ゲゲゲのブラック次元 -103ページ目

ゲゲゲのブラック次元

コッペパンと妖夢が好きなゴクウブラックと
罪のない人間と海砂に優しい夜神月と
色物揃いで最強の部下たちを従えるリボンズ・アルマークが
存在するカオスな次元です

 
 
俺たちに翼はない~AnotherStory~(アナザーストーリー)



 
「では、学校に行ってまいります」

「あっ伊丹さん、今日は日曜日なので学校には行かなくてもいいんですよ」

「日曜日……なぜ日曜日には学校に行かなくてもよいのですか?」

「学校だけじゃなくて、だいたいのお仕事も休みになってます」

「何故日曜日には学校も仕事も休みなのですか?」

「えっと……流石に一日も休みなしに毎日働いていたら疲れてしまいます。だからせめて一日だけでもゆっくり過ごして、一週間の疲れをとってもらおうということで休みになっているんだと思います」

「なるほど、つまり日曜日はこの国の民にとっての唯一の安寧の日というわけですね。では私は今日学校に行かなくてもよいのですな?」

「はい、でも明日からは昨日と同じようにちゃんと登校してくださいね」

「了解しました。では私はこれからフェニックスの社へ参ることにします」

「はい、じゃあお気をつけて」

「ファルコンを通して観てきた記憶によると、このヘテロクロミアというところがフェニックスの隠居地だったな」
 
 伽楼羅はヘテロクロミアの扉を開ける。


「あれ、隼人先輩じゃないッスか!」

「フェニックスはおるか?」

「皇帝ならいつも通りアレキサンダーで暇持て余してるっスよ」

「アレキサンダー…イーグルがバイトをしていたあの喫茶店か」

(ならこの姿で行くのはまずいな。)



「どぉーも、カッケルくーん!」

「千歳さん、おはようございます」

「鷲…ちゃん……?」


 翔は鷲介に変装した伽楼羅の胸元を持ち上げる。


「ちょ、ちょっと鳳さん?!」

「なんで鷲ちゃんに戻ってんだアァ!!」

「うろたえるなフェニックス…」

「っ?!…伽楼羅?」


 翔は伽楼羅をそっと降ろし胸元から手を離す。


「鳳さん、店内で乱暴はいけません!!千歳さん大丈夫ですか?」

「ああ大丈夫ですよ日和子さん。実は俺たちプライベートじゃこうやって胸元掴みあげるのが挨拶みたいなのものでして。だよねー翔君?」

「そうそう、俺たち仲いいもんだからさぁ、挨拶もちょっと普通のやつとは違うわけ」

「はぁ、そうなんですか……。でも今後店内ではくれぐれも控えてください」

「わかってますわかってますって!」

「んじゃこれお題。行こっか鷲ちゃん」

「えっ、千歳さんもう行っちゃうんですか?」

「すいませんねぇ日和子さん、実は今日ちょーっと翔くんと大事なようがあるもんで。じゃあ!」

「ちょ、千歳さん?!もぅ…これからリンダのお見舞いに行くから仕事代わりに手伝ってもらおうかと思ったのに…」


 日和子の制止を振り切り伽楼羅と翔はアレキサンダーを出て行った。

 伽楼羅は鷲介の服を袋に入れて私服に着替える。


「いやぁ焦った、鷲ちゃんのカッコで来るもんだから、てっきりまた伽楼羅引っ込んじゃったのかと思ったよ」

「奈落から謎の風が起き、父上が己を踏み台にし、ダヴが私の存在を認めてくださったおかげで今私はこうして現世へと舞い戻ってくることができた。お二人に感謝しなくてはな」

翔「それはよかった、散々待たせといて、自分が満足したらあっさり消えちゃうなんて、伽楼羅らしいけど俺は寂しいもんね」

「フェニックスよ、何を勘違いしておるのだ。世はまだ満足などしておらん。この穢れきった国を滅ぼし、美しきグレタガルドを再興するまで、私に満足などという感情は訪れることはない」

「いいねぇ、流石俺たちの王だ。俺もとっととこんな世界滅んじゃえばいいと思ってるし、伽楼羅がグレタガルド作ってくれるんだったら俺はそれで満足かな。にしてもさっきの鷲ちゃんの物真似かなりクオリティ高かったね、ダイヤル使いこなせるようになった?」

「ホーリーランスの具合がよくなったのでな。後は術が使えればいいのだが…この世界ではやはり術が封じられているようだ。だが、国を動かすために必要不可欠なのは力だけではない。王たるもの、常人をはるかに超えた膨大な知識をこの優秀な脳に記録しておく必要がある。そして我は昨日、それに最も適した場所を発見したのだ!フェニックス、これから図書館に行くぞ!」

「は?図書館?あんなとこ行っても退屈なだけじゃん。せっかく会えたんだからバーッと遊んでいこうよ」

「ぬふん、ならば仕方あるまい。1時間ほど時間をいただく。約束の戯れはそのあとすぐにでも付き合ってやるぞ」

「1時間ねぇ…まぁそのぐらいならいっか…」

「ではフェニックス1時間後にまた会おう!!」

「なるべく早くねー!」

 ↓

 美咲が運ばれた病院には彼女の唯一の親友である日和子がお見舞いに来ていた。


「まったく…リンダが入院したって聞いたから心配して来てみれば、ただの熱って…」

「えへへ。ごめんねタマちゃん心配かけて…。それより玉ちゃん、私いい夢見たんだよ」

「ふーん」

「少しは興味持ってよ!」

「どんな夢見たの?」

「えっと、羽田先輩がね」


 昨日起きた出来事が夢だったと思っている美咲は、それを日和子に説明するが、日和子は思わず笑いだす。


「プッ…ww」

「あっ、タマちゃん今笑った!」


 美咲は少しムカッと来た。


「だってwリンダのことお姫様と勘違いした上に求婚を迫まられたってwwリンダがお姫様…wwププッwww」

「そんなに笑わないでよ!もしかしたら、今の話夢じゃなかったかもしれないんだよ!」

「いやいや、今の話はどう聞いても夢だって」

「私、昨日図書館で羽田先輩を見つめてたんだけど」

「まだストーカーしてたんだ……」

「それから記憶が飛んでて…でも、私誰かにお姫様抱っこされて……」

「それが羽田さんって?」

「うん♡だから、熱で倒れた私のために救急車を呼んでくれたのもきっと羽田先輩だったんだよ!で、だとしたらさっき話したやり取りも夢じゃなくて」

「たぶん違うと思う」

「なんで?!」

「羽田さんが救急車を呼んだっていうのはともかく、リンダのこと「姫」って呼んだり、いきなり求婚を申し込まれたっていうのは明らかにリンダの願望入ってるよね。それに、やっぱりリンダのために救急車を呼んだのも羽田さんじゃないと思う」

「そ、それはないよ!だって、あの図書館には私と羽田先輩二人っきりだったんだよ!!」

「二人っきり?なんでそんなこと断定して言えるの?羽田さんにあまりにも見とれすぎて熱で倒れたとして、その倒れたリンダを発見して救急車を呼んだのは羽田さんとは限らないでしょ。後から来た他の誰かかもしれないし」

「玉ちゃんさっきからなんで全部否定形なの!少しは肯定してよ!!」

「……じゃあもう一つ。病院の人からの話によると、救急車を呼んだ人、尋常じゃないぐらい慌ててたらしいよ。それに、ただの熱で救急車まで呼ぶなんて…その人よっぽどリンダのことを大切に思ってくれてる人なわけでしょ?リンダ、羽田先輩とはまだ会話もろくにしたことないんだよね?」

「あっ……うん……」

「特に話しもしたこともない人をそこまで心配するなんてありえない話だよ。リンダ、羽田さんのこと想うのはいいけど、その人3年なら今年もう卒業だし、ここまで頑張ってきてまだまともな会話すら交わしてないんだったら、そろそろ諦めたほうがいいんじゃない?」

「……嫌だ」

「いい加減現実観ようよ、リンダ」

「嫌だ!私…羽田先輩が好きだもん…羽田先輩じゃなきゃ嫌だもん!」

「リンダ……いつまでもそんなこと言って、ずっとその人に振り回されて生きてく気?そんな辛い人生でいいの?」

「それでもいいよ!羽田先輩の為に人生をささげられるなら、もうそれで……」

「リンダ……」

「こんな…こんな辛くなるような夢見せないでよ……神様のバカああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

「あっ、熱退いてる」

「えっ?」

「良かったねリンダ、これでまた明日から学校来れるね」

「う、うん」



「では行って参ります!!」

(あの後、美咲様は無事助かっただろうか…。そういえば、美咲様は美空学園の制服を着ていた。ということは私がこれから行くところに美咲様が?!)



 美空学園の近くについた伽楼羅は辺りを見回した。


(誰の気配も感じない。熱が退いたのであればここに来ているはずだが…。やはり手近な人物に聞くべきか。)

「羽田君、お・は・よ♪」

「ああ、おはよう渡来さん」

(コイツには聞けんな……。)



「はーねだ♪」

「高内さん」

「あっさ卒文だけど、担任OKつーか勝手に進めろってさ。」

「そっか、いろいろありがと高内さん。」

「いやいやいや…全部アンタが言ってくれたじゃん」

「ううん…みんなが頑張ってくれたおかげだよ」

「…んじゃあアッシ行くわ。ああそうだ…この前のアンタ、結構よかったんじゃない?」

「あっ、うん…。それより高内さん、俺、探している人がいるんだ。

「ん?誰を?」

「…林田美咲さんって知ってる?」

「えっ、アンタ林田のこと知ってんの?」

「うん…ずっと、かなり前からね。高内さん林田さんのこと知ってるの?!」

「知ってるもなんも、同じ部活の後輩だし。てか、アイツになんか用でもあんの?」

「うん、熱で大変だっただろうから元気にしてるかどうか気になって…あと、林田さんとはちょっと話したいことがあるんだ」

「ふ、ふーん…(この前からなんか様子変わったけど、今日の羽田はやけに林田にクイつくなぁ…今まで一度も林田のことなんか話題に出してこなかったのに何で急に…。まぁ別にいいっか。)林田なら今日も元気に来てたけど。『電車の中で羽田先輩を見失っちゃった~』って」

「ああ、だからは今日は林田さんの気配を感じなかったのか」

「ん?羽田ひょっとして林田が今までアンタをストーカーしてたの気づいてたわけ?」

「いや、気づいたのはついこの前なんだけど」

「ふーん…まっ、林田に用があるなら放課後来れば?茶道部だから。んじゃ」

(よかった…ご無事で何よりだ。あっ…美咲様の教室聞くの忘れたアァ!!)

……


 明日香は鷹志に変装した伽楼羅に疑惑の目を向けていた。


「確か美咲様がおられる部室は茶道部であったな」

「失礼します」

「…?」

「おっ、来たか羽田」


 伽楼羅は部屋を見渡す


「あれ…林田さんはいないの?」

「ああ、今ケーキの買い出しに行かせてんだけどそろそろ戻ってくるんじゃね?」


 高内の携帯が鳴る。


「あっ、もしもし林田、今どの辺?……アアァッ?道に迷った?!」

「…?!」

「あぁ、うん…わかった」


 高内は携帯を切る。


「ったく林田のやつ何やってんだよ、ホンット方向音痴だな」

「林田さんが道に迷ったって?!」

「あ、ああ…こりゃしばらく戻ってこないかもなー…まっゆっくりしていきなって」

「大変だ!」

「お、おいちょっと羽田?!」

「姫ッ!!」


 伽楼羅は一目散に走りだした。


「なんでアイツあんな焦ってんの?てか、姫?」


 その頃美咲は校舎の階段を急いで登っていた。


「よかった、何とか校舎まで辿り着けたぁ」


 伽楼羅も階段を降りようとしていたが、違う階段だったため、運悪く美咲とは入れ違ってしまった。

 美咲は慌てていたので部室の扉の前でこけてしまった。


「うわぁ!!」


 高内が扉を開けるとそこには落としてしまったケーキのクリームがかかった美咲が尻もちをついていた。


「林田ァ?!」

「ずびばぜん…急ぎ過ぎてケーキこぼしちゃいました……」

「うっわ…いやいやそれよりアンタ羽田と会わなかった?」

「えっ、羽田先輩?羽田先輩がいらっしゃったんですか?!」

「おうそうだよ。アンタに会いにわざわざ来てくれたんだっつうの!」

「は、羽田先輩が私に会いに?!えっと…えっと羽田先輩は今どこに?!(ああどうしよう…こんな恥ずかしいところ羽田先輩に見られたりなんかしたら…。)」

「はぁ?おま何言ってんの?羽田なら今出て行ったし」

「えっ?羽田先輩出て行っちゃったんですか?!」

「バーカ!あいつアンタが道に迷ったって聞いて慌ててアンタ探しに出てったの!」

「えええぇ?!は、羽田先輩が私を探しに…♡って、じゃあ羽田先輩は今頃!」

「その辺走り回ってんじゃね?羽田が林田探しに行って林田だけ帰ってくるとかマジありえねぇし!」

「うわああああ!!どうしよう!私、羽田先輩探しに行ってきます!!」

「ハァ?!おい林田このケーキ…ったくなんでアッシがこんなに振り回されんのマジありえねぇし!」


 伽楼羅は校庭に出たところだった。


「美咲様!!」


 校庭には誰もいない…はずだったが…?


「誰?美咲って……」

「ばふっ?!」

「アナタ、やっぱり羽田君じゃないよね?」

「な、何言ってるんだよ渡来さん…ほ、ほら見てよ、どこからどう見ても正真正銘の羽田鷹志だよ?」

「この前からおかしいとは思ってたけど…あの気弱で優しい羽田君が…あんな風に皆をまとめるなんて……」

「やだなぁ、委員長として当然のことをしただけだよ?信じてって」

「うっさい、羽田君の猿芝居すんなニセモノ」

「……」

「でも、顔と体は羽田君だよね。多重人格……なのかな?」

「ふん、そこまで見抜かれていたとは致し方ない。エセプリンセスのくせに小癪な真似を……」

「誰?」

「余はグレタガルドの王、現世での名は伊丹伽楼羅」

「伊丹……伽楼羅?」

「貴様のような下賤な者にこれ以上何も申すことはないが、分からないようなら教えてやろう」

 

 伽楼羅は自分の体に関することを明日香に話した


「どうだ、その小さなゴブリン脳にもわかるように説明してやったぞ」

「腹立つ言い方すんな。で、とっとと羽田君出してくれる?」

「貴様ごときに命令されようが聞く耳もたん」

「ふーん……殴るよ?」

「ふん、野蛮人め。これが学園のプリンセスとは笑わせる。ではもう一つだけ教えてやろう。ホーク・シアンブルー羽田鷹志は2度と戻らん」

「えっ」

「ホークもイーグルもファルコンも後からしゃしゃり出てきた不要の長物。この玉座は元より俺一人のもの。余が玉座に返り咲いた以上、2度と他の者に人格交代することはない!!」

「どういうこと……?」

「どういうことだと?この期に及んでまだ状況が理解できていないとは嘆かわしい。」

「ふざけんな…!鷹志を返せー!!」

「ぶべラァッ!!」


 明日香は伽楼羅に殴りかかる。


「無礼者め!貴様、王たる我に対して何と…ブヴォアァァ!!」


 明日香は倒した伽楼羅の顔を殴り続ける。


「あっ、アソコにいんの渡来じゃね?」

「えっ?」


 鷹志を追って走る美咲とそれを追う高内は窓からその状況を目にし立ち止まる。


「うわっ、誰かを押し倒して殴ってるし!」

「は…羽田先輩!!」


 美咲は再び走り出す。


「お、おい林田ァ!羽田だって?!」

「渡来さんに殴られてる人、羽田先輩でした!!」


 美咲が泣きながら高内と共に校庭に向かって走る。


「はぁ?!何で渡来が羽田を?」

「わかりません!でも早くしないと羽田先輩が!!」


「お願いだから帰ってきてよ!!」

「グアァッ!!」

「私まだ、君に言いたいこと…何にも言えてないのに!!」

「ドヴァアッー!!」


 明日香の涙が伽楼羅の顔に零れ落ちる。


「なのに…黙って消えちゃうなんて許さないから!!」

「クッ……」

「このォーーーーッ!!」

「止めろ渡来!」


 高内が後ろから明日香を取り押さえる。


「離してよ、放せ高内!!」

「バカ!これ以上やったら羽田死んじまうだろうが!!」


 高内が明日香を取り押さえてる間に、美咲が倒れている伽楼羅に駆け寄る。


「先輩!羽田先輩!!ひどい…こんなに傷だらけになって……」


 美咲が伽楼羅の傷ついた顔を見ながら泣きじゃくる。


「そもそもなんでアンタが羽田をこんなになるまで殴ってんだよ!」

「羽田君は、いなくなったんだよ……コイツのせいで!!」

「羽田がいなくなった?何言ってんだよ、羽田はここにいるじゃんか」

「ソイツは羽田君じゃない!羽田君と同じ体だけど、中身は全く違う人!!」

「っ?!」

「はぁ?いや、アンタ何言って……」

「鷹志の体から出てけ!この人でなし!!」

「お、おのれ……」

「は、羽田先輩?」

「貴様……たかがゴブリンの分際でこの俺に傷を負わせおって……許さんぞ!このクソゴブリンめ!!」

「は、羽田?!」

「うっ…!」


 伽楼羅は怒りに身を任せ明日香に殴りかかる。


「先輩!!」


 美咲は伽楼羅の体にしがみついて伽楼羅を食い止める。


「あっ」

「林田ァッ!」

「離せ!離さんか無礼者!俺の邪魔をするなアァ!!」

「止めてください先輩!」

「この俗人め!!」

「羽田先輩!!」

「俺をホークと呼ぶなアァァッ!!」

「っ…?!」

(回想)

「『伊丹伽楼羅』と申し上げます。」

(回想終了)

「私はどうなっても構いませんから…止まってください!伊丹さん!!」

「っ?!……美咲……様………」


 薄れゆく意識の中で美咲の名をつぶやき伽楼羅はその場に倒れた。


「伊丹さあああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」



「こ、ここは」

「あっ、気づきましたか?」

「美咲様?!うっ……」

「む、無理に動いちゃ駄目です!」

「貴女が…私を助けてくださったのですか?」

「い、いえ!私はなんにもしてません。ただ、伊丹さんの体に包帯を巻いてここまでお連れしただけです」

「それは何もしてないとは言えませんぞ」

「ああっ!そう…ですね」

「美咲様、お怪我はございませんか?!」

「えっ?いいえ、全然だいじょぶです!私なんかより伊丹さんが……」

「私は男ですが貴女はか弱いレディです。それに、もう少しで……私は貴女にまでこの手を振るってしまうところでした。どうか、後で何なりと制裁を……」

「気にしないでください。伊丹さんは悪くないです。私が道に迷いさえしなければ伊丹さんがこんな酷い仕打ちを受けることはなかったんですから」

「いずれやつとはああなっていたでしょう。バレルのが早まっただけのことです」

「どうして、あんなに羽田先輩と仲が良かった渡来さんが貴方を殴るようなことを……」

「私だから殴ったのですよ」

「えっ?」

「美咲様、少し長くなりますが、貴女には我々の秘密を知っていただく必要があります」

「羽田先輩や伊丹さんの秘密…ですか?」


 伽楼羅は明日香に話したのと同じことを美咲にも話した。

「多重人格性障害……。羽田先輩はそんな大変な病気を抱えてらしたんですか。でも、自分の中にたくさんの人がいるってなんだか楽しそうです!」
「何が楽しいものですか。私にとって後釜をとった弟たちは忌々しい存在でしかありません。しかし姫、貴女はホークが戻らぬ存在となったというのに悲しくはないのですか?」

「えっ」

「姫は私でも他の者達でもなくホークを好いておられたのですな?ホークの女はやつが帰らぬと聞き大変悲しんでいたようですが……姫は何故悲しまれないのですか?」

「はい……。勿論私が恋愛をしてしまった方は羽田先輩です。でも、多重人格性障害ということは例え名前や性格が全く違う人達だとしても、それは一人の人間が持つ多数の人格にしかすぎません。ですから、そういう解釈をすると羽田先輩や伊丹さん、それから私の知らない千歳さんや成田さんも名前と性格が違うだけで実際はみんな同じ人なんです」
「それはまぁ確かにそうとも言えますが……」

「伊丹さんたちはご存じないかと思われますが、私は実のところ羽田先輩と会話らしい会話をさせていただいたことがありません。羽田先輩に声をおかけしようと何度もチャレンジしてみたんですが、羽田先輩と渡来さんがあんなに仲睦まじくしている所を見るととてもそんな勇気が出せなくて…。結局、羽田先輩に名前すら覚えてもらえないまま別れを迎えるところでした。でも、図書館で伊丹さんが私を怒鳴りあげてくださったおかげで、無事に名前が告げられました」

「も、申し訳ありません。あの時はてっきり私を闇討ちするために敵国が差し向けてきた殺し屋かと思い、それがまさか姫だったとは夢にも思いませなんだ。ご無礼をお許しください。それにしても姫、本当によろしいのですか?私が玉座についている以上、2度とホークが日の目を見ることはありませんぞ?」

「さっきも言ったように、私は羽田先輩に声もかけられない臆病な子なので渡来さんのように羽田先輩の人格でなければいけないなんて言える余裕は全然ありません。せめて名前だけでも覚えてもらえればそれでいいと思ったぐらいです。ですから今こうして貴方とお話ができているというだけでも、夢みたいにこれ以上ないぐらい幸せなことなんです」

「美咲様…貴女はどこまで健気な方なのだ……」

「私にこんな人生で一番幸せな時間を与えてくださった伊丹さんは、私にとって神様のような人です。そんな大切な人を否定したりなんか絶対にしません!私は…羽田先輩や伊丹さんたち全てを含めた『貴方』という人が…宇宙で一番大好きです。この暖かい体により沿ったまま、時間が止まってしまえばいいのにと、何度も思いました……」

「美咲様、私の胸でよければ…いつでもお貸しします」

「っ?!……伊丹さん……泣いても…いいですか?」

伽楼羅「悲しみの涙でないなら、どうぞご自由に」

美咲「伊丹さん…!!」


 伽楼羅の胸の中で、美咲は枯れ果てるまで涙を流し続けた。

 そして伽楼羅は前世の自分たちの姿を思い浮かべる。


「ガルーダ様……貴方のその気高き剣で、どうかこの胸を刺し貫いてください。苦しいのです…貴方のことを思えば思うほど、この心臓の痛みが治まりません。貴方のことを愛してしまった私には、もうこの痛みに耐えられません。せめて…私の血を貴方の為に捧げさせてください…愛しき王ガルーダ様……」


 ガルーダの剣はリンダの胸を刺し貫いた。だが、ガルーダの剣はリンダだけではなくガルーダ自身の胸も刺し貫いていた。


「ガルーダ様…どうして……」

「姫、私は貴女の穢れなき心に自分の心を奪われました。ゆえに、私もあなたと同罪です。これで…やっと貴女と二人っきりになれる……。リンダ、貴女はもう十分苦しみました。決して貴女に心細い思いはさせません。私も逝かせてください…愛する貴女と共に…永遠に……」

「ガルーダ様……♡」

「(美咲様…貴女と小鳩様は、この命に代えても必ずお守りいたします。)」


 その時、伽楼羅の携帯が鳴り始める。


「っ?!」

「美咲様、私の懐から携帯を取り出していただけますか?」

「は、はい!えっと…鳳…翔さん?」

「フェニックス?」

「鳳さんって、タマちゃんがお仕事してる喫茶店によく来てた背の高い人かな?」

「姫、フェニックスをご存じなのですか?」

「ええっと…直接お会いしたことはないのでどのような人なのかはわかりませんが、雑誌などに載ってるのも見たことあります。あと、友達がお仕事している店によく来てました」

「ほぅ、美咲様のご友人がフェニックスと…ん?フェニックスがよく来る喫茶店…まさか……」

「伊丹さん?どうかしました?」

「いえ、なんでもありません。にしても、美咲様が我が友を多少なりともご存知とあらば、せっかくですから今回のフェニックスからの通達は美咲様が承ってください」

「えっ?!でも、鳳さんは伊丹さんに電話したのに他人の私が出ちゃったら、鳳さんびっくりしちゃいませんか?」

「他人ですと?何を申されるか姫。既に私と貴女は互いを分かち合った恋人同士ではありませんか」

「こ、恋人…?!」

「我が友に後の我が妃様を紹介するいい機会です」

「お…お妃様…♡……伊丹さん…そ、そんな、いくらなんでも気が早すぎです!なんだか、胸だけじゃなく下腹部まで痛くなってきちゃいました…。あっ、そうだとにかく早く出ないと!」

「(しかし、なぜフェニックスが俺の携帯の番号を…。そうか、確か昨日…。)」

(回想)

「はい」

「それは…俺の携帯ではないか!!フェニックス貴様いつの間に!!」

「まぁまぁ、伽楼羅の携帯に俺たちの番号登録しといたから、それでいつでも命令してきてよ」

(回想終了)

「伽楼羅、あ・そ・ぼ♪」

「えっと…鳳さん…ですか?」

「アァ?誰だお前」

「あぁ…私はそのぉ……伊丹さんの彼女です!なんて…」

「ハァッ?てめ…舐めたこと抜かしてんじゃねぇぞクソ天!」

「ひいぃぃっ…?!」

「フェニックス!貴様姫に対してなんと乱暴な言動を!この無礼者め!!」

「あっ、伽楼羅」

「グッ…!」

「伊丹さんそんなに叫んだら傷口が…!」

「なんか苦しそうだけど…どうかしたの?」

「フェニックス…今宵の戯れは悪いが私は同行できそうにない…つい先ほど敵の襲撃を受け、思わぬ深手を負った」

「なにっ?!……誰にやられた?」

「ホークの女だ。お前には関係のない相手であろう」

「今どこにいる」

「ルシラドグモスの幼虫の中だ…」

「電車か…待ってろ、すぐに迎えに行く」


 翔は電話を切る。


「美咲様…フェニックスのご無礼をお許しください…私のしつけが足りなかったようです」

「いえ!私が軽はずみなことを言ったばかりに鳳さんを怒らせてしまったんです」

「フェニックスめ……姫に恥をかかせおって…!」

 伽楼羅と美咲が駅から出てくると同時に翔のワゴン車もそこに到着する。


「伽楼羅!」

「おのれフェニックス!貴様姫を罵倒したな!!」


 翔は伽楼羅に付き添う美咲の姿を見て唖然とした。


「あっ……」

「あぁ…本当だったの…」

「この方をどなたと心得る!『ライトエメラルド家』の姫君であり、第一王位継承者、リンダ・ライトエメラルド様で在らせられるぞ!」

「い、伊丹さんの介護をさせていただきました、林田美咲です!」

「どうもー、伽楼羅の友達の鳳翔でーす」


 翔が笑顔の棒読みで自己紹介する。


「ど、どうも」

「ん?お前……」

「フェニックス!姫に対してお前とは何事か!」

「……キミ、ひょっとして玉いず…いや、別にいいか…。まぁ、ここまで伽楼羅送ってきてくれたんだし、一応感謝しとくよ」

「あっ、はい」

「んじゃ伽楼羅、行こっか」

「うむ。姫…明日またお会いしましょう」


 伽楼羅は美咲の手を取り指にキスをする。


「っ…?!♡……伊丹さん…」

「美咲様…」


 伽楼羅は車に乗り込み、美咲に優しく微笑む。


 美咲は頬を赤らめ伽楼羅にキスされた手を取り目を潤ませる。


 伽楼羅を乗せた翔のワゴン車が去っていくのを見て思わず美咲は引き返すはずもない車に手を伸ばしてしまった。


「私のバカ…これ以上何を求めようと……」

「伽楼羅ってああいうのが好みなんだ」

「驚いたか?」

「うん、かなり意外」

「別に驚くこともあるまい。あれほど美しい方はグレタガルドでも二人とみることはできんぞ」

「でも普通すぎない?なんつぅかその…インパクトに欠けるっていうか…田舎っぽいつぅか。伽楼羅って意外と純情派なんだね」

「当然だ。私は命を懸けてお守りしたいと思える女性でなければ女として認めん」

「伽楼羅って自分自身は超特急並にぶっ飛んでるのに女の好みは鈍行なんだね」

「それは褒め言葉か?もしそうなら20点もやらんぞ」

「別に悪いとは言ってないじゃん。それに伽楼羅が選んだ女だ、俺も興味あるよ」

「ひ、姫はやらんぞ!美咲様は私の妃になられる方だ!誰にも渡さん!」

「誰も盗るなんて言ってないじゃん。で?もうS○Xしたの?」

「いや、少々詰まる話をしていたのでな。まだ性交はさせていただいておらん」

「ヤるんなら…2、3発は吹かせときなよ」

「うむ、早く美咲様と射精がしたいものだ」