長渕剛の反戦発言 | 語り得ぬものについては沈黙しなければならない。

長渕剛の反戦発言

僕は音楽的には長渕剛はまったく共感したことがない。テレビで流れるヒット曲くらいしか知らないけれど、聞くと「こんな形で情念吹き上げないでくれよ」と痛い気持ちになる。まあ、こういう歌が好きな人はきっとたくさんいるんだろうな、程度しか思っていなかった。

とはいえ、テレビ番組で長渕が安保法制案について語っているというので、youtubeで探して見てみたのだった。

https://www.youtube.com/watch?v=yxl3zOlWixA
(7月19日CX系『ワイドナショー』)

「銃持って(戦争に)行くんですかみなさん? (年長者は)行かないのに、大義で、ここ(スタジオ)で論争してるっていうのがね、心がすごく苦しくなりますね」

「どの時代でも、子どもたちが銃を持って撃っていくんです。そして、その犠牲がどんどんどんどん出ていくんですよ」
「僕らが語るべきは、絶対にそういう風にしないためにどうしたらよいのか、ってことだと思う」

「若き自衛隊員たちが、(東日本大震災のときに)どれだけのことをしたのか? 僕も(自衛隊の)激励に行かせてもらいましたけどね。彼らを死なすのかって。彼らを死なせてしまっていいのか? と言うことだと思うんですよ。今のこの流れで行くと」
「僕は、理屈はわからないんだけれど、感覚論として、戦争が近づいているような気がする」

(日本に向けてミサイルが飛んでくるのではないかという話に対して)「そういう思いでみんな戦々恐々としていることは確かですけれどね、『やったら(やられたら)やりかえせばいいんじゃねえかよ』、これ違うと思うんですよ僕は』」
「ミサイルが飛ぶって、現実に飛ぶことを軽々しく論じていいのかなって」


(主旨を曲げずに言葉尻は若干変えた。詳細は上記youtubeのURLで確認してね。21:22から安保法制案についての話。長渕が喋り出すのは26:53から)

彼を何も知らないくせにごりごりの安倍シンパだと思っていた俺が悪かった。
長渕さんごめんなさい。

彼の言う通りなのである。10代、20代の若者を送り込むのはミサイルや銃弾が飛び交うリアルな(マジの)戦場だ。戦場に行かない年寄りに軽々しく論じる資格はない。

「戦争ができる国」を「フツーの国」と言ったり、軍事力をもって国際社会にプレゼンスを示すべきだと考える人たちがいる。
彼らはよく、憲法9条を「リアリティのない理想主義」とか「お花畑」とか言う。
でもさ、自衛隊がこの70年間、一人の戦死者も出さず、他国の人を一人も殺さずに来れたのは憲法が集団的自衛権を認めなかったからこそだ。

日本が平和なのは米国のおかげではないよ。米国は、大義も正義もない自分勝手な戦争に日本を巻き込もうとしたが、日本は憲法を盾にそれを拒み続けることができた。日本が米国の言いなりになって世界各地の戦争に加わっていたらどうなったと思う?

イラク戦争では米軍兵士4494人が死亡し、32248人が負傷した。率先して米軍を手助けした英国軍兵士も179人が死亡した。( http://web.econ.keio.ac.jp/staff/nobu/iraq/casualty.htm
イラク戦争の大義は「フセイン政権が大量破壊兵器を隠し持っている」だったはずだが、結局、どこをどう探してもそんな事実はなかった。むしろ、戦争でイラクの治安を悪化させ政情を不安定にしたことが「イスラム国」などの過激派組織の台頭を生んだ。

そんな無意味(どころか悪質)な戦争で、若い子たちを死なせて良いのか? 若い子たちに人を殺させて良いのか?

安倍晋三君は、「集団的自衛権は米国の戦争に日本を巻き込むものではない」と強弁するが、たとえば尖閣に不審者、あるいは中国軍が乗り込んできた場合、これに海保や自衛隊が対応することは現行法の中で十分可能なのである(警察権や個別的自衛権の問題だ)。集団的自衛権行使を可能にすることは、自衛隊を米国の手先、鉄砲玉とする以外の理由は考えられない。

安倍晋三君の安保法制案に反対する人を「平和ボケ」と嘲笑する一味がいる。
だがもしも「平和ボケ」ということばを使うのであれば、ほんとうの「平和ボケ」とは、若い自衛官をリアルな戦場に送っても平気でいられる無神経な人たちのことだろう。戦場のリアリティ、つまり流れる血や心の痛みを想像できずに威信や名誉、カネのことしか頭にない人たちのことだろう。

長渕剛の考えについては、僕はきっと、深いところでは絶対に共鳴できない部分があると思う。彼とはやっぱり、なにかが決定的に違う。

だが。
それでも、彼のものすごく核心を突いた発言は立派だと思う。

ほんとうは、「長渕と言えば桑田」ということで、サザンのことも書こうと思っていたのでした。
だけど酔っ払ったからもうやめた。