謹賀新年 | 語り得ぬものについては沈黙しなければならない。

謹賀新年

ひとつだけ、はっきり言っておこう。

年が変わったからと言って、
福島第一原発の状況が良くなったわけでは、決してない。

去年の秋くらいからだいたい同じような状況だ。全然改善されていない。
誰も見ることはできないので、1~3号機の溶けた炉心がいったいどうなっているのか、まったくわからない。
今でも大気中に放射能をまき散らし続けているのはもちろんのこと、溶けた炉心が地下にめり込んでいる可能性もあり、それが地下水にぶつかれば、高濃度の汚染水が海に流れる。または、井戸水になる。川に流れる。
繰り返すが、世界中の誰ひとりとして、溶けた炉心がどうなっているのかわからないのだ。
(東電は「どこまで何センチ溶かしています」などと言うが、それは東電の勝手な仮定に基づいた計算結果に過ぎない。事故後何ヶ月も勝手な仮定と計算で「メルトダウンはしていない」と言い続けてきた連中だ)

年の初めなので、原発事故基礎編を書いておこう。
このブログを読んでくれているような人なら知っていることばかりだと思うけれど。

東電が毎日発表しているデータがある。(http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/index-j.html
「プラント関連パラメータ」という項目の、1~3号機の水位を見るとわかるのだけれど、4メートルある原子炉の中に、水は2メートルしか入っていない。半分しかない。
もちろん本来は、全部水で満たされていないといけないのだ。
言っておくけれど、今でも水は24時間ガンガン注いでいる。(もし注水をストップしたら燃料が高温になり(2800度)、水は全部蒸発して大量の放射能が放出される)
それなのに、水は半分しか溜まらない。

冷却水は循環させているという。もちろん一部の水は循環しているのだとは思う。
でも、僕はデータ解析はできないのだけれど、水で圧力容器満タンを目指していることは間違いない。
だって燃料棒(本来であれば圧力容器の中に立っている)がどうなっているのかわからないのだから、出来る限り水位を上げなければならないのだ。

それなのに、いくら水を入れても、半分くらいまでしか溜まらない。

要するに、汚染された水がどこからかダダ漏れしているのだ。

原子炉建屋の地下はコンクリートでできているが、マグニチュード9.0(関東大震災の45倍、阪神淡路大震災の1450倍)の地震で、どこかにヒビが入らないほうがおかしい。
数ミリのヒビでも水は漏れるのだから、まあつまり、汚染水が地下や海にダダ漏れ状態だ。

ていうか、そもそも原子炉の水位計というのは、たとえばお風呂のブザーのように直接水に浮かせて測るものではない。
圧力とかから計算して推定しているのだ。
原子炉が健全なときはかなり正確に測れるのだろう。
でも、この期に及んで数値の正確さの保証はないのだ。

ほんとうだったら誰かが行って水位計を調整すべきなのだが、放射線線量が高くて誰も近づけない。

つまり、1~3号機については、溶けた炉心がどうなっているのか、誰も何も、まったくわからないのだ。

4号機はまた別の問題があって、原子炉の中に燃料はないが、約二基分の使用済み核燃料が水で満たしたプールの中に入っている。
「使用済み」といっても、今は水の中にあるから良いのだけれど、もしも裸で出してきたら、近づいただけで人は死ぬ。冷やし続けなければ高温になって溶け出してしまう。
そんな、極めて危なっかしいものの入ったプールが、3階だったか4階だったか、要するにかなり高いところにある。
「そんな危ないもの、プールから出せばいいじゃん」と思うかもしれないが、できるのならとっくにやっている。
つまり、打つ手無しなのだ。

311の地震で建物は相当やられているはずだから、次に大きな地震が来たら本格的にヤバい。
なので東電も、柱の補強とかいろいろしているようだけれど、水素爆発で上が吹っ飛んだ建物である。そこに後付けで補強したってどこまで耐えられるものなのか。

ついでに言っておくと、使用済み核燃料プールには、最初に想定されていたよりも多くの核燃料が入っている。
なぜかと言えば、使用済み核燃料の持っていき場所がないからだ。

日本は国策として核燃料サイクルというのを掲げている。
これは、使用済み核燃料をもう一回使って発電しようという、理論的にはできるはずの話なのだが、技術的にはできない。
もしも可能ならば、一粒で二度美味しい話なので、原発を推進している欧米各国もずっと研究に取り組んできたが、やっぱりできないということになってあきらめた。
日本だけが高速増殖炉「もんじゅ」で核燃料サイクルの実験を続けていたのだけれど、事故続きだ。

普通の原子炉では、水の中に燃料を入れるが、「もんじゅ」ではナトリウムの中に燃料を入れる。
ナトリウムの厄介な点は、中が見えない。
そして、水に触れても空気に触れても、火がつく。
要するにナトリウムそれ自体がとっても危ないのである。
そんな中に核燃料を入れるという。
普通に考えて危険極まりない話なのだ。
案の定「もんじゅ」は1994年に初の臨界に達したものの翌年にはナトリウム漏れの事故が発生。
15年後の2010年5月にやっと運転再開をしたと思ったら3ヵ月後の同年8月には原子炉内に3トン以上ある中継装置を落下させてしまい運転停止、しかもこれが、どうやっても取り出せない。

「もんじゅ」はこれまで1キロワットも発電していないが、たとえ事故で止まっていても毎日5500万円の経費がかかるという。
あ、これ、税金ですから。

話を戻そう。

国としては、核燃料サイクル、という方針だ。
すなわち、軽水炉(福島第一のような原発)から出た使用済み核燃料は、核のゴミではなく、資源である。高速増殖炉でもう一度発電に使う、というのが建前なのだ。

だから、ちゃんと保管しておかなければならない。
でも、「もんじゅ」は上手くいかないし、保管する場所がない。

で、各原発建屋の中にある使用済み核燃料プールに、最初に考えたときよりももっとたくさん使用済み核燃料を入れることにしたのだった。

なぜかというと、使用済み核燃料の持って行き場がなくなってしまったら、原発を止めるしかないからだった。
原発を止めたくないがために、「使用済み核燃料プールに、もっと入れてもいいでしょう」ということになったのだった。

だから、福島第一原発4号機の使用済み核燃料プールには、原発二基分もの核燃料が入っているのだ。
万が一のことを考えるのであれば、なるべく分散させるべきなのに、政策都合で詰め込んでしまっているのだ。

そもそも、核燃料自体はウランから作る。
ウランは、地球にもともとあるのだけれど、放射性物質なので有害だ。(ウラン鉱山で働く人々が被曝で健康被害に遭っている)
で、採ってきたウランの中から核分裂しやすいものだけを取り出して核燃料にするわけだけれど、それで発電をしてしまうと、残った核のゴミが、最初に採ってきたウラン程度まで毒性が下がるためには数100万年単位の年月が必要だ。
核燃料サイクル、高速増殖炉で使用済み核燃料を再利用しても、やっぱり核のゴミは出る。
いずれにしても、原発をやる限り、核のゴミは必ず出る。
でも、それはゴミなのだから、どうにかしなくちゃいけない。
とはいっても、どうするの?

100万年とはどんな時間だろうか?
100万年前、もちろん人類はいない。
Wikipediaで見たら、「約78万年前 - 最新の地磁気の逆転」だってさ。
はっきり言って想像もできない年月だ。
もちろん、100万年後に危険になるわけではない。
100万年間、ずっと危険なのだ。

埋めればいい、と原発推進国は言う。
でも、そんな危険なものを自分の故郷に埋めてもいい、なんていうひとはまずいない。
世界中探してもいない。
世界で唯一、フィンランドのオルキルオトだけが穴を掘っている。
でも、計画では2020年からの100年稼働。
人間の持つ技術で、「1000年経っても放射能は漏れない」などというものは存在しない。
地層の硬いオルキルオトだって、100年後の人たちに、「じゃ、あとは任せた」という無責任なやり方だ。

富士山だって10万年前にできた山である。
埋めたと思っていても、何万年、何十万年という単位で言えば、ごっそり地上に出てきておかしくない。
しかも、日本と言えば、世界で起こる地震の10%が、この狭い列島で起こる。
埋める場所なんかない。

あとはMOX燃料の話とかいろいろあるけれど、酔ったので今日はしない。

とにかく。
こんなに大変なことが、今現在、起きていると言うこと。
これをちゃんと知らなければならない。

僕はほとんど東京にいるが、調べればきっと、内部被曝しているでしょう。
東京で赤ちゃんに母乳を与えているお母さんの多くも、きっと内部被曝しているでしょう。
赤ちゃんは母乳からセシウムを取り込みます。
粉ミルクだって安心できないのは報道の通り。

ほんとうに悔しいけれど、こういう世界になってしまったのだ。

政府は水棺をするという。
要するに、水で満たして核燃料を冷やし続け、放射能の放出を防ぐと言うことだ。
馬鹿なことを言うんじゃない。
圧力容器に穴が空いているのは政府、東電も認めているが、どこにどの程度の穴が空いているのかは誰もわからない。
それをどのように調べ、誰が、どうやって塞ぐのか?
人間がやるとすれば「死にに行け」ということだ。
もちろん、一人ではすまない。
何十人、何百人もの人を、死にに行かせるつもりなのか?

政府・東電の工程表で「廃炉」ということばが出てきたときにはびっくりした。(冷温停止ということばが出てきたときもそうだったけれど)
廃炉というのは、原発が建つ前の更地にすると言うことだ。
40年とかで、そうするという。
そんなことできるわけないではないか。
何を根拠に言っているのだろう?

これは、人類がかつて経験したことのない大惨事なのである。
スリーマイルのときは原子炉の外に核燃料は漏れなかった。
チェルノブイリのときは、国家の命令でのべ何万人もの人を「決死隊」として送り込むことができた。しかも事故を起こしたのは一基だけだった。
福島は三基がメルトダウンし、他の一基にも使用済み核燃料が残っている。
もちろん今の日本で「死にに行け」などと言うことは許されない。

当面(少なくとも数十年)は誰も突撃できないのだから、チェルノブイリのときのような石棺しかあり得ないだろう、と僕は思う。
コンクリートの建造物で覆うのだ。
地下にも、コンクリートの壁を埋め込み、地下水に触れないようにする。
ただこれも、数十年しか持たない。
チェルノブイリも25年経って、かなりの放射能が漏れ出している。
そこで、石棺の上からさらに石棺(第二石棺)をする、という計画になっている。
Fukushimaも、これを繰り返すしかないであろう。

政府はとりあえず今、体面を繕うために廃炉、更地にするとか言っているけれど、5年後くらい、ほとぼりが冷めた頃を見計らって、「石棺がもっとも現実的」だとか言い出すのだろう。いつもの薄汚い手段だ。

【追記・訂正】
昨夜は酔っ払って書いていたので(いつもだけど…)、数字に明らかな誤りがありました。
何を血迷ったか、もんじゅの維持費を一日550億円と書いてしまいましたが、さすがにそれはあり得ない。すいませんでした。
一日5500万円の間違いです。
でもそれでももの凄い金額だ。年収550万円の人の10年分を一日で使ってしまう。無駄の極致。
2012/01/04午前0時09分