「くそっ!たかだか二人に、一体どれだけ投入してくるつもりだよ!」
俺は背負っていた大切な人を、攻撃を受けにくいだろう岩陰に隠れさせ、敵陣に乗り込んで行こうとした。
その時、その大切な人の頭を撫でつけ、言葉をかけた。
「行ってくるよ、クラウド。多分これが最後の戦闘だ。これが終わったらミッドガルに辿り着く。そうしたら、二人で何でも屋やろうぜ。」
「そんなに寂しそうな顔すんなよ。待っててくれよな、言ったろ?いつまでも俺たちは一緒だ。じゃあ!」
俺は、自分と大切なあいつとの未来のために、敵の中に飛び込んで行った。
「二人の自由のために……いらっしゃませぇー!!」
*****
あれから半年ほどたち、プレートの上どころかここスラムにも、反神羅勢の動きが見えてくるようになった。
あのミッドガルを臨む丘での神羅の追っ手との決戦後、あの神羅屋敷の実験室での研究のせいか、蜂の巣状態にされても心臓の鼓動を停めることなく、数分後に息を吹き返した。
そして、岩陰に隠れさせていた大切で愛しい相棒を担ぎ、ここスラムに無事逃げ込んだ。
無事?実際は無事ではない。実は、あの負傷はジェノバの力をもってしても、生命維持がやっとだったらしくソルジャー級の戦闘能力は失ったようだ。
それでも、そこらへんの神羅の一般兵には負けねぇけどな。
そして、逃げたその足でクラウドと共に昔から顔なじみで信頼のおける友のマイケルが経営している飲み屋の二階に間借りをさせてもらうことになった。
初めは一時的なつもりだったが、その話をそいつにしたら「クラウドはどうするつもりだよ!そこのところちゃんと考えてやれ!」と怒鳴られて、取り敢えずそこにいさせてもらうことになった。
マイケルの店の常連で、神羅の研究所の元研究員だったシルビアという女医を紹介された。
クラウドの魔晄中毒をなんとかして治せないかと藁にもすがる思いだった。
本当は神羅に関わっていた者との接触は危険なため、極力かわした方がいいのだが、魔晄中毒は普通の医者には治せないとの事なので、背に腹は変えられずクラウドを背負ってスラム内のそいつのやってる診療所に行った。
診療所というよりかは、託児所?と思わせるその建物は、何故かそこらから子どもの笑い声が聞こえてくるのだった。
「ちわーっす!マイケルからの紹介で観てもらいに来たんすけどー!」
閉まっているというか、立てかけてあるだけと言った方がいい状態の扉の向こうから、不機嫌そうな声で返答が返って来た。
「…うるさい…こっちは夕べ運ばれてきたガキの治療で寝てないんだ。デカイ声出すなよ!」
「いや、あんたの方がデカイ…」
「なんか言ったか?」
「イエ、なんにも!」
「さっさと入ってこい!ああ、その扉壊れてるから壊すなよ?弁償させるぞ?」
って、もう壊れてるじゃん…。とにかくそーっと壊さないようにクラウドを背負ったまま診察室らしき部屋に入って行った。
***
中にいたのは、先ほどの声からは想像できないか弱そうで美しい女医だった。
「ちょっと待ってて!」
そう捨て台詞を残して、シルビアは奥に走って行った。
俺は取り敢えずクラウドを寝台の上に座らせ、俺もその隣に座り戻ってくるのを待った。
しばらくすると、バタバタと足音が聞こえてシルビアが戻ってきた。
「お待たせしました。」
出てきたシルビアは見事に変身していた。
「夕べ、反神羅勢の争いに子どもが巻き込まれてね、その子が運ばれてきて顔一つ洗っていなかったから。悪かったね。」
「いえ、で、その子は?」
彼女はふと暗い表情を浮かべた。
「ダメだったよ。なんの関係も無い子どもまで巻き込むなって思うよ!」
「あっ、さっきマイケルの紹介って言ってたね。聞いてるよ?魔晄中毒だって?」
シルビアはクラウドの前にしゃがみ込み、瞳孔やら脈やらを測り始めた。そして体温計を俺に渡して計らせるように言った。
「魔晄中毒患者ってね、こうやって意識がない様に見えるだろ?でもね実際は伝えられないだけでわかっていると思ってる。」
「えっ?」
「私の付き合っていた人が、ソルジャーの処置を受けてね。前調査では魔晄耐性は低くはなかったんだけどね…失敗して魔晄中毒になっちゃった。神羅に勤めてた私は、彼の処置の担当をしてたから、目の前で彼がおかしくなっていくのを目にして…彼はそのまま処分された。私は憤りを感じて、そのあとすぐ神羅をやめたんだわ。」
彼女は、ふと視線をクラウドに向けて呟いた。
「彼はあなたの大切な人?」
「ああ、とても」
「だったら、毎日こえをかけてあげて?彼にきっと伝わっているから。取り敢えず進行を止める薬は出しておくから…住まいはマイケルの店の上だったっけ?」
「はい。」
「暇な時、私が往診に行っていいか?ここに通うのも大変だろうし。」
「頼む…あのさ、クラウド…治るのか?」
シルビアは先程とはうってかわって優しい笑顔を浮かべて答えた。
「信じるものは救われる。かな?私も内密に治療法調べるから、ザックス…あなたも決して諦めるな。ね?」
俺はその言葉に救われて、強くうなづいた。
****
クラウドを背負って、二人の暮らす部屋に戻ってきた。
正直言って殆ど諦めていた。俺の仲間内にも、科技研の治療と称した実験で魔晄浴びすぎて中毒に陥ったものが、過去に何人かいた。
一旦ソルジャーの力を手に入れると、欲が出てもっと強くなりたくなるもので、そういう輩を狙い撃ちして研究員達は対人実験をする。そして、個々の耐久限度を超えた魔晄を浴びせて、廃人にしていたのだ。
実はジェノバ細胞はさほど注入しない。10ccシリンダー一本分ぐらいを注入する。
そのジェノバ細胞を己の体に定着させるために、魔晄を浴びる。うまく行けばジェノバ細胞が己の細胞を侵食して取って代わるわけだ。
クラウドが実力もあり、努力してもソルジャー試験にパス出来なかったのは、この魔晄耐性が低かっーーいや、彼の場合は昔検査結果を見せてもらったが、殆ど0に近い単位だった。
その彼が、5年間という長い年月を魔晄漬になっていたのだ。中毒もかなり程度の酷いものになってしまった。
今まで見てきたそういう患者は、気が触れたようになり最終的に死を迎えていた。
俺は、クラウドもいずれか…とずっと怯えていたのだ。
なのに今日、確実ではないが良い手応えを感じることが出来たのだ。嬉しくないわけがない!
俺はクラウドを食卓の椅子に座らせて、クラウドが咀嚼出来る程度の流動食を作って食べる準備をしていた。
椅子に腰掛けたクラウドは、首を力なく項垂れさせて、体をグラグラさせながら、俺の料理をまっている。
クラウドの隣に座り、熱々の流動食をスプーンですくいフーフーして覚ましてから、口に入れてやる。
今日は少し甘めの味をつけてやるために、バナナをすり潰していれてやった。クラウドは気に入ったのか口の開く回数が大きいがする。
「美味いか?たまには甘いもんも食いたいよな?そう思って、バナナをお客さんにもらったから、やる!」
「う、う…ぁ」
返事を返した?気のせいであってもすごく嬉しくて、おもわずクラウドを、抱きしめてしまった。
「うう…」
「すまない…キツかったか?」
「……」
「クラウド、これ食ったら風呂入ろうな。今日は風呂新しくしてもらったんだ。これでいつでも好きなだけ入れるぞ。お前、風呂好きだったもんな。」
「……」
***
(暖かい…)
ふと意識がクリアになる。もう神羅屋敷からザックスと二人逃亡して1年になるはずだ。
(ザックス、疲れているんじゃないかな?)
暫く休もうと、ザックスに伝えようとしたが、口を動かすのも困難な状態だったので、伝えることが出来ない…。
気がつくと、ザックスは俺の身体を岩陰の見えない所に隠し、いつものように頭をかき混ぜて「待ってろクラウド。この戦いが終われば二人でミッドガルに行こうぜ!」
そう言って、ザックスは数え切れない敵陣に向かって戦いに走って行った。
暫くして、煩いぐらい聞こえていた銃声や人の怒声が聞こえなくなった。
ザックスはどうしたんだろうか?まさか…!
状況が全く分からずに怯えるしかない俺の元に、少し重みを感じる足音が聞こえてきた。
ふと前方を見ると、ザックスが瀕死の状態で立ちすくんでいた。
そして、俺に向かって笑顔を見せて俺を担ごうとしていた。
「クラウド…終わったぜ…で…も…少しだ…け…少しだけ…休憩…な 」
そう言って、ザックスは崩れ落ちるように体を横たえた。
「うぅ…あ…ぁ(ねぇ!ザックス!しっかりして!)」
俺は全く機能していない手足を必死で動かし、ザックスに近寄る。脂汗が額に浮かぶ。本当に少しだけだが動いた、気がする。
その手を倒れこんでいるザックスの方に伸ばした。
(も、もう少し…)
ザックスはビクともしない。
(まさか…ザックス!しっかりしてっ!)
ザックスの姿を見ようと、次は瞼に意識を集中してうごかす。
全開には程遠いが薄っすらと景色がわかる程度には瞼が開いた。
目の前に飛び込んできた光景に、俺は動揺を隠せない。
1stのユニフォームである黒いニットは、神羅兵からの攻撃で蜂の巣のように破れている。
そして、横たわったザックスの下には赤黒い地溜まりが出来ていた。
このままだとザックスは…!
俺はなす術もなく、ただ見つめているしか出来なかった。
また意識が遠のくのを感じ始めた。
(まだだ!今ここで眠るわけにはいかない!そんな事したらザックスが死んじゃう!)
しかし、抵抗も虚しくまた白い霧が俺の頭の中に充満してきた。
「う、うぁ」
それっきりクラウドはまた別の世界に戻ってしまった。
***
あれからどれくらい経ったのだろうか?
ふと気がつくと、朝靄が辺り一面を覆っていた。
俺は重い身体を叩き起こし、そばの岩に身体を持たれさせた。
「くそっ!あいつら無茶苦茶やりやがって…。」
身体を手で確認すると、手足、胴体全てにこれでもかってくらい弾が打ち込まれていた。
まだ体内に残っているものを取り除きながら、その傷を確認する。
「まるで蜂の巣だな。」
辺りを見渡すと、自分が横になっていた場所に帯びただしい量の血溜まりが出来ていた。
「普通の人間だったらアウトだな。」
手足を動かしてみる。やはり動きは鈍い。ジェノバ細胞とやらは生命維持に力を注いだようで、これじゃまた襲われたら次は戦えねぇなと思った。
「!っそうだ!クラウド!」
クラウドは俺が倒れていた所に手を伸ばした状態で倒れていた。
すぐさま近寄り脈を確認する。
「よかった!生きてる…」
傷はないようだ。俺は意識のないままのクラウドを抱き起こし、力を込めて抱きしめた。
「クラウド…心配かけてごめんな…なんとか神羅のやつを追い払えたよ。まあ、少しだけ怪我しちまったけどさ、もう治りかけてる。すげえなジェノバって。」
「さあ、ミッドガルはもうじきだ!張り切って行こうぜ!」
俺はクラウドを背負いながら、ミッドガルを見渡す崖を後にした。
あと少し歩けば自由が手に入るんだ。俺たちは自由なんだよクラウド…そう背中の温もりに囁きかけ、歩みを進めて行った。
2013/12/6