21世紀型ミスターパーフェクトの課題/オカダ・カズチカ【俺達のプロレスラーDX】 | ジャスト日本のプロレス考察日誌

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俺達のプロレスラーDX
第21回 21世紀型ミスター・パーフェクトの課題/オカダ・カズチカ





2012年1月、新日本プロレスの親会社が変わる。

これまで新日本を支えた親会社であるユークスの全株を株式会社ブシロードが取得したのである。

それが全ての始まりだった。  


親会社変更とともに新日本プロレスは成長を遂げる。

テレビCMや雑誌、電車の車体広告と駅の看板広告などの大々的な広告展開を実施。

またレスラーのメディア露出も増えた。  


YouTube、ブログ、Twitter、インターネット中継などのSNS&ネット戦略も成功した。

新日本買収時の売上11億円をわずか2年で売上2倍にしてみせた。  


ブシロード体制の新日本の象徴的存在こそが今回取り上げるオカダ・カズチカである。

オカダ・カズチカは親会社変更時、アメリカから凱旋帰国直後だった。  

レインメーカーの異名通り、オカダはブシロード体制直後に棚橋を破り、IWGP王座を奪取してから新日本にはカネの雨を降らせた。

マネージャーの外道の言葉を借りると「レベルの違う」プロレスを展開。


史上最年少のG1CLIMAX優勝、史上最年少のプロレス大賞MVP、さらに2年連続のMVP。

新日本だけでなくプロレス界全体にもレインメーカー旋風は吹き荒れた。

今のプロレス界は彼を抜きには語れない。


オカダのプロレススタイルが近代的かというとそうではない。

どちらかというとクラシカルである。

危険な頭部落下技が横行している現代プロレスにおいて彼の危険な技はツームストンドライバーくらいだ。


オカダは技を敢えて出し惜しみする。

元来運動神経抜群でメキシコ仕込みのジャベなどを持っているのに、繰り出す技を絞って選出。

これもオカダ流である。

だから彼の引き出しは底なし沼である。

また受け身のうまさも達人・外道のお墨付きだ。


プロレスラーとして恵まれた才能と内に秘めたハートの強さを持つオカダ。

彼を見ているとある男とだぶって見える。

絶対的な受け身のうまさ、技の出し惜しみ等共通項も多い。

その男は完璧男と呼ばれた。


完璧男、ミスター・パーフェクトと呼ばれた男の名はカート・ヘニング。

アメプロが生んだ最高のレスリングマスターの一人。

得意技はパーフェクトプレックス(フィッシャーマンズスープレックスホールド)につなぐまでの過程の美しさは芸術である。


カートは運動神経抜群でありながら、技を敢えて出し惜しみする。

その姿勢はオカダと共通している。

オカダもパターンを変えながらも最後はレインメーカー。

必殺技に繋ぐ過程の鮮やかさも両者の魅力。


カートには同世代に最高のライバルがいた。

カートと同様に達人であるブレット・ハート。

二人の戦いは20世紀プロレスの名勝負の一つである。

しかし、オカダには同世代ライバルがいるのか?


現段階ではオカダには同世代のライバルはいない。

内藤哲也は候補であるが、まだその域には到達していない。

オカダ、いや新日本にとっての課題とはオカダの同世代ライバルを作り出すことである。

プロレス界において同世代のライバルの存在は大きい。

スーパースターには必ずこの男には負けたくないという気持ちを抱き、相乗効果を与えて切磋琢磨できるライバルがいた。


長州力-藤波辰爾、ジャンボ鶴田-天龍源一郎、三沢光晴-川田利明、橋本真也-佐々木健介、永田裕志-鈴木みのる、丸藤正道-KENTA、棚橋弘至-中邑真輔…


ライバルの存在は自らが眠っている未知の能力を引き出してくれる。

さすがに「オカダはレベルが違うから大丈夫」という話ではこの問題は解決しない。

プロレスは一人ではできないのだから…


新日本が2013年大々的な公開新人オーディションを行ったのもその一環であろう。

試合を通じて、互いに成長できる存在こそ今のオカダには必要だ。


オカダのもう一つの課題。

それは彼自身が世間を巻き込むような存在になり、プロレスの地位を向上させることである。

これも想像以上の高いハードルである。

この課題は選ばれた人間しか挑めないのだ。


蝶野正洋はこう語る。

「オカダが今どれだけ世間に認知されているのかというと正直厳しいかもしれない。

プロレスラーとしてかっこいいし、他のスポーツマンと同じテレビ番組に出ても目立つはずだ。」


またオカダが在籍するCHAOSの先輩・中邑真輔はこう語る。

「もっと心の丈を吐き出せって思いますね。

うまいこと言おうとか、いいよ、そんなのはって。

プロレスの細かい技術とかに関しては申し分ないし、

好きなようにやればいいけど、もっと生々しい思いの丈を出してくれたらいいのになと思います。」


レインメーカーが抱える二つの重い課題。

もしこの課題が解決したとき、我々はまだ見たことがないオカダ・カズチカに出会えるのかもしれない。

その時までオカダはトップランナーでなければならない。


オカダはかつてこんなことを語ったことがある。

「馬場、猪木のプロレスしか見たことがない皆さんにレベルの違うプロレスを見せたい」

世間への大胆な宣戦布告である。

もしオカダが世間を巻き込むような存在になり、プロレスの地位を向上させメジャーにさせたその時こそ、彼は真の意味でレベルの違う男となる。

その時、彼の対角線に立っているライバルは一体誰なのだろうか…