”勝ちやすい”<”負けにくい” | プロスカッシュプレイヤー松本淳のブログ〜Another way〜

プロスカッシュプレイヤー松本淳のブログ〜Another way〜

スカッシュ元全日本V2松本淳プロのブログ。
現在育成中のJrプレイヤーのレッスンを元に自身のコーチング理論や心得などを公開。
また、Jrプレイヤーの成長も垣間見ながらの成長日記でもある。

前回のBlogで「慶応義塾大学スカッシュサークルが団体戦を連覇した。」と書きました。

今回は、自分が行った指導方針をちょこっとだけ真面目にお話ししたいと思います。



まず、昨年の11月に慶応の主将である府川と同期の平田が自分の元を訪れ



「このままではインカレ連覇が微妙なので、4番手以降の選手強化をお願い出来ませんか?」



と依頼を受けた。



その後、毎週金曜日に4~7番手までのメンバーによる”強化練習会”が行われた。




今現在、大学生プレイヤーの平均レベルはお世辞にも高いとは言えない。


勿論、強いプレイヤーもいるがその大半は元Jr選手だったりスカッシュのキャリアが4年以上あるもので、大学で始めた大多数のプレイヤーは”フレンドシップクラス~一般の予選クラス”と同様のレベルである。


しかも、各大学の4番手以降なんて正直、その辺にごろごろいるレベル。


そんな彼らをたった3ヶ月で一人前の勝てるプレイヤーに育てるなんて、ぶっちゃけ不可能だと自分は思う。


だが、請け負ってしまったからにはそれを少しでも可能にするようにしなくてはならない。


そこで、自分が考えたのは次のプラン。






①打ち方や細かい動作を直そうとしていたら時間が足りない為、今現状のモノでやりくりする。




②限られた時間の中でまんべんなく練習していたら身に付く時間がない、偏った練習方法で反復する時間を最大限活用する。




③上手くないんだから”勝とう”とするのではなく”負けにくい”プレーを徹底させる。(ぶっちゃけ失礼・笑)






このプランを考えた背景にはある大学のプレースタイルが反映されている。


それは、関東・インカレと両方の決勝で死闘を演じた順天堂大学である。




順天堂大の選手はプレーの質も高く、運動能力も優れていた。


その最強のライバルに対して、慶応義塾大の選手レベルは個々では劣っていると自分は感じていた。


しかし、自力で劣っているその最強のライバルに対して唯一落とし穴があるとしたら、上記のプランを徹底させることが必須だった。




自分が仮説として立てた順天堂大の落とし穴。


それは…




”ミスの本数”




今のスカッシュのルールはラリーポイント制。


つまり、ミスでも点数は動いてしまうのだ。




対戦相手の順天堂大の選手たち(特に上の3人)はしっかりとした基礎もあり、他の学生に比べてショットのバリエーションも多い。


普通に考えて他の学生に比べ”上手い”と思う。


しかし、自分が勝手に想像で立てた仮説はこうだ。






「もし、上手い3人が日頃から一緒に練習をしていたらレベルの高い練習になるだろう。」




「でも、上手い半面、ショットに頼ったプレーが多く、試合の根本的な事を日頃から意識していないのでは?」




試合の根本的な事とは…




”点数を取られない事”




ショットのバリエーションが多いという事は、それすなわち「なかなか点数の取れない相手から点数を取る為に考えだした発想」である。




今の世の中はインターネットなどで簡単に世界のトップ選手のプレーが観れる。


そして”スーパープレー”としてハイレベルなテクニックをクローズアップしている。


これを見る事で




「スカッシュはこうやって点数を取るのか!」




とか、




「勝つ為にこーゆーショットを打てばいいのか!!」




と、捉えてしまうのでは?と自分は思っている。


特に、試合に勝ちたい人は絶対に上手い人の映像見たり、真似したりするもんね。




はい!ここで一度立ち止まってみよう。


点数を取らないと勝つ事は不可能ですか?




いやいや、点数は取らなくても貰えたりもするんです。


また、点数をいっぱい取っていても11点を先に与えたら負けなんですよ。


つまり、勝つ為には”点数を取る”前に”点数を与えない”事が最優先事項であると自分は考えます。(過去のブログ:優先順位




”試合で勝つ”とは、まず”試合に負けない”という大前提があって初めて成り立つ結果。


リスクマネジメントこそが、どの競技レベルにおいても最優先事項ではないでしょうか?




実際に順天堂大の練習を観た事が無いので今回のはあくまでも仮説なんですが、上の3人がラリーする際は点数を取りに行ったショットが決まるか、決まらないかで点数が動き、上の3人を見ている4番手以降の選手は無意識にそれの真似をしてしまっていたのでは?と自分は思っています。




そーやって、自分が勝手に立てた仮説で強化練習を行い、関東団体を迎えました。


正直、戦力的に難しいと思っていたので、インカレ連覇に向けて”優勝”という結果よりも、”強化プランの裏付け”が欲しかったんです。




試合後に自分が決勝戦の全試合をフィードバックして出したデータがこちら↓




◆1ゲームのチーム平均得点率




<慶応義塾大学>


・Av 3.34点




<順天堂大学>


・Av 6.13点




上記は単純にチームの攻撃力。


1試合で平均何点取れるかの数字です。


次にチーム防御力。




◆1ゲームのチーム平均失点率




<慶応義塾大学>


・Av 3.56点




<順天堂大学>


・Av 5.82点




このデータが出た瞬間に仮説があながち間違ってなかった事が証明され、十分すぎる明確な裏付けとなった。




11ポイント制で、1ゲームあたり6点取れる順天堂と3点しか取れない慶応。


どー考えても順天堂が強いし、負ける要素が無い!(笑)


しかし、順天堂は1ゲームあたり6点失点する。


何もしなくても平均6点は貰える計算になるってことだ。




関東団体からインカレまでの間に自分が慶応の選手たちにした事は、やってきた事に自信を持たせ”絶対に彼等はミスをする”という事を意識に刷り込む事。




インカレ団体の決勝戦。


トッププレイヤーでない彼等にとって、事細かな戦術や付け焼刃のアドバイスは正直まだ必要なレベルではない。


というか、その場であーだこーだ言っても一生懸命過ぎて実行出来るはずがないと思う。


自分もあの場で選手に色々言っていたが、基本的には




「フィードバックしたデータ通り、今のゲームは5本もミスをしてくれている。」




「散々負けにくいプレーを練習してきたんだから、自信を持って粘れば点数をくれるぞ!!」




って事を全選手に言ってたんだよね。




”ミスするな”って頭で分かっていても、実戦ですぐに実行するなんて難しい。


ってか出来たらとっくに上のレベルにいるだろう。




誰だってミスしたくてしてる訳じゃないと思う。


人間だから、ミスしてしまうのはしょうがないが無駄なミスをしないよう日頃から意識づけて練習する事がとても大切なんだよね。


そして、それを疑わず最後まで実行してくれた彼らの努力を自分は賞賛したいと思う。




”慶応義塾大学スカッシュラケットサークル” = ”日本一強い大学チーム” 改め ”日本一負けづらい大学チーム”




Congratulations!!