3-4-3システム採用の鍵になったのは国王杯のサラゴサ戦での成功だった 3-4-3システム採用の鍵になったのは国王杯のサラゴサ戦での成功だった【 (C)Getty Images/AFLO 】
 バルセロナにとっては、2月28日の国王杯のサラゴサ戦から始まり、セビージャ、リバプール、レアル・マドリーとのクラシコまで続いた11日間はシーズンを占う大一番がめじろ押しだった。この4連戦で、結果同様に注目を浴びたのが、バルセロナのライカールト監督が採用した3-4-3のシステムだった。最近のレクアレティボ戦、デポルティボ戦では、4-3-3に戻して本来の力を発揮。その結果、快勝しているだけに、今後しばらくは3-4-3は封印されると予想されるが、ここではあらためてバルセロナが挑んだ3-4-3システムでの戦いについて考えてみたい。

■ライカールトが3-4-3を使った本当の理由

サラゴサ戦のバルセロナの布陣 サラゴサ戦のバルセロナの布陣【 (C)Ichiro Ozawa 】

 ライカールト監督が3-4-3を初めて使ったのは、2月28日の国王杯、サラゴサとの第2戦だった。ホームの第1戦を0-1で落とし、第2戦は2点を奪っての勝利が必要な状況だったために、この攻撃的なシステムを思い切って使ってきた。3-4-3をライカールト監督に進言したのはエウゼビオコーチで、彼はクライフ率いる“ドリームチーム”で7年間プレーし、3-4-3システムを知り尽くす人間の1人だ。エウゼビオコーチはこのシステム採用について、「試合前日の非公開練習でのテストでうまくいくという確証を得た」と、直前のテストが決め手となったことを明かした。
 たった1回の練習で手応えがつかめるのかどうか理解に苦しむが、結果としてこの策は成功した。エウゼビオコーチ、ライカールト監督の思惑通りの展開でバルセロナが2-1で勝利し、国王杯で天敵だったサラゴサを破りベスト4に進出する。特に前半は見事に機能し、ホームのサラゴサを寄せ付けない圧倒的なサッカーで前半30分までに2点を奪った。

 ライカールト監督が採用した3-4-3システムの特徴は、これまで非常時以外は中盤で同時起用できなかったシャビ、イニエスタ、デコの3人を中盤で使えたことにあった。4-3-3では、守備のバランスを取るために中盤の底にエジミウソン、モッタ、マルケスらを入れる必要性に迫られていた。このため世界でも指折りのMF3人を同時起用できず、調子の良いイニエスタを右ウイングに入れるなど、選手起用で工夫していた。しかし、中盤が4枚になるこのシステムではマルケスを底に、彼ら3人を無理なく並べることができるのである。

 ただ私は、ライカールト監督が3-4-3を選択したのは、3人を同時起用するためではなく、むしろこれまで使ってきた4-3-3システムに対する疑問や、ドラスティックな変化を求める気持ちからの選択であったと予想する。そもそも、守備面の不安に目をつぶれば、シャビ、イニエスタ、デコの3人を4-3-3の中盤に並べることは可能であり、実際にレクレアティボ戦(3月17日)ではイニエスタを中盤の底に、シャビとデコを前に並べる布陣を敷いている。サラゴサ戦後の「相手にサプライズを与えたかった」というライカールト監督のコメントを聞く限り、少なくともチームに変化をつけたかったのは確か。バレンシア戦(2月18日)やリバプールとの欧州チャンピオンズリーグ第1戦(2月21日)のように、今シーズンは対戦相手がバルセロナ対策を徹底しているために、苦しいシーズンとなっているが、この大事な2戦に連敗したことが決定打となったのだろう。
 ライカールト監督にとって一番手っ取り早く変化をつけられるのが、システムだったということだ。

リバプールの守備の前に、バルセロナの攻撃陣は沈黙。多くの欠点を露呈した リバプールの守備の前に、バルセロナの攻撃陣は沈黙。多くの欠点を露呈した【 (C)Getty Images/AFLO 】
 サラゴサ戦での“賭け”に成功したライカールト監督にとって、その後数日間は実に気持ちの良い日々だったに違いない。翌日からスペインメディアはこぞってサラゴサ戦での3-4-3を好意的に取り上げた。当然ながら過熱したのはバルセロナの地元メディア。クライフ監督時代の“ドリームチーム”と比較し、早くも“ドリームチームII”という言葉が飛び出し、試合から2日後の3月2日の『ムンド・デポルティボ』紙にはストイチコフ、サリナス、ナダルら元祖“ドリームチーム”の選手たちが顔をそろえて、3-4-3継続に一票を投じていた。
 3-4-3を支持する声の背景には、サラゴサ戦同様に1戦目を敗れた状態で臨むリバプール戦があったからだが、それと同時に顕著だったのがバルセロナにいまだ深く根付いているクライフ氏の影響だ。1970年代に選手として、90年代に監督としてバルセロナのファンを結果とスペクタクルの両立したサッカーで魅了した功績はやはり計り知れないものがあるようで、サラゴサ戦での成功によってクライフサッカーの良き思い出がバルセロナファンの中によみがえってしまった。それによって3-4-3のシステム論が一人歩きし始め、リバプール戦での大逆転の切り札として認識されるようになる。
 あの空気では、もし仮にライカールト監督が「リバプール戦では4-3-3でいく」と思っていたとしても実行できなかったのではないかとすら思う。それくらい、サラゴサ戦での逆転劇はバルセロナファンの心を満たしたものとなったが、裏を返せばその幸福感のために冷静な視点からの問題指摘がなされないまま、3-4-3が継続されることにもつながった。

■3-4-3の難しさと露呈した欠点

セビージャ戦のバルセロナの布陣 セビージャ戦のバルセロナの布陣【 (C)Ichiro Ozawa 】
 あくまでリーガの1試合で、さらにリスクを冒す必要のないアウエーのセビージャ戦(3月3日)でもライカールト監督は3-4-3を使ってきた。ただし、このときはデコを温存したことにより、中盤を2ボランチ(シャビ、イニエスタ)と2ワイド(ザンブロッタ、ファン・ブロンクホルスト)の陣形にしてきた。リバプール戦に向け、3-4-3の成熟度を高めるために使ったことは理解できるのだが、中盤のザンブロッタ、ファン・ブロンクホルストがサイドバックの位置に下がる時間帯が続き、システムとしては5-2-3と呼ぶべきもので、ライカールト監督の意図は不明確だった。恐らく彼の頭の中ではリーガの首位決戦という試合の位置づけと、リバプール戦に向けた準備の試合という位置付けが激しく交錯していたのだろう。サイド攻撃が強力なセビージャ対策と、リバプール戦に向けた貴重な実戦の場という2つの側面を考えれば、この決断は柔軟性があるといえるのかもしれない。だが、同時に一貫した哲学や戦術がないための場当たり的なさい配に映ったことも否めない。

リバプール戦のバルセロナの布陣 リバプール戦のバルセロナの布陣【 (C)Ichiro Ozawa 】
 そして運命の3月6日、リバプール戦。結果も内容も周知の通りで、バルセロナは前半からリバプールに圧倒されながら後半のグジョンセンのゴールで1-0と勝利したが、第1戦での敗戦(1-2)が響き、チャンピオンズリーグから早々に姿を消した。予想通り3-4-3で戦ったバルセロナだったが、この試合では3-4-3の難しさと欠点を露呈していた。
 前線から無理追いすることなくコンパクトな状態で守備組織を整えてきたリバプールに対し、バルセロナはディフェンスラインでのパス回しが多くなっていた。前線はおろか中盤の選手もハーフウエーラインを越えてボールを受けるのが至難の技で、そうなると3-4-3では前線に人が余る状態となり、1人が受け持つスペースを消し合うことになる。
 現代サッカーの特徴は守備組織とプレッシングで、どのチームもその動きを組織化、自動化しており、相手にプレースペースばかりか考える時間すら与えないのが主流。よって、3-4-3のようにあまりに前方向に人数を割くシステムは、「リスクを冒す」というよりもむしろ「自殺行為」に近いものとなってしまう。
 バルセロナのコンディションの悪さを指摘する声もある。だが、リバプール戦に限って言えばコンディションうんぬんではなく、リバプールが常にコンパクトな陣形を心掛けるモダンなサッカーを展開したため、バルセロナの選手が走ろうにもスペースがなく走れなかったのが実情だろう。

 また、システム上の欠点として顕著だったのがサイドスペースの使い方。3-4-3の布陣ではDF、MFに明確なサイドの選手がおらず、実質サイドを捨てるシステムとなっている。前線の両サイドに張っているはずのロナウジーニョ、メッシもプレーの特性、利き足とは逆のサイドに位置することから、サイドを有効活用できていなかった。逆に守備時には手薄なサイドを使われ、3バックの両サイドであるオレゲルとプジョルが引き出されてしまい、カバーリングがない状態で1対1を強いられる場面が多かった。サラゴサ戦ではイニエスタが献身的に守備に回り、時にサイドバックの位置でプレーしていたが、システム上のポジションバランスが非常に悪かったといえる。

3-4-3システムの継続を断念したライカールト監督。だが、いつかこのシステムを成功させてほしい 3-4-3システムの継続を断念したライカールト監督。だが、いつかこのシステムを成功させてほしい【 (C)Getty Images/AFLO 】
 3月10日のレアル・マドリー戦での3-4-3については、リバプール戦までの過密スケジュールや選手の消耗度、リスクを冒す必要が全くない状況から、このシステムの採用自体に異議を唱えるのみとしておく。

 クラシコ(伝統の一戦)も踏まえて、バルセロナが4試合で使った3-4-3の評価は、落第点が妥当だろう。スペイン国内でも「サラゴサ戦での前半45分のみ機能した」という意見が大半で、結果からみてもそれが現実だ。恐らくライカールト監督も、非常事態が起こらない限りは、再び使うことはないだろう。クラシコ直後に『スポルト』紙が行ったアンケートでは、3-4-3継続に対して78%が「NO」の回答だった。ただ、驚いたのはこの状況でも28%が「今後も3-4-3でいくべき」と主張している点で、実は私もその1人だ。いや、正しくは「3-4-3を成功させてほしい」という願望を持っている。
 リバプール戦の分析で指摘したように現代サッカーでは「リスクを冒す」こと自体が難しくなっており、勝利の確率を上げるためにスペースや相手の良さを消すサッカーが主流になりつつある。恐らく、クライフ率いる“ドリームチーム”が今のサッカー界に存在したとしても、当時のようには勝てないだろうし、タイトルを取るのはリバプールのようなモダンなサッカーをするチームになるだろう(トーナメント戦では特に)。
 そんな現代サッカーで、攻撃的かつスペクタクルなサッカーを披露して勝てるチームがあるならば、それはバルセロナだけではないか。既に昨年、それを実現したバルセロナだが、これだけの選手をそろえているのだから、まだバルセロナファンは夢の続きを見ることが可能なはずだ。「サイクルの終わり」などという意見はまだ早い。3-4-3のシステムで“ドリームチームII”を実現してもらいたい。

3-4-3を成功させるにはサイドで押し込むことが必要だ 3-4-3を成功させるにはサイドで押し込むことが必要だ【 (C)Ichiro Ozawa 】
 そんな期待を語る以上、責任を持って3-4-3が機能するための提案を2つさせてもらう。
 まずは、サイドの欠点をどう克服するか。これは、前線の両サイドを使って相手陣内深くに押し込むことが解決策となる。短所やシステム上のリスクを軽減する考え方ではなく、バルセロナらしい「攻撃は最大の防御」に沿った考え方だ。具体的には、前線の両サイドに入る選手を走らせるパスを出すこと、また彼らが縦コースへ思い切ってドリブルすることだ。そうすることで、相手サイドバックが自陣のゴールに向かって走る状況を作るのだ。これだけでも、相手は苦しい状況になる。
 バルセロナのボール支配率の高さは疑いの余地がないのだが、ボール支配、技術に固執するあまり、相手にとって読みやすく、プレッシャーをかけやすいパス回しになっていることがある。また、ロナウジーニョ、メッシに対しては彼らのキープ力、技術を信頼するあまり、DFを背負った不利な体勢でもパスを出している。結果的に届かないパスになったとしても、たとえ受け手がロナウジーニョ、メッシだったとしても、前線の両サイドの深い位置にボールを入れて、敵陣深くに入り込むことが大切だ。

 ロナウジーニョ、メッシがボールを持った時も同じ。相手の守り方も関係するが、それ以上に縦へのドリブル突破のオプションがなく、相手DFにとってはさほど怖さがない。恐らく対峙(たいじ)するサイドバックが一番怖いと感じるのはジウリーであろう。ジウリーはたとえ縦コースへのドリブルが失敗しても、そのままプレッシャーをかけるため、相手DFはボールを奪っても苦しい状況に陥っている。サラゴサ戦前半の成功の影にはジウリーのそういった前に進む姿勢があった。ロナウジーニョ、メッシは共にスピードがある選手なのだから、縦への突破を試みて、それが失敗してもジウリーのようにその後にプレッシャーをかければいい。相手陣内の深い位置でプレスをかければ、前線に人数をかけているシステムなのだから、ボールが奪いやすくなる。攻撃的で前線に人数をかけているシステムである以上、敵陣深くでサッカーをしなければ全く意味がないのである。

■現代サッカーに適したトップ下、イニエスタ

 2つ目はイニエスタのトップ下起用だ。サラゴサ戦、リバプール戦とトップ下に入ったのはデコ。ただ、私はイニエスタの方がトップ下の適正があるとみている。その理由はイニエスタのスペースを見つける能力と豊富な運動量にある。
 現代サッカーではとにかくスペースも時間も限られてしまい、昔ながらのファンタジスタタイプが自分でスペースと時間を作り出したとしても、すぐに埋められてしまう。よって、トップ下にはスペースを創造する以上に、それを見つける能力が求められる。今シーズン、突如前線に姿を現して得点を決めているイニエスタには、“おいしい”場面に顔を出すための豊富な運動量もある。
 トップ下のポジションは最もプレーを制限される地帯で、だからこそ動かなければいけない。イニエスタの場合、ボールをもらえなくともアクティブに動き続け、デコに不足する前線への飛び出しも問題なくやってのけるだろう。デコやロナウジーニョと比較するとトップ下タイプにはみえないが、だからこそ現代サッカーにマッチしたトップ下になるはずだ。

 結果は落第だったが、バルセロナとライカールト監督が挑んだ3-4-3への戦いについては別次元で評価する必要もあるのかもしれない。現代サッカーは知力、体力で日々向上しており、それはそれで面白いものだが、純粋にスペクタクルを置き去りにしている面も否めない。バルセロナが3-4-3でフルシーズン戦うことはできないだろうが、ここぞという時にこのシステムを用い、それがはまった時を想像してもらいたい……。要求の高いバルセロナファンは、1度“ドリームチーム”を目にしているからこそ、新たな可能性にワクワクしているのである。いまなお、その期待感は根強く残っている。


かなり長くなりました。すみません・・・

■ドリームチームIIになるための提案

■バルセロナファンを刺激したクライフの幻影