「漫画でわかるイスラム国」発売。そして、安保とイスラム | 語り得ぬものについては沈黙しなければならない。

「漫画でわかるイスラム国」発売。そして、安保とイスラム

「漫画でわかるイスラム国」が発売になりました。
漫画でわかるイスラム国/PHP研究所
¥1,080
Amazon.co.jp
「アメリカはイスラム国に勝てない」(PHP新書) http://www.amazon.co.jp/dp/4569823637/ などの著者であり、テレビなどにもたびたび登場するイスラム専門家の宮田律さんに監修をお願いして、僕が構成や本文執筆をしました。

2月に後藤健二さんと湯川遥菜さんの人質事件が表面化したときは日本中が大騒ぎになりましたが、今ではまた元のように「俺らには関係ない世界の裏側の話」みたいな空気になっている。

でも、ここ数日間の報道だけ見ても、「イスラム国」がイラク西部アンバール県県都ラマディを制圧したというニュースや、人質事件に関しての日本政府の対応に関しての(およそ検証にはほど遠い杜撰な)報告書が発表されるとか、今日もシリア・パルミラの世界遺産で20人を公開処刑とか、毎日ニュースになっている。

で。大事なのは、「他人事ではないですよ」ということだ。

国会で安保関連法案の審議が続いているけれど、この法案が通ってしまうと自衛隊が「イスラム国」と戦うような事態が充分考えられる。「イスラム国」の日本敵視がさらに高まればおっかないことになりますよ。

そもそも、イスラム圏の人たちが日本に好意的なのは、千数百年に及ぶキリスト教vsイスラム教の戦争に加わっていないという理由が大きい。ところが、もしも日本が米国の手先として中東で軍事活動を行ったらどうなるのか?(後方支援だって立派な軍事活動だ) 9.11のときに大西洋を渡ってアルカイダが米国本土を攻撃したように、どんなに遠く離れていても日本だって他人事ではなくなるということだ。いいのかな?

というわけで、「漫画でわかるイスラム国」は、現在まさに進行中の日本の問題とも深くリンクしているイスラムについて、かなり基本的なことを網羅した本。

高校で世界史を勉強した人でも、イスラム世界と言えば「なんとか朝」→「なんとか朝」→「オスマン帝国」くらいしか理解していない。
これは、日本の世界史教育が欧米と、せいぜい東アジアが中心だからだ。
しかし、イスラムの世界から歴史を見てみると、まったく違った流れがあり、その上で、第一次、第二次世界大戦という近現代史を経て現在がある。
イスラムと欧米がどのように対立して現在に至っているのか?
あるいは、シーア派、スンニ派というような宗派対立、アルカイダと米国の関係やイラク戦争とは何だったのか。

そういう基礎的なことを、この本では書いているのです。
なので、イスラムや世界史をちゃんと学んだ人には「なんだよこの程度かよ」だと思いますが、「なぜ、イスラムと米国は仲が悪いの?」といような素朴な疑問を抱いている方には、かなり適切な説明ができると思います。

一時期「イスラム国はかなり劣勢」という報道もあったけれど、ラマディ制圧を見ると彼らが弱体化したとは思えない。最近では「1年以内に核兵器を持つ」と言っているぞ。

そういえば、この前閉幕した国連核不拡散条約(NPT)再検討会議は、核兵器保有国の我が儘で結局合意文書作成に至らなかったが、武器・兵器の怖さは、それが拡散することにある。つまり、そもそもは「敵を倒すため」と作った武器も、いつの間にか敵に渡ってしまうのだ。
「イスラム国」はたくさん武器を持っているのだが、その中には米国製も多い。米国がイラク軍やシリアの「反イスラム国組織」に武器を供与→戦闘に負けたイラク軍やシリアの「反イスラム国組織」から「イスラム国」が武器をかっぱらう、ということが続いているし、「カネ儲けのためならなんでもやる」武器商人どもの暗躍もある。こうして、武器というのは世界中に拡散していくのだ。

さすがに、「イスラム国」が戦場から核兵器をかっぱらうような事態は考えられないが、それでも、核兵器だって拡散すればするほど、それが過激派集団の手に渡るリスクは大きくなる。

今日の日経には、「(イスラム国が)ラマディを制圧したことに関し、カーター米国防長官が「戦意を見せなかった」とイラク軍を批判した発言が波紋を広げている」という記事があった( http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM27H3K_X20C15A5FF2000/
イラク軍がなぜやる気がないのかも、「漫画でわかるイスラム国」に書いてあります。

さて。

僕は、フリーの編集者としていろいろな本を作ってきた。
フリーであろうと出版社社員であろうと、編集者は普通、署名原稿は書かない。しかし、この本では久しぶりに著名原稿で「あとがき」を書かせていただいた。これは、「原発・放射能 子どもが危ない」 (文春新書/小出裕章・黒部信一著 http://www.amazon.co.jp/dp/416660824X/ )以来だ。

なぜ書くのかと言えば、編者として責任を被りたいからだ。
もちろん、どんな本でも編集者にはその本を編集した責任がある。だがあえて、それ以上の責任が俺にはあるよ、と語っておきたい。
安保法案問題なども含め、「他人事ではないですよ」と語気を強めて言っておきたいのだ。