恐竜は灯されながら | 水面からめくりとった水びたしの月

恐竜は灯されながら

大昔の微生物の

死骸の堆積したものが

今われわれの使っている

化石燃料

石油となっているのです

それが われわれの

文明を支える

電気を作っているのです


教師の話の

微生物の「び」の字を

聞きもらした少年


やがて

ゆっくりと

恐竜が 頭をもたげる


あの赤い光も

白い光も

もとは大昔の生物

三葉虫や 恐竜なんだ


恐竜は家やコンビニや学校に灯されながら

歌を歌う

夜の歌 永遠の歌

沈黙の歌

太古の歌


恐竜は 噴水を照らしながら

昔話をする

陽光に照りかえる羊歯の

永遠のような昼下がり


明日みる夢までも

雲のスクリーンに

照らしだされていた


蝶は蝶の影を追って

山を越えていった


隕石が降ってきたときはこわかったよ

星はきれいなだけじゃなく

ときに凶暴化するんだね


恐竜は

街路や塔の上で

星明りや月明かりの

代わりを務めながら

ひとりごとを言う


とてもいい風が吹いてきた

海のにおいがするよ

エイやアンコウやホタルイカの

大群が群れをなして

空をわたっていく


恐竜は水平線や稜線の

点線となってきらめきながら

木や屋根やベランダを這う

電飾になってまたたきながら

すこしずつ 蠢き

増殖してゆく


恐竜たちと踊ろう

もう 朝は来ない

高い山へ登ろう

恐竜の光で地上がいっぱいになったから

朝が 一旦闇に溶けた世界を

新しく構築することはもうない


恐竜たち

さあ 踊ろう

死んだことなんか忘れて

恐竜たち

さあ 踊ろう  

絶滅したことなんか忘れて