俺たちに翼はない~AnotherStory~(アナザーストーリー)
?「合わせ鏡が無限の世界を形作るように、現実に起こる運命も一つではない。同じなのは愛という惰弱な欲望のみ。」
?「あの男、ホーク・シアンブルーにも本当の真実へは辿り着けなかった。所詮あの男の心の目には、渡来明日香の姿しか映っていなかったというわけだ。だが、アイツは今最も真実に近づいている。いや、近づきすぎた。」
?「ガルーダ・ダークブラック。やつは今まで誰一人として知り得なかったウイング・ザ・ワールドのもう一つの真実を既につかんでいた。プリンセス・リンダという、時の歯車の存在を。ガルーダはあの小娘と心を重ね合わせることで、完全にその心を掌握した。ホークにも成し得なかったことを、いとも簡単に成し遂げた。急がねば…このままでは歯車の回転が巻き戻らなくなってしまう!」
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伽楼羅「姫、先ほどのようなことが二度と起こらぬよう、くれぐれも単独行動は控えてください。」
美咲「い、いえ、一応クラスメイトの人と一緒に来たんですけど。」
伽楼羅「あのようなチャラけた者と一緒にいては姫に悪影響です。正直、私にとって貴女と行動を共にするということはデートなどではなく護衛なのです。」
美咲「…それでもいいです。理由はどうあれ、伽楼羅さんが私の傍にいてくださるのなら、私はそれだけで幸せですから。」
伽楼羅「美咲様……貴女はどこまでも愛らしい方だ。」
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美咲「高内先輩に伺ったんですけど、羽田先輩ってゲームがすごくお好きなんですよね。」
伽楼羅「ええ、ホークの部屋にそれらしい物がいくつか積まれていたのでどうやらそのようですな。」
美咲「でも、人格が違うってことは、趣味や好きな食べ物なども違ったりします?」
伽楼羅「ん~、好きな食べ物ですか……真っ先に食べたいものと言ったらワニですが」
美咲「わ、ワニ?動物の、ワニですか?」
伽楼羅「ええ、大きな川などに住んでいる巨大な顎で相手を丸のみにする肉食動物の…」
美咲「わわわ、ワニって食べられるんですか?!」
伽楼羅「勿論ですとも、これでも戦に出陣したときに川のワニを狩って食したものです。」
美咲「か、伽楼羅さんってワイルドですね、カッコイイです!えっと…じゃあ、その…趣味の方は」
伽楼羅「趣味……趣味というのは自分が常日頃から好んでしていることを言うのでしたね。私が好んですることと言えば何と言ってもやはり争い事ですが……特に何事もない今に至っては、そうですね。美咲様にご一緒させていただくことでしょうか。」
美咲「はぁ~……♡」
伽楼羅「姫?」
美咲「ほへへぇ~……♡」
美咲がのぼせ上がった顔で伽楼羅を見つめる。
美咲「でゅふふふふ……♡」
伽楼羅「あの、美咲様?聞いておられますか?お気は確かですか?」
美咲「はー……しゃーわせー……♡………♡あ、はいっ、聞いてます!」
伽楼羅「私の使命は、貴女を無事に城まで送り届ける事だけなのですが、どこか、行きたい場所などはありますか?」
美咲「えっと、いいです、伽楼羅さんにお任せします!」
伽楼羅「いえ、ですから姫の行きたい場所をと」
美咲「エッ!」
伽楼羅「(姫はなぜ顔を赤らめておられるのか。)」
美咲「え、えっと……その、とくに誰っていうわけではないんですけど……真面目で優しくて、誰かのために一生懸命になれるひと、とか素敵だなってエヘヘヘヘヘ……♡」
伽楼羅「然様ですか。(その中に私は含まれているのだろうか……)」
美咲「なんて、きゃあああ恥ずかしー恥ずかしー!うそです、いまの忘れてください!まだ早かったです!時期じゃななかったです!」
伽楼羅「まったく恥ずべき事ではありませんよ。残念ながら、世間では他人のそれを恥ずかしいと呼ぶものもいますが、少なくとも断じて私はそのような人間ではありません。私は恋をした方には偽りのない純白の心をもって愛を打ち解けていきます。ですから、貴女も私の前では何も偽る必要などありません。」
美咲「がる゛ら゛ざんーーー……!」
美咲は伽楼羅に泣きつく。
伽楼羅「美咲様、どうか泣かないでください…貴女が涙を流して誰よりも悲しいのはこの私なのですから。そうだ、ゲームと言えば美咲様は我が国グレタガルドについて知りたくはありませんか?」
美咲「えっ、あっはい!私も詳しくなりたいんです。ご指導よろしくお願いいたします。」
伽楼羅「まるで夢のようです。こんなに幸せな時間は。」
美咲「へっ?何かおっしゃいました?」
伽楼羅「いえ、ただの独り言です。」
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美咲「わー、いっぱいありますね。」
伽楼羅「美咲様はゲームショップという場所に訪れるのは初めてのようですね。そういう私も、ホークがよく通っていたとはいえ、こんなところを訪れるのは初めてのことですが。」
美咲「伽楼羅さん伽楼羅さん。」
伽楼羅「ん。どうなさいました。」
美咲「ふふふ、見てくださいこれ『シュミレーション』ですって。間違っちゃったんですね、ふふふ。」
伽楼羅「んん……(わからん、さっぱりわからん。だが美咲様の為にあのソフトを一刻も早く探し出さなければ。ホークの記憶をたどっていけば必ず見つかるはずだ。)」
美咲「伽楼羅さん伽楼羅さん。」
伽楼羅「ん。今度はどうなされた。」
美咲「これどんなゲームです?」
きらきら輝く瞳の先には、一本の名作タイトルがあった。ヒマワリ畑をバックに、美少女たちの色めく笑顔が咲いている。
伽楼羅「ああ、それはですね……(これではない。だが姫が興味を持っておられるのなら説明せざるを得まい。ん?なんだ。いま何とも言えない既視感のような……まえに誰かとこの場所へ来たような……いや、私の記憶でないことは確かだ。だが…ん。これは……美咲様?!)いや……そんなばかな。」
美咲「伽楼羅さん?どうかしたです?」
伽楼羅「姫、前にも一度、ここへ来たことがありませんか?そう。私ではなく、例えばホークと共に」
美咲「えっ?今日来たのが初めてですけど……それに羽田先輩とご一緒に来れたらそんなの忘れるわけありませんって!一生の思い出に残りますよ。」
伽楼羅「ですよね。今のことは忘れてください。(いや……だが確かに今)」
美咲「わー、RPGゲームだー。」
伽楼羅「んん、惜しいですね。ロールプレイングゲーム、略してRPGですから、それではRPGGになってしまいますね。(口に出しながらその言葉の意味は全く持ってわからないが、とりあえずホークの記憶を頼りに美咲様に解説するしかない。)」
美咲「あ、そうなんですね。でも私、そのRPGGゲームなら、ちょっと分かりますよ。」
伽楼羅「ほぅ、美咲様もご存じなのですか?」
美咲「分かりますよー。すっごい有名なのあるじゃないですか。なんです、あの……ウイング、ウイング・リクエスト……?」
伽楼羅「グッ?!」
美咲「か、伽楼羅さん?どうなされたんです?」
伽楼羅「い、いえ……ホークの記憶が何故かそのゲームの存在を否定しているようなのです。」
美咲「すすすみません知ったかぶっちゃいました!で、でもニアピンだと思うです。ゲームにお詳しい羽田先輩の記憶にはありまんか?似たよーな名前のちょお有名なゲームあったと思うんですけど……鳳さんからも確かに聞いてますし。」
伽楼羅「ん~確かにそれはおかしいですな。ホークがもしそれを知っていて私がその記憶を読み取ることができないとなると、ホークがその記憶を忌まわしく思って心の奥底に封印した可能性が高いですな。姫、さきほどフェニックスの奴からもそのゲームについて聞いたと仰っていましたね?少しの間、お時間をいただけないでしょうか。」
美咲「えっ、ああはい。」
伽楼羅が翔に電話をかける。
伽楼羅「おいフェニックス、ウイング・リクエストという名前に聞き覚えはないか。」
翔「ウイング・リクエスト?ああはいはい、ウイング・クエストね。伽楼羅がいつも言ってるグレタガルドの世界をゲームにした感じのRPGだよ。」
伽楼羅「そうだ、私が探していたのはそれだ!」
翔「え?」
伽楼羅は唐突に通話を切る。
伽楼羅「姫、貴女の仰っているゲームが分かりましたよ。」
美咲「ほ、ほんとですか?!」
伽楼羅「ウイング・リクエストというゲームはありませんが、ウイング・クエストという名のゲームならありますよ。」
美咲「ああそうですそうです、ウイング・クエストでした!」
伽楼羅「実は我々が目的にしているソフトもそれなのですよ。」
美咲「ああ、そうだったんですか。」
伽楼羅「ですがたったいまネットで調べたところ、そのゲームは至って古く、既に廃版となっている模様です。」
美咲「へぇ~……ってじゃあここには売ってないんですか?」
伽楼羅「残念ながら…今日のところはこれで見納めのようです。ん?」
そのとき伽楼羅は、PS4の列に置かれているある無双ゲームのパッケージに目が止まった。
伽楼羅「な、なんだ……この、この不思議な感覚は……なぜだ…どうして…」
伽楼羅「どうしてこんなに血が騒ぐんだああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
美咲「か、伽楼羅さん?!」
伽楼羅「グボアアアアアアアアアアアア!!……ライダー……変身ッ!!」
↓
その後、店を出た伽楼羅は美咲とまっすぐ風見ヶ丘へ帰った。目的のものは手に入らなかったものの、結局その某ヒーローの無双ゲームを買って、お茶の一つもせずに解散という味気ない幕切れだった。
伽楼羅「いやしかし、あの別れ際の美咲様の笑顔の何たる神々しいことよ。」
(回想)
美咲「私、今まで何度も何度も伽楼羅さんと一緒に過ごす時間を想像してたんですけど、どの想像よりずっとずっと楽しかったです。」
伽楼羅「美咲様……」
美咲「舞い上がっちゃってぜんぜん喋れなくてすみませんでした。でも楽しかったです。ありがとうございました。」
伽楼羅「美咲様!」
伽楼羅は美咲を抱きしめる。
伽楼羅「美咲様、私にとって貴女といられる時間は、貴女が思っているよりもずっとずっと幸せでした。もはや貴女の存在は、護らなければならない方を超えて、私の生き甲斐となってしまっていたのです。たとえまた明日会えると分かっていても、この手を絶対に話したくありません!」
美咲「伽楼羅さん……私も貴方と離れたくありません、ずっとずっと伽楼羅さんの傍にいたいです!ずっと私の傍にいてください!」
美咲は涙を流しながら伽楼羅と別れをただひたすら嘆いた。
伽楼羅「私はいつでも貴女のお傍にいます。だから、貴女ももう私の傍からいなくならないでください。」
美咲「伽楼羅さん……!」
伽楼羅「美咲様……!」
美咲「明日も、また会えますよね……」
伽楼羅「会えますよ……明日も、その先も、何年たっても、ずっと…永遠に。」
(回想終了)
伽楼羅「いいものだな、人間の情愛というものは。」
↓
夜の街を歩いていた翔は黒づくめの男たちに囲まれた。
黒づくめA「フェニックス・フレアゴールド『鳳翔』だな。」
翔「おまえらあのときの……!」
?「クックック……久しぶりだな、フェニックス。」
翔「お前は!?」
翔と同じく、伽楼羅も白服の男たちに囲まれていた。
伽楼羅「翼人兵か。」
白服B「『伊丹伽楼羅』だな。」
伽楼羅「だったらどうするというのだ。」
白服の男たちは伽楼羅に銃口を向ける。
伽楼羅「ここで俺を殺すか?」
白服B「いや、大人しく我々と同行してもらおう。」
伽楼羅「なに?さっきとは話が違うではないか。」
白服B「少し事情が変わった。皇帝から貴様の身柄を差し出すように命じられたのでな。」
伽楼羅「皇帝だと?貴様らは誰の差し金だ。」
白服B「ついてくれば分かること。」
伽楼羅「王であるこの俺に貴様らごとき雑兵が指図しようというのか。」
白服B「従う気がないなら多少手負いにしようが構わんとも言われている。手を上げろ!」
伽楼羅「ぬふん……」
伽楼羅は両手を上げた素振りを見せて即座に袖から玉を取り出す。
白服B「っ?!」
伽楼羅「必殺『シャイニング・アウトサイダー』!!」
白服B「ぬあっ!?閃光弾……!」
伽楼羅「ふっ!」
白服「ぐはっ……!」
まばゆい光の中、伽楼羅は白服の男たちに背中から不意打ちをかける。
伽楼羅「モンキホーテという店で調達した光の玉がこんなところで役に立つとはな。」
伽楼羅は白服の胸元に刻まれたマークを目にする。
伽楼羅「翼の生えた竜の紋章。やはり奴らか……森羅万象の二枚羽根!」
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同じころ、静まり返った繁華街に群がった白服たちも翔によって倒されていた。
翔「おい下衆ども、やつはどうした?」
黒づくめB「……」
黒づくめの男たちは気を失っていた。
翔「チッ、逃げたか。」
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?「なに?ガルーダの身柄さえも持ち帰れなかっただと。」
白服C「はっ、何分やつは我々の想定外の実力で……」
?「言い訳などいらん。無様だな、そんなことではあのお方に顔向けできんぞ。」
白服C「も、申し訳ありません!」
?「俺に謝るぐらいなら姫に詫びろ。だが、流石は万色の四枚羽根最強とうたわれた賢者王ガルーダ。少しばかり期待したが、おまえら程度の力では手に余るのも無理はあるまい。よかろう、やつにはこの俺が直々に引導を渡してくれるわ!」
白服C「皇帝自ら出向かれるのですか!?」
?「全軍に伝えよ、明日の同じ時間、総攻撃をかける!」
皇帝と呼ばれる男は、額縁に納められた幼き少女の写真を見つめる。
?「姫……貴女を真にお守りするのは、我らだけで充分だということを今こそ証明してみましょう。」
↓
~翌日~
針生「なあ陛下、アンタの中にはあと3人の人格が眠ってるんだったか?」
伽楼羅「グレタガルドの王であることを捨てた我が父、コンドル・シアンブルーを除けばな。」
針生「ほう、もう一人いるのか。ホークにファルコン、それから俺がまだ出会っていないイーグルにコンドルか。その深淵にはあとどれぐらい眠ってんだい?」
伽楼羅「ん~……おっと、もう一人忘れていた。」
針生「ん?」
伽楼羅「終の子。いつ誕生していたのか、玉座にも座らずずっと我が心の奥底で我らを監視し続けてきたもの言わぬ謎の存在。私はその者が、奈落にいつ再び起こるかもわからぬ風を起こしてくれたことにより、この現世へと舞い戻ってくることができた。やつには我々に想像もつかないほどの大いなる力が備わっていることは確かだ。お?おい、聞いているのかレイヴン。」
針生「聞いてるよ。とにかくアンタの中にはまだまだ俺たちには理解しがたいものが数多く存在するってことだな。その解明にかける時間なら惜しくねぇさ。」
針生は教室から出ていく。
伽楼羅「さてと、俺もそろそろこの地を去るとするか。また校門の前で姫が待っておられるかもしれんからな。」
伽楼羅が教室を出ると、一人の同級生が声をかけてきた。
山科「言えないって辛いよね。」
伽楼羅「ん?」
山科「少しでも楽になりたくて、誰かに聞いてもらいたかったりするけど、そのことで疎まれたり煙たがられたりするのが嫌で、結局自分の中に押し込んだままにしちゃう。それって単純計算で2倍以上苦しいと思うんだ。つまりね、私も人に言えないものを抱えているから、大丈夫だよってことかな。」
伽楼羅「俺の正体に気付いているのか?ぬふん、貴様は確か…」
山科「京だよ。山科京。」
伽楼羅「ああそうか思い出したぞ。貴様は確かホークの作り出したまやかしのグレタガルドの世界で、『スパロウ』と呼ばれていた女だな。」
山科「えっ。」
伽楼羅「貴様も俺の…いや、我々の秘密について知りたいというのだな?」
山科「無理に聞き出す気とか全然ないよ。そうだね、あの朝、羽田君が何でもないような声で、私に話してくれたのが嬉しかったから。そのお返し…かも。」
伽楼羅「然様か、今の言葉はホークの霊前に供える言葉として受け取っておこう。」
山科「やっぱり、羽田君はもう出てこないのかな?」
伽楼羅「今の私には生への執着に加えて、2人の護らなけれならない方がいる。貴様とエセプリには残念だろうが、この体を今一度弟たちに明け渡すつもりなどもうとうない。だが、俺とて人の上に立つ者。穢れなき心を持つ民のわずかな願いを聞き入れてやるのも王の務め。貴様が今知りたいことを話してやってもいいぞ。」
山科「多重人格について?」
伽楼羅「貴様が俺に服従し忠誠を誓うと約束すればの話だがな。」
山科「ふふっ、面白そうだね。」
伽楼羅「微笑は肯定と認識するが異論はないな。貴様には俺から正式に名を与えてやるとしよう。今日から幻惑の妖術師『スパロウ・アメジストピンク』と名乗るがいい。では、姫が待っておられるかもしれぬゆえ、俺はこれにて失礼する。」
山科「あれ、多重人格については……?」
山科の近くには既に伽楼羅の姿はなかった。
米田「ちゃーす、お茶しに来ました。あ、あっ、あれ、誰もいないの?」
?「す、すみません!いらっしゃいましゅウェ…!」
米田「だ、大丈夫?」
伽楼羅「姫、お怪我はありませんか?」
アレキサンダーの服に身を包み足を滑らせた美咲を鷲介に成りすました伽楼羅が支えていた。
狩男「おいおい、大丈夫か林田君。まったく、気を付けてくれよ。従業員規則にもあるだろ、女性スタッフに限り、転倒する際は雌彪のポーズ。尻もちをついてM字開脚をしてもらわないと困る。」
伽楼羅「(誰がさせてたまるか。)」
鷲介「マスター、困りますね~この方の前で下ネタ発言すんのは。美咲さんはお見た目通り高貴で上品なイメージで通ってるんですからそこんとこ考慮した上で話しかけてくんないと…ねぇマスター?」
狩男「しゅ、鷲介、顔…怖いぞ。」
美咲「ああ…すみません店長さん、そんな目も葉もない冗談で、失敗した私を元気づけようと……」
鷲介「美咲さんも納得しないでください!」
米田「あの、新人バイトちゃん?」
美咲「……?」
米田「狩男セクハラ発言の行間にそんな心温まる配慮は込められてないと思うよ?」
鷲介「そうそう、気を付けてくださいよ、この店の連中は何してくるかわかったもんじゃないですからねー。」
狩男「おおう、言うじゃないか。どうした、丁度今から乱れ酒、パクッ!女だらけのM字満開フェスティバルが開催されるところだ!早くエントリーを済ませて来い。」
米田「今日は千歳君以外の姿がないみたいですけど?」
狩男「ああ、彼女らなら今日明日とオフだ。なんでも、温泉旅行が当たったとかでな。」
米田「へぇ、温泉。あっ、でもいくら千歳君がいるっていってもまとめて休まれてはお店大変でしょ。よく許可だしてあげましたね。」
狩男「ああ、うん、まっ、こうして玉泉君の友達がヘルプに入ってくれたことだし。それに、望月君らは日ごろよく頑張ってくれている。こういう時くらい、ゆっくり羽を伸ばしてくれんとな。」
米田「先輩も意外といいとこあるんですね。」
狩男「鷲介も本当は行きたかったんじゃないのか?玉泉君から誘いがあったんだろ?」
米田「あら、じゃあなんで千歳君は行かなかったの?せっかくの機会だし行けばよかったのに。」
鷲介「何言っちゃってるんですか、俺別に日ごろからそんな疲れるようなことしてないですよ。それに、美咲さん一人にヘルプ任せるなんて不安で仕方ありませんよ。マスターが美咲さんにちょっとでもおかしなことしないか心配ですしね。」
狩男「失敬な!俺がそこまで卑劣な男に見えるか。」
鷲介「ええ、とても。」
米田「千歳君、えらいその子の肩持つんだね。」
狩男「そうだぞ、玉泉君というものがありながら、浮気か鷲介!」
鷲介「はい?そりゃあもう新人アルバイトのお世話をさせていただくのは先輩として当然の務めでしょうよ。俺だって日和子さんに手ほどきしてもらった上でここまで成長できたんですから。」
狩男「んんん……まあ言われてみれば一理あるが。」
鷲介「でしょでしょ?とにかく、美咲さんのことは森羅万象この俺、千歳鷲介に任せてください。ですよね、美咲さん。」
美咲「かる…じゃなかった、千歳さんには本当にご迷惑ばかりおかけして本当にすみません……」
鷲介「いいんですよ、例え何があっても、俺が貴女を必ずお守りしますから。」
鷲介(伽楼羅)は美咲の手を取り目を潤ませる。
美咲「伽楼羅さん……」
伽楼羅「姫……」
美咲の目から涙があふれ出しそうになる。
翔「ちぃーす。」
米田「あっ翔。」
狩男「ん?翔、おまえ望月君たちと一緒に温泉旅行に行ったんじゃなかったのか?」
翔「そのはずだったんだけどさあ、友達に呼び出されちゃって。だよね、鷲ちゃん。」
鷲介「翔君遅いよ。」
翔「ごめんごめん。あれ、美咲ちゃんも一緒なの……」
狩男「み、美咲ちゃん……!?(小声)」
美咲「ど、どうも、タマちゃんの代わりにお手伝いさせていただいてます。」
米田「翔もこの子と知り合い?」
翔「まぁね。」
↓
翔「でも驚いたなぁ、昨日あんなことがあったのにまたこの店来てるなんてね。」
伽楼羅「私もできる限り止めはしたのだが、美咲様に、どうしても友人の為に一肌脱ぎたいと押し切られてしまってな。」
翔「で、なんで俺だけじゃなくて全員呼んだの?」
伽楼羅「二度とあんなことにはならぬよう、我々の全身全霊をかけて姫をお守りする。」
翔「だからってなにもYFB総動員で護衛しなくったってよかったんじゃない?」
伽楼羅「愚か者め、プリンセス・リンダは本来なら何万もの兵達に護られていたのだ。これではまだ少なすぎるぐらいだ。姫の半径2m以内に近づく者はその場で冥界送りにしてくれるわ!」
チケドンが煙草を吸おうとすると伽楼羅が即座にそれを取り上げる。
チケドン「ちょっと成田っち~、なにすんのお~!」
伽楼羅「姫の前でタバコを吸うな!」
チケドン「なんでよ。」
伽楼羅「貴様、世継ぎの寿命が短くなったらどう責任を取るつもりだ?」
チケドン「世継ぎって誰の?」
伽楼羅「貴様の目の前にいるではないか。」
バニィ「隼人先輩、気が早すぎっすよー。まだ一週間も付き合ってないんでしょ……あれ?」
美咲「はいカプチーノですね。」
美咲が客の注文を聞きまわっていると……
美咲「あっ」
伽楼羅が何食わぬ顔で客席に座っていた。
美咲「ああ、あの…ご注文は」
伽楼羅「姫の愛を、Mサイズで。」
美咲「えっ?!ああ、ええっと……じゃあ……」
狩男「ん?……なっ!?」
翔「はぁ?」
美咲は伽楼羅の頬にキスをする。
狩男「ままま、マーベラーーーーーーーーーーーーーース!!」
美咲「伽楼羅さんは私に言葉では感謝しきれないほどのことをしてくださったのに、私にはこれくらいしか伽楼羅さんにしてあげられることがなくて、本当にごめんなさい……」
伽楼羅「貴女はそのままでいいのですよ。貴女が何もしなくとも私が丁重に貴女を導いてみせますから。」
翔「伽楼羅伽楼羅。」
伽楼羅「お、おいフェニックス…!」
翔が伽楼羅を引き戻す。
翔「こんなとこでまでナンパしないでよ。それより、まさかお姫様のお守りするためだけに俺たち呼んだわけじゃないよね?例えばそう……昨日の白服たちの話とか。」
伽楼羅「フェニックス、どうやら俺の恐れていたことが現実になってしまったようだ。」
翔「この前言ってた『大いなる聖戦』ってやつ?」
伽楼羅「その通り。」
翔「あの白服たち……いや、そっち的に言ったら翼人兵か。俺たちがガキの頃流行ったウイングクエストの設定でも、翼人兵はあくまで敵国の雑兵集団としか語られてなかった。」
伽楼羅「ゲームとは最後に倒すべき『ボス』という存在を打ち取ることでクリアできるのだったな。貴様らの言うウイングクエストというゲームは、何を倒せばクリアできるのだ。」
翔「それが意味不明なんだよね。ひたすら翼人兵や魔物倒しながら捕まった仲間助けるゲームで、ある程度の翼人兵を追い払ったらそれで終了。特にラスボスと言えるような奴なんていなかったんだよね。」
翔「ああ、そういや伽楼羅はウイングクエストの設定知らないんだっけ。天空から突如襲来した魔空旅団『翼人兵』。グレタガルドを護るため賢者王ガルーダ達『万色の四枚羽根』が立ち上がり、翼人兵に立ち向かうも圧倒的な戦力差で全滅させられ、グレタガルドは滅んだ。ってとこから始まるんだけどね。」
伽楼羅「バカな!グレタガルドが滅んだだと!?そんなバカなことがあるものか、確かに俺は降りかかる翼人兵たちを倒し、敵国を撃ち落とした。逆に滅んだのは奴らの方ぞ!」
翔「まあ落ち着いて聞いてよ。奈落に落ちた万色の四枚羽根をプリンセス・ダヴの力で解放しようとしたんだけど、一人蘇らすのが限界で、その一人にホークが選ばれた。その後ホークが主人公になって、捕らわれの身となった残りの三人を助け、皆で力合わせて翼人兵たちを追い払いましたとさ。はいめでたしめでたし。」
伽楼羅「なぜそのゲームではグレタガルドが滅びたことになっているのだ。俺は確かに幾多の犠牲は払ってきたが、この手で敵国を滅ぼしたのだぞ。」
翔「伽楼羅はそれからどうしたの。国に無事帰ってこれたの?」
伽楼羅「いや、敵の主君を打ち取ったと同時に私は力尽き倒れ、結局捕らわれの身となり再びグレタガルドへ舞い戻ることはできなかった。」
翔「じゃあその後なんじゃない?グレタガルドが滅ぼされたのは。」
伽楼羅「なに!?ということはまさか……」
翔「伽楼羅が相手の大将首取ったことが事実だとしても、もしウイングクエストのグレタガルドみたいに残存勢力が残っていたとしたら」
伽楼羅「その残存勢力がグレタガルドを滅ぼしたというのか。」
翔「違う?無理やりつじつま合わせようとしたらそうなるけど、結構いい線いってるんじゃない?」
伽楼羅「元々我が軍の戦力は敵国の30分の1以下しかなかった。例え残存勢力とはいえ、翼人兵たちの数は尋常ではなかろう。ゆえにグレタガルド最強にして万色の四枚羽根の筆頭であるこの賢者王ガルーダ無きあとのグレタガルドを滅ぼすことなど造作もないはずだ。」
翔「びっくりするぐらい繋がったね。」
伽楼羅「俺亡き後そんなことになっていたとは……やはり相手が悪すぎたようだな。」
翔「伽楼羅が敵国を滅ぼしたって言ってたよね、その敵国ってのがなんなのか教えてよ。」
伽楼羅「貴様もその戦に参加していたであろう。」
翔「ごめんごめん、残念だけど俺そっちの記憶ないんだよね。」
伽楼羅「よかろう、ならば思い出させてやる。『ドルガタレグ』貴様らに分かりやすく言うならロシアという国に位置する大国だ。グレタガルドとは対照的に、貧しい者は一人もおらず、全ての国民が裕福な生活に満ち溢れた光あふれる国。」
翔「光あふれる国?じゃあもしかしてその国を治めてるのって」
翔が美咲に目を向ける。
伽楼羅「ドルガタレグは代々『ライトエメラルド王家』によって治められてきた。そして現ドルガタレグは13代目王位継承者『リンダ・ライトエメラルド』姫によって管理されている。」
翔「ははーん、つまり伽楼羅は敵国の大将に惚れちゃったわけだ。」
伽楼羅「誠に恥ずかしながらそういうことになる。」
翔「ま、その話は置いといて続きどうぞ。」
伽楼羅「うむ、翼人兵がドルガタレグ勢力の雑兵集団であることは知っての通りだが、プリンセス・リンダは国そのものを治める役割を果たし、軍の指揮は彼女に仕える最強の両腕に任されてある。グレタガルドを滅ぼそうと翼人兵たちを差し向けたのはそいつらの企てだ。もちろん、そいつらも一度は俺が倒したはずなのだが、どうやら息の根を絶やしてはいなかったようだな。」
翔「そいつらがこの現実世界でも俺たちに喧嘩うってきたわけだ。はっはっは!マジで面白くなってきてんじゃん、テンション上がりまくりだわ~!」
伽楼羅「笑い事ではない!奴らは今宵必ず決着をつけに来るはずだ。」
翔「ねえ、そういや昨日俺たち奴らに2回狙われたよね。なんで最初に狙われたときアイツら尻尾巻いて逃げてったと思う?」
伽楼羅「あの場には姫がおられたからであろう。私にプリンセス・ダヴという命に代えても護らなければならない方が存在するように、やつらにとってプリンセス・リンダは神に最も近い存在なのだからな。」
翔「じゃあさ、お姫様と一緒にいればやつらに狙われる心配はないんじゃない?」
伽楼羅「姫を盾にしようというのか!?」
翔「冗談だよ。俺も伽楼羅のタマ狙ってるやつらと戦り合いたいし。」
伽楼羅「ならば急ぎ兵を集めよフェニックス!」
翔「いやいや、もうここに集まってんだけど。」
↓
?「せいぜい首を長くして待っていろガルーダ。大いなる聖戦の幕開けだ!」
白服「皇帝、進撃の準備が整いました。いつでも出撃できます。」
?「うむ、聞け我が翼人兵たちよ。これより我らは変わり果てた敵国への進撃を開始する。全部隊、かつてはグレタガルドと呼ばれし、東京都柳木原市へ出撃せよ!翼無き者どもに我らの恐怖を思い出させてやるのだ!そして私は、我らが姫の下に召されるであろう!」
翔「で伽楼羅、そいつらどこ来んの?」
伽楼羅「奴らは何があろうともこの俺の首を取りたがっている。俺がいる所なら例え地の果てであろうが必ず現れるはずだ。」
翔「ステージは選ばせてくれるってわけか。」
伽楼羅「決戦の地は既に定めている。ツヴァインヘルツだ。」
翔「なるほど、確かにあの広い駐車場なら思う存分暴れまわれるね。」
伽楼羅と翔は洋食店の大駐車場に移動する。
伽楼羅「奴らとの決戦に備え、フェニックス!我に仕える者として力を示せ。」
翔「面白い。蘇りし王の力、俺に見せてくれよ、アミーゴ!!」
翔は伽楼羅に殴りかかるが、伽楼羅は片手で翔の拳を受け止める。
伽楼羅「ぬふん、どうやらその蹴爪は衰えていないようだな。しかし!」
伽楼羅は翔の頭上を飛び返り一瞬にして背後を取る。
翔「っ……!?」
伽楼羅が翔の首に手を添える。
伽楼羅「例え不死鳥の翼であろうとも、大いなるガルーダの羽搏きには敵わぬ。」