頃には 涙は すっかり乾いていた
後に“おにいちゃん”は 農林水産省のお役人さんになった
初任給で 銀座に食事に連れて行ってくれた
泣き虫で甘ったれな私のためにデザートに千疋屋の大きなフルーツ パフェまでご馳走してくれた
今は 何処で 誰を 誰達を 幸せにしているのだろう
今も悲しいことがあると紙ヒコーキを作ってみる
ヒコーキに涙を乗せて 心の中で 大空にヒューって 飛ばしてみる
あの日のように
”おにいちゃん“ ありがとう