東電の刑事責任を追及しないキー局、全国紙の駄目っぷりにあらためて呆れてしまう | 語り得ぬものについては沈黙しなければならない。

東電の刑事責任を追及しないキー局、全国紙の駄目っぷりにあらためて呆れてしまう

昨夜たまたまTBSのニュースを見ていたら、放射能汚染のせいで宮城県がスズキの水揚げを自粛するということで、漁業を営む人が嘆いている姿が報道されていた。

で、思ったんだけどさ、たとえば犯罪被害者遺族を取材して報じるときには、「犯人は絶対に許せない」という涙目のコメントが入るのが日本のニュースであったはずだ。
なのになぜ、この場合「『東電』は決して許せない」というコメントが報道されないのだろう?

地元の河北新聞の記事(http://www.kahoku.co.jp/news/2012/03/20120329t13022.htm)を読むと、

漁師山川育夫さん(61)は1日約700キロを水揚げし、スズキは1キロ当たり850~1000円で取引される。「自粛がさらに広がれば食っていけなくなる。東京電力に補償を求めたい」と怒りをあらわにする

と、ちゃんと書いてある。
いったい誰のせいでこんなことになってしまったのかと言えば、まず第一に東電の責任なのは言うまでもないのだから、地元の漁師さんたちが東電に怒るのは当然だ。

なのに、全国放送のニュースではなぜそれを取り上げない?

東電は「想定外の津波が原因なのでほんとうは自分たちは悪くない」という姿勢である。
そこらへんの責任問題が明らかになっていないのでテレビでは取り上げられない、とでも言うのだろうか?

そんな言い訳は通用しないぞ。
だって、犯罪被害者の報道では、裁判の判決が確定していなくとも、全国放送のテレビは「犯人憎し」のコメントをここぞとばかりに伝えるではないか。
視聴者の感情に訴えて悪者を叩く、というのが、これまでの報道姿勢だったではないか。

放射能汚染や除染、瓦礫処理などの話題は、毎日のように全国放送や全国紙(新聞)で取り上げられている。
ところが、ほとんどの報道は「大変な問題だ」みたいに結ぶばかりで、責任追及をしようとしない。

いったいぜんたい、誰が悪いのか?

もちろん、原発を許してきた我々にも責任がある。
でもさ、その場合の責任というのはちょっと質が違う。
たとえば援助交際をしていた13歳の女子中学生がラブホで殺されちゃった場合、それを防げなかった周りのオトナにも責任があるわけだが、そんなことよりもまず第一に処罰されなければならないのは殺した犯人だ。

それと同じで、非難され、吊し上げられ、投獄されるべきは、東電や原子力ムラの連中であることは明らかではないか。
メディアがその責任を追及しないでどうしようというのだろう。
未だに電事連とか経団連とかに気を遣っているのだろうか。

全国放送のニュースと大新聞しか見ない人たちは騙せても、ネットをチェックしたり週刊誌や原発本を読んだりしているマトモな人たちは、原発事故後、マスコミに愛想を尽かせていることがわからないのだろうか。

僕もメディアの世界の端っこにいるので実感として知っているが、テレビの視聴率は下がり紙媒体の部数も落ちている。マスコミにとっては大変な時代だ。
だから、こんなときこそ読者や視聴者のほうを向いて信頼回復に努めるべきなのに、キー局や全国紙は自分で自分の首を絞めているとしか思えない。
馬鹿じゃないかと思う。

オリンパスの粉飾決済事件では、東京地方検察庁特捜部と警視庁捜査2課が強制捜査に着手して、何人もの役員が逮捕された。
企業というのは放っておけば悪いことをする連中が出てくるわけで、嫌疑があれば捜査機関が乗り込むのは当然である。
でも、粉飾決済でオリンパスの役員が逮捕されるのに、何十万、何百万人の人々の生命、健康、財産を奪い取った東電に、なぜ強制捜査が入らないのだろうか。なぜ、勝俣やその他東電の役員が逮捕されないのだろうか。
これは、小学生でも疑問に感じるだろうことだ。
キー局のニュースや全国紙は、なぜそれを言わない?

ずっと前から書いてきたが、僕は、東電や政府の原子力関係機関の連中は、逮捕され刑事裁判にかけられて然るべきだと思っている。
政府の事故調は「個人の責任は問わない」などと寝惚けたことを言っているが、冗談じゃない。
放射能の健康被害については意見が分かれるところなので言わないにしても、実際に住む家や仕事を失った人々が何十万人もいるのだ。
フクイチの近くでは、避難指示のために捜索ができず、見殺しにされた津波の被災者がいるはずなのだ。
これは立派な刑事事件だろ。

百歩譲って事故調は権力を執行する機関ではないので個人の責任を追及しなくてもまあ良いとしよう。
でも、警察や検察が黙っているのはほんとうにおかしい。
これじゃあ警察も検察も「権力」としての体をなしていない。
東京地検特捜部の人に聞きたいんだけどさ、こっそり捜査してるんだよね。
ある朝突然、東電本社に強制捜査が入って役員どもが逮捕される、という画を描いてるんだよね。
そうでなかったら厚生労働省の村木厚子さん事件で失墜した検察の威信は、さらに地の果てまで落ちて、二度と信用されなくなるであろう。
(逆に言うと、今ここで検察が東電強制捜査と役員逮捕に踏み切ったら、支持率大幅アップだよ(笑))

こういう話をすると「個人を処罰するとスケープゴートになって問題の本質的な解決にはならない」とか言う人がいる。
でもそれは違う。
スピード違反はたまたま捕まった人が処罰されるが、スケープゴートになったわけではない。
「捕まるかもしれないから速度に注意しよう」と、みんなに思わせるために取り締まりを行っているのである。
権力の振る舞い、法の執行というのは、そういうものなのだ。
つまり、もしも今後、原発を進めるということになったとしても、「事故を起こしたら監獄行き」という前例を作らなければならないのである。
それが法治国家というものだ。

と、
いうようなことこそ、マスメディアは主張すべきなのに、大組織に守られたキー局、全国紙の人は誰もやらない。
組織にいると、組織の自己保身こそが一番のプライオリティになってしまい正常な感覚が狂ってしまう、というのは記者会見に出てくる東電の連中を見れば一目瞭然だが、キー局や全国紙の社員もまったく同じ症状だ。腐った連中。

幸いにして僕が仕事をしている出版界はメディアの中でもまだ正常で、小出裕章さんの本を作らせていただいたりもした。
原発問題と闘っているフリーのジャーナリストの方々も、出版業界ではきちんと意見が言えている。
僕は大学を出るときに、出版か放送かどちらかに行きたいと思っていて、結局出版に潜り込んだわけだが、今となっては出版の世界に行って良かったなあと思うのだった。

あとこの本。
福島原発の真実 最高幹部の独白/今西憲之
¥1,260
Amazon.co.jp

フクイチの最高幹部に取材して、こっそり敷地内にも入れてもらったフリージャーナリスト今西憲之さんの、まさにスクープ本だ。
去年の3月4月、東電はメルトダウンしていないと言い張っていたいたが実際はメルトダウンを前提に資料をつくっていたこと、フクイチの現場でも本店(東電本社)の隠蔽体質に呆れていること、現場の状況がものすごく悪いこと、地震と津波、海水注入などによって劣化した原子炉が溶けた核燃料を取り出すまで持つかどうか(つまりこのままでは痛んだ原子炉がぶっ壊れて大量の放射性物質がまき散らかされてしまう)を現場の専門家は心配しているということ、などが赤裸々に綴られている。

今西憲之さんは『週刊朝日』9/16号、9/23号でまずはフクイチ潜入記の記事を書いたのだが、事故をなるべく過小評価し自己保身を図りたい東電にとっては、ジャーナリストがこっそり取材してありのままの事実を発表したのが大きなショックだったらしい。
そこで、「あの記事は捏造」というリークを裏で流していたようだ。
ほんとうに呆れるほど姑息な連中である。

(そうそう、amazonのカスタマーレビューには、この本に「★ひとつ(最低ランキング)」をつけた人のコメントがある。
どうやら原発推進の考えをお持ちのようで、「独白した最高幹部は本当に存在するのか?」というタイトルのもと
例えば「100ミリシーベルトの放射線を浴びれば,即座に身体への影響が出る可能性もある」(44頁)という「独白」があるが,多少なりとも原子力をわかっている人なら,こんなことを言うはずがない。放射線に対する素人の発言。
とか書いている。
でも、このカスタマーの言うことこそまったく出鱈目だよ。
原発推進のICRPでさえ、「約100mGy(β線で100mSv)以下では身体のどの組織も臨床的に意味のある(はっきりした)機能障害を示すとは言えない」と、非常に遠回しな言い方であるが、「100mSvを超えたら身体に影響が出る」可能性を認めざるを得ないのである。(「国際放射線防御委員会の2007年勧告」)
100mSvで即死すると言うことは考えにくいし、目に見える症状は出ないかもしれない。
しかし、回復され得ないDNAの損傷など、「身体への影響」が「即座に」出ていておかしくない、というのが放射線防御についての(原発推進派も含めた)国際的合意である。
このカスタマーは東電の回し者かな、と、うがった見方もしてしまう)


それからこれ。
SIGHT (サイト) 2012年 04月号
¥780
Amazon.co.jp

まだ全部は読んでいないのだけれど、ロッキング・オンの渋谷陽一さんが季刊誌『SIGHT』で繰り返し追究している、原発と日本のありかたについての最新号だ。

まさに「我が意を得たり」のタイトル。
編集者のひとりとして言えば、僕もこんなタイトルの本つくりたいなあ。
本音を言えば「奴らを全員、刑務所にぶち込め」なんだけれど。