シルビアがザックス達の住まいを往診したのは、そんな二人の感情が交差しつつあった頃だった。
ここ最近は神羅の監視も厳しくなり、なかなかここを訪ねられなかったため、クラウドの現状が気になっていた。今日は目立たない様に仲間に頼みここまで連れてきてもらった。
何故危険を犯してまで、ここに来る必要があったのかというと、裏情報からザックスの奴が最近スラムの教会に入り浸っていると入ってきたから。
その情報を聞いた時、古代種の娘と接触すれば、自ずと神羅の情報網に引っかかるとわかっているだろうに、そんなこともわからないほど入れあげているのかと、怒りを覚えた。
ただ、神羅も反神羅を唱える者たちの動きが活発化してきたこともあり、あの二人の逃亡者に関しては既にデーター上は死亡している事になっている事と、私が急いで流したソルジャーザックスは、既にソルジャーの能力を失っているとの情報を受けて、今の所動き出す様子は伺えない。ただ、クラウドは純粋なS細胞の持ち主の上に、失敗作とはいえあの英雄セフィロス以上の能力が隠れている可能性もあるため、まだ神羅の監視も厳しいのだ。
部屋にノックをして入って行くと、案の定クラウドだけがベッドに身体を傾けて座り込んでいた。
薄暗い部屋だから、本当はカーテンを開けて陽を入れてやりたいのだが、どこで神羅が見ているかわからないため、それも叶わない。
ベッドのクラウドの元に寄り、とにかくざっと視診を行った。後退はしていないらしい、進展もないが。
クラウドに「すまない、少し服を脱がせるぞ?」と一言詫びを入れて、服を緩めた。
すると、かすかなアンモニア臭が鼻についた。下半身を見ると少し失禁をしていた。クラウドの汚れた下着を取り、シーツも変えてやろうと腰に手を置くと、丁度ベッドと支えのクッションの当たる場所に褥瘡が出来ていた。
「あいつ!おいクラウド!まさか、あいつ帰ってきていないのか?」
あんなに大切だと言っていたのに、こいつに目もくれないくらい入れ込んでいるのか?古代種の娘に。
腹立たしさを紛らわすようにクラウドを抱きかかえ、シャワーを浴びさせる。女の私にも抱え込めるくらい軽くなった体。昔の彼に酷くだぶる。
シャワー後、身体を拭き新しい下着を履かせ、シーツ交換して褥瘡に薬を塗り響かないように腰掛けさせた。
するとどこからか、紙が落ちてきた。それは前にザックスに渡した神羅のソルジャー専門の療養所のチラシだった。
確かにこれをザックスに渡した時は、神羅の意向を読めていなかった。実際この施設は療養所などではなく、ソルジャーの廃棄処分施設だとその後の調査でわかった。
そのチラシをクラウドは目で追っていた。シルビアはその時、クラウドの意識が戻っている事に気がついたのだ。
「おい!クラウド!お前、わかるのか?」
すると、クラウドの目が自分の方に向いた。しかし、目が動くだけなのでなかなか言いたいことが読めない。しばらく会話を繰り返していると、返事を返していることが分かった。
Yesは縦にNoは横に目を動かす。
「クラウド、この事ザックスは知っているのか?」
クラウドが瞳を横に動かす。だろうな、知っていればほったらかしにはしないだろう。
「毎日こんな感じなのか?ザックスは。」
瞳が躊躇いつつ横に動く。こんなになってもまだ庇おうというのか?シルビアは先程からクラウドがチラシに注目していることに気がついた。
「これが気になるか?」
縦に動く。
「これはな、お前は気にすることはない。これはソルジャーの療養所とは名ばかりの、神羅によるソルジャー処分施設だと分かった。」
クラウドの瞳が、小刻みに動く。
「お前、まさかここに行きたいって言うんじゃないだろうね?」
瞳が縦に動くのを確認すると、シルビアは怒鳴る。
「馬鹿なことを言うんじゃない!」
目の前のチラシを奪い取り破り捨てる。シルビアはクラウドの白く細くなった手を握りしめて、話しかける。
「なあクラウド。前にも話しただろうが、私の大切だった人が同じように魔晄中毒になってな。その時私はまだ駆け出しの研究員で、彼が衰弱して行くのを見てるしか手立てがなかったんだ。だが、クラウドお前はまだ可能性がある、投げやりになるんじゃないよ?」「それに…私の持論だった魔晄中毒患者にも意思はあるというのを身を持って証明してくれたしな?」
そう言ってイタズラ小僧の様な笑みを浮かべて、シルビアはクラウドを励ました。
やってみればわかると思うが、瞳だけを動かすというのは思った以上に疲れるものだ。
クラウドも例に漏れず、疲労困憊の様子で横にならせたらすぐに静かな寝息が聞こえてきた。
「さて、問題はあの馬鹿元ソルジャーだな。」
時間は夕刻になろうとしている。仕事は終わるはずだ。ザックスに電話をかけるも留守電に切り替わってしまった。
***
今日の仕事は一件キャンセルが入った為早めに終わった。
少しくらい教会に寄ってもいいだろうと、そちらの方面に足を進めてるとけたたましく携帯電話が鳴り響いた。
発信者を見ると、シルビア女史だ。なんかあったんだろうか?とボタンを押して耳に当てると、シルビア女史の怒鳴り声が響き渡った。
『ザーックス!!お前は一体何してるんだ!』
あまりにもの大声なので、つい電話を耳から離してしまった。
『電話を遠ざけてるんじゃないよ!』
自分のしている事をピタリと当てたので、まさか何処かで見てるんじゃないかとキョロキョロ見渡した。
『あんたのことなんて見張っていないわよ!』
「な、なんでわかるんだ?」
『わかりやすいんだよ。』
『まあそれはいい。それより今どこにいるんだ?』
「んー?えっとぉ…5番街近く?」
『また教会に行くつもりか?』
「な、なんでそんなことまで先生が知ってるんだよ!」
『その事も含めて話がある。どこかで会えないか?』
「じゃあ、駅側のカフェで待ってる。」
『わかった。逃げるなよ?』
シルビアはクラウドの様子をみて、眠りが深い事を確認してからマイケルに世話を頼みザックスに会いに出かけた。
「あー…お手柔らかにな?先生。」
そうマイケルの呟いた言葉は多分聞こえてはいないだろう。
2013/12/9