全原発停止とシャッター商店街 | 語り得ぬものについては沈黙しなければならない。

全原発停止とシャッター商店街

昨日の続き(『福島で哲学』)ではないよ。
なにしろ今夜、日本中のすべての原発が停止するのだ。
1970年、まだ国内に原発が2基しかなかったとき、5日間だけ全原発が停止したことはあるのだが、今回は全54基。
もちろん、再稼働を目論んでいる財界の守銭奴どもやキチガイ役人、政治家、御用マスコミなどはたくさんいて油断はできない。
今、YAHOOニュースのタイトルを見渡していたら、読売、産経といった御用新聞は「夏の電気が足りない」「産業が衰退する」とか、例によって出鱈目を並べて「原発必要デマ」を煽りまくる戦法に出ている。
そんな糞どもはともかくとしても、もし仮にすべての原発がこのまま廃炉になっても、まったく良い方向に向かっていない福島の事故をどうするのか、さらに日本が抱える膨大な量の使用済み核燃料をどうするのか、と言った大きな課題は残る。

しかしながら、とにかく、すべて止まるのだ。
今夜だけは祝杯を挙げようではないか。

ところで、僕は今、この原稿を上越新幹線の中で書いている。
新潟県のかぐらスキー場に行った帰りなのだ。
僕は上手ではないが大好きなので、もう20年近くスノーボードをしている。
かぐらはもともと雪が豊富なのだけれど、冬の豪雪もあってまだまだたっぷり雪が残っている。
腰と膝を故障しているので、若い子たちのように飛んでくるくる回ったりはできないし、この時季だから当然雪は重くすぐ荒れて、技術の足りない僕はちょっと斜度があるだけで気持ち良く全開でぶっ飛ばすことなどできないのだけれど、それでもスノーボードはとても楽しい。

大型連休でスキー、スノーボードをしに来ているお客さんはほんとうにたくさんいた。
僕がいつもは平日に滑りに行くせいなのかもしれないが、リフトを5分も10分も待ったのなんて何年ぶりだろう。

ところが、だ。
みんなが身につけているリフト券を見ると、連休なのに『1日券』ばかりなのである。
つまり、多くの人が日帰りでやってきているのだった。

そういう僕も、旅行会社の「ひとりでも参加できる新幹線日帰りツアー」を使った日帰り客だ。
なにしろ安い。
平日ならインターネットで予約すれば東京からの往復新幹線とリフト1日券、ドリンク券やレンタル割引券がついて8000円台。
GWはさすがにそうはいかないが、それでも正規で新幹線のチケットを買うより安く、リフト券付きのツアーに申し込める。

クルマで来る人でも、高速が整備されてずいぶん楽になった。
関越トンネルが開通したのは1985年で、それまでは苦労して峠道を越えなければならなかった。群馬県の水上から新潟県の越後湯沢は、巨大な山々に阻まれているのである。
川端康成の『雪国』で、「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」というのは、もちろん上越新幹線ができる前の上越線のトンネルだが、つまり、時間をかけてぐるっと回って高さを稼ぐ「ループ線」を作らなければならなかったような難所なのである。

ほんとうに便利になった。

…という一面も確かにあるのだけれど、そう簡単にすむ話ではない。

いろいろな地方の人たちが、高速のインターや新幹線の駅、新しい橋などを地元に誘致しようという話はよくある。
自分たちの町が栄えてほしいからだ。

ところが、逆効果であることもとても多いのだ。

たとえば、これまでは泊まりで来てくれていた人たちが日帰りになってしまう。
逆にその土地の若い人たちは、都会に出るのが楽になったので地元に根付かない。
などなど。

かぐらは、ほんとうに素晴らしい資質を持ったスキー場である。
5月下旬まで滑れるロングシーズン、パウダーの宝庫(僕はローカルではないのでよく知らないけれど、ハイシーズンは、ちょっとハイクすれば膝~腰くらいのパウダーを毎日のように戴けるらしい)。誰もが楽しめるコースレイアウトの多彩さ。
何をとってもかなりハイレベルなゲレンデだ。
「新潟の雪は重い」などと文句を言う人もいて、そりゃそうかもしれんけどそんなのかぐらのスペックと比べたら充分にお釣りが来る。

それほど良いスキー場なので、当然のことながら近くにはロッジやペンション、民宿などが建ち並…んではいるのだが、なんというのか閉店、閉鎖しているようなところが多い。

もちろん、以前のスキーブーム、スノーボードブームが冷めてしまったからと言うこともあるだろう。
でも、「発展」「便利」が裏目に出て、多くのお客さんが日帰りになってしまい、スキー場にお金を落としても町にお金を落とさなくなってしまったという理由も確実にあるはずだ。

最寄り駅は越後湯沢。
地名からわかるようにお湯の豊かな温泉地で、周辺には多くのスキー場がある。
でも、駅から続く商店街は、いつ行ってもシャッター通りだ。

シャッター通りというのは、かつては賑やかだったと言うことだ。
それが今は人通りもまばらになってしまった。
何がいけなかったのだろうか?
スキー人気、スノーボード人気が下火になったからだけではないだろう。
もちろん、サブプライム以後の不景気のせいにするわけにもいくまい。

さて。
原発の話に戻ろう。

僕は原発立地の町のことをよくは知らない。
ただ、「弱っている町が狙われる」ということはよく聞く。

湯沢町(越後湯沢)は、原発撤退を宣言する立派な町だし、だいたい海に面していないので原発立地の餌食にされる心配はないと思うけれど、なんの産業もなく疲弊してしまった町が原発立地に狙われるというのがこの国の歴史だった。

でも原子力ムラの連中が次に探しているのは核廃棄物の最終処分地だ。
もちろん、最初は中間貯蔵場所だと偽って、なし崩し的に最終処分地にしてしまう作戦だ。
すでに候補地も挙がっているようである。

疲弊した町に目をつけ、「お金が入りますよ」と色目を使う。
ここで口説かれたらおしまいである。
でも、そうでもしなけりゃ、この町は死んでいくばかりだ…、と町の人たちは思ってしまう。

話はいきなり横道にそれるが、
マルクスの唯物史観については、僕は決定的に間違っていると思っている。
資本主義社会で労働者が蜂起し、社会主義を経て夢の共産主義に至る…
そんなマルクスの考え方が全然駄目だったことは、すでに歴史が証明しているように思われる。

でも、唯物史観の「上部構造/下部構造」という考え方については、僕は一理あると思う。

「下部構造が上部構造を規定している」というのがその基本的な発想で、下部構造とは「経済」のこと。上部構造は「その他すべて」だ。
思想も芸術も人々の考え方も、すべて経済に支配されてしまう、とマルクスは言っているのだ。

だから社会主義国では「プロレタリア文学」「プロレタリア芸術」みたいなのが賞賛される。
そしてそれはだいたいがつまらないので、文学や芸術は経済なんか関係ないんじゃないのと言われれば、まあそうかもしれんなとも思うのだけれど、でもさあ、貨幣システムが機能している社会で、貨幣およびそのシステムとまったく無関係に価値を語ることは(それが芸術的、文革的な価値であれ、倫理的な価値ならなおさら)、かなり難しい。

僕は貧乏なので「来月の10万円の支払いどうしよう」などと困っているわけだが、30億だか40億の負債を抱えて自己破産したことがある社長業の知人は、「たかが数百万、数千万の借金を苦にして自殺する人は信じられない」と言う。
僕なんかはなんとなくお金が入ってくる予定があるときには1500円のランチを食べるが、ヤバそうなときには牛丼や立ち食いそばでも全然OKだ。

とまあ、それくらいはみんなやっていることだろうけれど、決定的なのは「肩書き」と「考え方」だ。

僕は名刺に肩書きも書いていないような駄目人間で(名刺には名前とメールアドレスと携帯番号しか書いてない)、なんの権力も持っていないので、だからこそ駄目な人や弱い人に感情移入しやすいのかもしれない。
肩書きの強い人は自分を認めてくれる肩書き、つまり現状のシステム的な視点から、システムに対して保守的な考え方をする。
読売や産経といった御用新聞の記者たちが、ほんとうにみんな原発推進なのかと言えば怪しいものだ。
僕の読みでは、彼らはよく考えていないだけである。
よく考えれば、自分たちの記事が如何に馬鹿なのかわかると思うのだが。
まあこれも、肩書き効果、つまり下部構造が上部構造を支配しているのだと思う。

ええと。

東京で新幹線を降りて山手線に乗って目黒まで帰って目黒のアイリッシュバーで飲みながら続きを書いていたのだけれど、うるさくて集中できないや。すでに結構酔っ払ってるし。

まとめよう。

お金(下部構造)はとても大切なので、誰でも、そしてどんな町でもお金に困ったら考え方が変わってしまう。
だから、原発を誘致したり、核廃棄物の最終処分場に名乗りを上げる自治体も、今後もしかしたら出てくるかもしれない。
でも、僕には単純に彼らを責めることはできない。
なぜならば、「お金に困るのは(その人やその町の)自己責任」などとは決して言いきれないからだ。

日本という国は、戦後の復興のために大都市に富を集中させた。
そのために、地方の貧農から若者たちを出稼ぎにかき集め、彼らを「金の卵」と呼んだこともあった。
また、そのころは工業化を最優先とし、その結果第一次産業の次世代の担い手が激減してしまうことなど、なんとも思わなかった。
すべては「発展」のためである。

そして、原発も「発展」のお題目の下に推進されたのであった。

今日は面倒くさいからもう書かないけれど、原発が駄目なのは危険だから、というのももちろんあろう。でも、突き詰めると「発展神話」(発展こそが善いことだというこそ考え方)自体が駄目なんじゃないかと思うのであった。

今夜は酔っ払っているので文章は無茶苦茶だ。

さて、全原発停止の乾杯に備えて、強い酒をもう一杯いただこう。

て思ってたら、23時3分に泊原発3号機が発電停止だって。
http://mainichi.jp/select/news/20120506k0000m040097000c.html

おめでとう!!!

8888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888888