ふたりの共通の話題は「本」だった。
ミホは石田衣良を、エツは川上弘美の小説を好んで読んでいた。お互いがお互いの好きな
作品を紹介しあったりした。
エツ>しょっぱいカルボナーラには?
ミホ>赤ワインが合う^^
一ヶ月ほどチャットが続いた。月・水・金の午後6時半から9時まで。どちらが決めたわけで
もなく、チャットの時間は固定された。
エツ>ミホは、小説の登場人物を好きになったことある?
ミホ>うーん・・・・生き方とかに憧れることはあるかな。
エツ>ぼくは、ある。
ミホはエツの言いたいことがわからなかった・・・・違う、わからないふりをしていた。
エツ>ぼくはミホのことを好きになったみたい。会ったこともない、ミホを。
エツは、ミホが自分で息を吹きかけて曇らせていた窓ガラスを一気に拭き取った。窓の向こ
うには、まだ見たことのないエツがいた。ぼんやりとしていたがなぜか輪郭だけははっきりして
いた。
ミホ>わたしも、エツのことが、好き。
気持ちを確かめ合ったふたりは、チャットのたびに距離を縮めていった。ただ、近づけば近づく
ほど、切なさは増していった。そして、会いたい、という気持ちも。。。