長男のはっきりした言葉を聞くのは久しぶりだった。
久しぶり…というか、昨夜なのだが…訳のわからないことをしゃべって笑い続けてた、その時以来。


昨日の話なのにもう遠い昔みたいだ…。


そして、その久しぶりの言葉は、激しいものだった。


「ころされた!
おれ、おれ、ころされた!!!」


すごく大きな声だった。

目が、真剣だった。


私の両肩を掴んで


「ほんとうだよ!!
ほんとに…ほんとに…ころされたんだ……!!」


泣いていた。
叫びながら泣いていた。


看護師が
「髄液の検査がかなり痛かったみたいでずっと興奮してるんです。」
と私に告げた。


私は長男に落ち着くように促して


「死んでないよ。○○、死んでないよ?殺されてないよ?」


と何度か諭したが、


ころされた、ころされた!!

おれはしんだ!!

としばらく叫び続けた。


「ほんとうだよ!しんじて!!ほんとうに、おれはしんだんだよ!!

おれはころされたんだぁ……!!!


号泣。


私は考えて、


「そう。そうなの。死んだの?」


と彼の言うことを一度うけとめた。


「うん。うん……!」


長男はやっと落ち着いて、私の胸に顔をうずめて静かに泣いた。


「おれ、おれ……。
しにたくない!
しにたくないよ!!」


私は胸がきゅーっとしめつけられるような気持がした。


「おれ、ひとりでしぬくらいなら、
おとうさん、おかあさんとしにたい!」


あなたがそう望むなら…一緒に死ぬくらいなんでもない……。


「うん。○○ちゃんがもしも死ぬならね。おかあさんもいっしょに死ぬよ。
でもね、死んでないから。○○も。おかあさんも。
ちゃんと生きてるから。一緒に生きよう?」


私が一緒に死ぬ、と言ったことばに「うん、うん」と頷きながらも


「おれね、ころされたんだよ。。このびょういんのひとに……!
やめてっていったのに……!」


そして、看護士さんが少し近づいてくると


「わあ!ころさないで!ころさないで!!」


と泣き叫んだ。




私は頭や背中をなでながら


「ちがうんだよ。この病院の人はね、○○の病気を治すために、
お注射をしたんだよ。痛かった?」


「うん、うん…!!」


「ちょっとね、痛いお注射だったの。でも、○○は死んでないんだよ。
ちゃんと元気にいるでしょ?わかる?」


「うん……?」


「病院の先生や看護師さんは、○○を助けようと思っていろいろしてくれてるんだよ。」


「いいひとなの?」


「うん。」


「わるいひとじゃない?」


「うん。悪い人じゃない。良い人。」


「みんないいひと?」


「うん。みんないい人。」


あの人も?この人も?


と長男は病院中の人たちをひとりずつ指差しだした。


私は「そうだよ。良い人だよ。」

とひとりひとりに返事をした。


他のベッドの子供も。


「そうだね。あの子もきっといい子だね。」


と私は返した。


「そう……。いいひと…。」


長男はやっと落ち着いた。


そしてまた眠りにおちた。




そのうちに夫が現れた。午後6時くらい。
こんな早くに帰宅したことなんて未だかつてない。
普段は日付が変わるまで仕事で帰ってこない人だけど、流石に今は状況が状況で……。


私は夫とバトンタッチして、次男を保育園に迎えに行くことにした。
18:30までの約束だが、少し遠いのでそろそろ行かなければならない。

夫にこれまでの状況を話した。
髄液検査の結果は夜8時すぎに分かるらしいということも。


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辺りはもう真っ暗だった。
迎えに行くと、泣きはらした目の次男がいた。
全く遊ばず、ずっとぶすっとしているか、泣いているかだったらしい。
私に対して、すごく怒っていた。

(まいったなぁ……)

もう絶対に保育園なんかいかない!!
次男の顔と態度がそう語っていた。


もう絶対に預けさせてくれないだろうな…。
博多の母が今夜、こちらに到着する。
本当に助かったと思った。


やがて母が到着し、駅からそのまま病院に来てもらい、
挨拶もそこそこ、小児病棟前で次男の面倒をみてもらった。

お陰で私と夫はふたりで長男に付き添うことができた。


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長男は目を覚ましていたが、再び興奮していた。


「いやだ!しぬのはいやだ!」


「おれ、ひとりでしにたくない…。
どうせしぬなら、おとうさん、おかあさん、としにたい!


とまたくりかえしていた。


夫の手を左手ににぎり、私の手を右手ににぎり、
布団にあおむけに寝ると、


「いっしょだよ。いっしょにしのう…。」


と言いながら静かに泣いた。


わたしは、うん、うんとうなずきながら、


「…でもね。死なないよ。大丈夫だからね…。」

と穏やかに繰り返した。



私と夫の手を握っていると安心するようで、
眠ったように落ち着くのだが、
何かの用事でどちらかが手を離すと、とたんに


「どこいくの!!??」


と跳ねるように体を起して不安そうに大きな声を出した。



゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。


このとき、長男の頭の中では、"こわいこと"がたくさん起こっていたという。
そんな中で、思いがけない激痛(髄液検査)があり、自分は死んだと思った。
違うと聞かされても、死への恐怖はその後もなかなか消えなかった……。


゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。


やがて、8時の面会終了時刻が過ぎ、さらにしばらく待って、やっと主治医に呼ばれた。
私たちはまたあの応接室に案内され、そこで話を聞いた。




そして、やっと長男の病名が分かった。




【つづく】