カモが優雅に、可愛らしく泳ぐ。
そのたびに、水面が小さく波打つ。
まるで、純粋な波動が広がっていくみたいだった。
首が痛くて、今日も憂鬱な一日の始まり。
痛み止めの薬を飲んで、少しはましかな。
そんな私に娘が言った。
「駅まで送って」
「送らなきゃだめ? なんにもできないじゃん」
すると娘。
「なわけないでしょ(笑)私、東京行って東京から帰ってくるんだよ? その間になんでもできるじゃん(笑)」
「たしかに(笑)」
二人で大笑い。
その瞬間、気づいた。
「できない」を、いつの間にか言い訳にしていた自分に。
明日行こうか、行くまいか。
そう考えていた神社に、今日行ってみることにした。
なぜか「痛くて動けない」と思っていたのに、神社へ行くことは難しくなかった。
むしろ、体も気持ちも少し軽い。
会いに行ける。
……誰に?
神様?
なんだろう。
不思議な気持ちだった。
小雨だと思っていたのに、いつの間にか雨も上がっている。
最近、車を停める場所を変えたことで、しっかりと鳥居から入れるようになった。
今日も車を降りて、鳥居へ向かう。
何を考えていたわけでもない。
ただ、神社とは反対側の景色を見ていた気がする。
鳥居に近づいた、そのとき。
「にゃ~」
ん?
ネコ?
どこ?
すると、鳥居の脇からネコが私を見て鳴いている。
そして、鳴きながら近づいてきた。
えっ?
エサが欲しいのかな。
「ごめん、何もないぞ。何か持ってくればよかったな」
あっ、車に干しいもがある。
持ってこようか。
でも、その間に逃げちゃうかもしれない。
せっかくこっちに来てくれているのに、車まで戻るのはなんか違う気がする。
ネコの足にして、10歩あったかな。
そのくらいの短い時間。
なのに私は、こんなにいろんなことを考えている。
ひとつの行動をするだけなのに、人間ってものすごい量のことを考えているんだな。
いや。
私が考えすぎるタチなだけか(笑)
そうだ。
だから迷いに押し潰されそうな今、私は足繁く神社に来ているんじゃないか(笑)
そんなことを考えていたら、目の前のネコがやけにふくよかなことに気づいた。
飼い猫?
神社さまのネコ?
エサを求めているわけでもなさそう。
するとそのネコが、私に近づいてきて、
「にゃー」
と鳴きながら、足に体をこすりつけてきた。
なんだ、なんだ?
私たち、初対面だぞ(笑)
それなのに、ネコがこんなにも気を許してくれている。
ふわっと嬉しくなって、
「ありがとう。ありがとう」
何度も自然に口から出てきた。
腰を下ろしてみる。
逃げちゃうかな。
……逃げない。
ネコには詳しくないけれど、顔はハチワレ。
そのハチワレの間に赤茶色の毛。
体は白と赤茶の三毛。
しっぽも、その三色。
そして、とてもふくよか。
毛は柔らかくて、気持ちいい。
外ネコを、こんなふうに愛しく撫でたのは初めてだった。
しつこくしたら嫌がるかなと思ったのに、どんどん触らせてくれる。
嬉しくて、嬉しくて。
話しかけながら、柔らかい毛並みを何度も撫でた。
しばらくすると、
「この子が私に飽きてくれるまで、神社に入れないな(笑)」
なんて思った、その矢先。
ゴロン。
今度は体勢を変えて、お腹を出してきた。
「何なんだ、これ!?」
「私たち、初めてだよね(笑)お腹まで出してくれるの?(笑)」
愛しくて、愛しくて。
お腹まで思う存分ナデナデ。
「写真撮らせて」
そう言うと、私の足元に座って、私のほうを見る。
嘘みたいな瞬間。
写真を撮るときには、そううまくはいかないだろうと思った。
でも……
撮れた。
シャッターチャンスを逃すまいと少し焦ったけれど、ネコはゆっくり待っていてくれた。
不思議。
こんなこと、あるのかな。
ずっとこのままでもいい。
でも……帰れないな(笑)
こんなに気を許してくれたネコ。
もしかして、ついてくるかな。
「一緒に行こ」
誘ってみた。
歩く。
ネコも歩く。
少しずつ、少しずつ進んでいく。
鳥居の直前。
二段ほどの階段のところで、ネコが止まって座った。
ここまでかな?
そう思ったら、階段のところでリラックス。
あまりにも可愛い。
こんなにも私に心を許してくれたネコ。
もう一度、話しかけながら写真を撮った。
「写真撮るよ」
一通り撮影も終わって、もう一度誘ってみる。
「行こ」
歩く。
何度か振り返って、ついてきているのを確認する。
ついてくる。
……なんとなく、
ここまでかな。
そう思ったときだった。
鳥居の向こうから、女性がひとりこちらへ歩いてきた。
ネコが、その女性を見つけた。
そして、女性のほうへ歩いていく。
「お前は誰にでもそうだったのか(笑)」
そう思ったら、
あっ、違う。
「にゃー」
と鳴いて歓迎はしている。
でも、私のときみたいにスリスリはしない。
女性と目が合った。
「なつっこいですよね」
思わず声をかけた。
すると、その女性は、
「ここ、初めてなんです」
と言う。
どこからか見ていたのだろう。
「飼い猫ですか?」
「いえいえ(笑)」
「なんか、ふっくらして懐いているから、あなたのネコかと思いました(笑)」
そんな会話をして、女性と別れた。
するとネコも満足したのか、
さっきまでの不思議なネコから、
いつもの普通のネコに戻ってしまったように感じた。
あの時間は、なんだったんだろう。
神社に来るまで、
「今日は痛いから、何もできない」
そう思っていた私。
でも、娘との会話で、
「できない」と決めつけていた自分に気づいた。
そして神社へ来た。
そこで私は、ネコに出会った。
ほんの数分の出来事なのに、
たくさん考えて、
たくさん笑って、
たくさん触れて、
「ありがとう」を何度も言った。
そして、不思議なくらい心が軽くなった。
もしかしたら今日は、
神様に会いに来たつもりだったけれど、
神様がネコの姿で、
「大丈夫。そんなに考えなくてもいいよ」
と、ちょっとだけ会いに来てくれたのかな。
……なんて(笑)
そう思ったら、
今日の出会いが、ますます愛しくなった。