俺達のプロレスラーDX
第9回 燻っている者達の灯/大家健
2013年2月、その男は記者会見で、尋常じゃない熱量を発しながら新団体を旗揚げした。
新団体のスローガンは
「プロレスをメジャースポーツにする」
とんでもない大風呂敷な目標を掲げたものである。
新団体を旗揚げしたその男の名は大家健。
カリスマ号泣師や汁レスラー、獅子王と呼ばれている。
彼が旗揚げした団体はガンバレ☆プロレス(通称ガンプロ)である。
このガンプロの記者会見は動画配信され話題となる。
一連のガンプロ劇場の幕開けである。
ガンプロにはこれでもかと燻っている者達が集まる。
記者会見にいきなり難癖をつけてきた浪口に暴行され泣きながらリベンジを誓う映像班の今成夢人。
プロレスも芸人も何をしても中途半端な自分を変えたいばってん多摩川(ガンバレ玉川)。
学生プロレスの天才としてユニオンに入団したが挫折、しかしプロレスを諦めきれなかった冨永真一郎。冨永のライバルで就活に失敗し続け精神的な弱さが見える尾谷友洋。
アメプロキャラが福田洋の二番煎じだと言われ現状打破したい翔太。
彼らは足掻いていた。
そして代表の大家自信も燻っていた。
ガンプロ以前の大家はいじられキャラ先行でとても団体の代表になるような人間には見えなかった。
これは燻っていた男が決起し、他の燻っている者達とともに戦いを続ける物語である。
今回はガンプロ以後の大家を中心にピックアップしていく。
大家はガンプロを旗揚げしてから、
白のガンプロTシャツにジーンズというFMW時代の大仁田厚のようなスタイルになった。
また会見ではネクタイなしスーツも定番となる。
そして彼が一貫して語っている目標、
それは 「プロレスをメジャースポーツにする」 という壮大な目標だが、
それを大家がいうのかという突っ込みはあるだろう。
しかし、彼と仲間たちは本気だった。
いつしか本気は観衆に伝わる。
試合後に行われるガンプロ集会もかつて高木三四郎が試合後にやっていた三四郎集会のオマージュなのだろう。
ここで大家は問いかける。
「プロレスに救われたのじゃないのか!!プロレスに恩返ししたいと思わないのか!?」
最初は笑い半分で聞いていた大家の話もだんだんと観衆も真剣に耳を傾けるようになる。
もしかしたら燻っている彼らに観衆は自分自身を重ね合わせいたのかもしれない。
彼らをほっとけない、何とか報われてほしい。
それは共存関係である。
共存関係が生まれた観衆はいつしかガンプロユニバースと呼ばれる熱狂的なファンとなる。
彼らも選手同様にガンプロを守ろうという気概が強かった。
敵役の浪口にファンは激怒し、野次で応酬した。
大家が周囲を巻き込んでの熱は高まった。
ガンプロユニバースや燻っている者達が報われる時がきた。
大家&今成&尾谷VS浪口&小笠原&TAMAGAWA(ガンバレ玉川)のイリミネーションマッチでのことである。
なんと今成が浪口にオーバーザトップロープで勝ったのだ!
その瞬間会場は爆発した。
ファンの中には号泣している人もいた。
この頃になると大家は一種のカリスマと化していく。
不器用な生き方しかできない燻っている者達。
そんな彼らに自分を投影し支えるガンプロユニバース。
実はガンプロユニバースも燻っている者達ではないかと思う。
燻っている者達の集合体こそガンプロではないかと私は考える。
大家は浪口とのアルマゲドンを制し、ガンバレ☆プロレス第1章は幕を閉じた。
次に大家が目をつけたのが古巣ユニオンプロレスとの団体対抗戦だった。
これは大博打だった。
しかし、ユニオンからは本気に受け取ってもらえない。
そこで彼らは動く!
ユニオンの相手にされないと見るや大家は今成とともにユニオン新木場大会に乱入し、
音響室をジャックしたのだった!
宣戦布告をしたガンプロ勢はビラをまら巻き、マイクでアジテーションをした。
まるで右翼の凱旋活動。
彼らの頭にはガンプロの鉢巻きが巻かれていた。
大家はよく言う。
プロレスによって救われたと。
しかし燻っている者達にとって、大家自身もガンプロによって救われたのではないのか。
ガンプロがなければ自分をさらけ出したり変えることもできなかった。
だからガンプロの存在は大きい。
燻っている者達の最終目標は今のところは大家がぶちあげた国立競技場進出。
さすがにこれは無謀すぎる。
後楽園にも現時点(2014.9月現在)進出していない団体。
しかし、大家はやっぱりこう言うのだ!
「思ってしまったことは仕方がないでしょう!」
かつては二度失踪、引退、退団、火縄潜り、自殺未遂…
波乱万丈の生涯を送り、ガンプロ以前までずっと燻り続けた大家。
彼はいつのまには燻っている者達の灯のような存在になっていった。
大家がやるのだから俺も頑張ろうと…
もしガンプロが世間に知れ渡り、念願の国立競技場に進出し、
最後にあのBzのBadcommunicationが流れ、大熱狂で躍り狂うとき、私はこう記すだろう。
「人生大逆転!」
燻っている者達はその夢を大家に託すのだ…