窓の外の電線が不自然な揺れ方をしていた。

変だな…と思い、窓辺に近づく。

 

細い電線に、二羽の鳩が留まっていた。

だがこの二羽の様子…なにやら、穏やかではない。

片方のお互いの羽を目いっぱいに広げては、見せ合っている。

 

閉じては、開き、閉じては、また開き…

どうだ!俺の羽は逞しくて大きいだろう!

…こっちこそ、どうだ!観念しろ!

その様子はまるで侍同士の鍔迫り合いのようだった。

 

…はて…これは。

雄同士の争いだ。

…という事は、雌が近くに居るはず…。

 

と、一羽がつっと飛び立ち、

一番高い電線に留まった一羽の鳩の隣に留まる。


つ、つ、つ…と近寄る。

…ねえ彼女、俺と付き合わない?

とでもいうかのように。

 
雌は、つ、つ、つ…と離れた。
…チッ!ダメか。
雄は先ほどのもう一羽の雄の留まった電線へ戻り、
また激しい鍔迫り合いを始める。
 
オウオウ!どうだ!
お前こそ、いい加減諦めろ!
 
余りに激しくやり合ったので、バランスを崩して二羽とも地面に落っこちてしまった。
地面に落ちても二羽は争いを止めない。
相変わらず、片方の羽を広げては見せ合い、閉じては、又広げる。
 
あぁ、男って、どこでもそうなんだな。
満員電車で肩が触れた、押した、押されたで、いさかいを始める男達を思い出した。

ひとしきり、やりあったあと、一羽が諦めて、サーっと逃げて行った。

 

闘いに勝った一羽は

つっと一番上の電線で待つ雌の所へ飛んで行った。

 

つ、つ、つ…と雌に近寄る。

今度は雌は逃げなかった。

二羽は仲睦まじく寄り添って、嘴を絡め合った。

…まるでキスしているみたいで…変かも知れないが、私には息をのむほどロマンチックに映った。

 

…ねえ、いい?

雄がささやいたかどうかは解らないが、

雌がおとなしく身を屈めたかと思うと、雄が飛び乗って交尾を始めた。

自然界の動物だから…あっという間に終わってしまったけど。

 

あの激しい鍔迫り合いの後だったし

雄は精魂尽き果てたのだろう。

その後下を向いて、ボーっとしているような様子が何となく、人間の雄とも通じるような気がしてほほえましかった。

 

雌はまだ雄に構ってほしかったようで、

…ねえ、まだ出来る?

と囁いたかどうかは解らないが、

雄にすり寄ってつついて見せる。

 

…ごめん、もう無理だよ…

と、雄が言ったかどうかは解らないが、

精魂尽き果てた雄は、ツッとどこかへ飛んで行ってしまった。

 

…すみません、種は違えど他所の睦言の覗き見をしてしまいました。

でも、ロマンチックな二羽の様子に軽く感動したのも事実です。

 

睦言は、恋する二人でしてこそ美しい…

もう一度、味わいたいものです。