「帰ったら、キャチボール、やらない?!」
助手席の長男が、不意に言った。
「キャッチボール?!なんでまた、キャッチボールなの?」
「いや、別に、なんとなく」
「いいよ、じゃあ、帰ったらキャッチボール、しよ」
日曜日の午後、家族4人で行きつけのラーメン屋で昼食を食べ、帰りにツタヤでCDを何枚か借りた。
家に着くと、次男はパソコンに借りてきたCDのダウンロードを始めた。
次男はサッカー部に所属しているので、オフの日は体を動かしたがらない。
長男は特に部活に所属していない上、大学受験も始動し出したので、体を動かしたいのだろう。
ぼくと長男は、倉庫を引っ掻き回し、やっとこさグローブを2つ、探し出した。
男親は、自分の子供とキャッチボールをすることが、ひとつの夢だったりする。
ぼくも、子供の頃、親父とキャチボールをした記憶がある。
ただ、ぼくは中学以降サッカー部に所属していたし、その影響で子供たちもサッカーをしていたため、
「キャッチボール」は「パス・シュート」にすり替わっていた。
そして、その夢もすでに実現されていた。
だから、ぼくは子供たちとまともに「キャッチボール」をしたことがなかった。
家の前の公園で、ぼくと長男は10メートルほど離れ、肩を温めるようにゆっくりとキャッチボールを始めた。
長男は、肩が温まると重く早いボールをぼくに投げてきた。
ぼくは、温まる前に、肩に痛みを感じていた。
キャッチボールの「距離」は、普段会話をする声では、相手に届かない。
いつもよりも少し大きな声を長男に投げると、いつもよりも少し大きな声が長男から返ってくる。
生意気にも、長男はカーブやシュートを投げてくる。
「どう?よく曲がるでしょ」
「あぁ、お前は根性が曲がってるから、ボールもよく曲がるよ」
高3年の長男の体力に、ぼくはとてもついていけない。
背中にTシャツが汗で張り付き、肩が上がらない。 ぼくが先に根を上げた。
家に帰ると、ぼくは妻に真っ赤に腫れ上がった左の手のひらを、自慢げに見せた。