次の朝、待ち合わせ場所に行ってみると、ザックスいや、マッドは来ていなかった。
暫く待ってみたものの、全く来る気配がない。
「時間間違えたか?」
ただ立ちすくんでいても埒があかないので、マッド達の住んでいる屋敷に直接行くことにした。
本当は、二人の仲がいい所をみたくはなんだが仕方ない。
俺は重い足を屋敷の方に向けた。
「多分ここだな。」
というか、カームに大きな屋敷は一つしかない。
っていうかデカすぎだろ?このご時世にこんな立派な屋敷を構えられるなんて!
俺のコスタデルソルの別荘もかなりでかいがそれ以上だ。
「いい所のお嬢さんなんだな、彼女。」
あまりの大きさに怯みがちな俺の右手を奮い立たせ、玄関コールのボタンを押した。
「はい。どちら様でしょう?」
重厚な扉が開き出て来たのは、これまたこういう家には付き物の執事らしき人物だった。
口髭を蓄えた温厚そうな男性が、クラウドを怪訝そうな視線で見つめた。
「どちら様?」
「こちらにお住まいの、マッドさんと待ち合わせをしていたんだが、時間が過ぎても来られないんで直接お伺いしたんですが…。」
「左様でございますか。こちらにお座りになって暫くお待ちください。」
男性は、俺を応接ソファーに座らせるとさっさと奥に引っ込んでしまった。
あまり居心地の良くない部屋で小一時間は待っただろうか、奥から足音と言い争う声が聞こえてきた。
「だから!」
「もういいじゃない!名前もわかったんだし、私たちが結婚するにはなんの不都合もない筈よ?」
「だからね、ジュリー。何度も言うけど、俺は自分を取り戻したいんだって。」
「でも!」
「ジュリー!お前に記憶がない俺の気持ちがわかるのか?どこのどいつかもわからない俺の気持ちが!」
「マ、マッド…」
「わ、悪い。でもわかってくれ。」
(ザックス…)
「よう、クラウド。悪かったな、待ち合わせ場所に行けなくて。ちょっと用事が出来ちまってな。」
「いや、気にするな。」
ジュリーがマッドの横で俺を冷たい目で睨んでるのは、きっと気のせいじゃないだろうな。うん。
そのジュリーが唐突に口を開き宣言した。
「今日は私も同席するわ。」
「ジュリー?」
「変に懐柔されたりしたらたまったもんじゃないし!」
「ジュリー!」
「懐柔って…」
あまりの言い草に返す言葉もなく黙ってしまった俺に、マッドは申し訳なさそうに謝った。
「クラウド…さん、すまない。」
「…いや、別にかまわない。で、今日はどうするんだ?」
「えっ、ああ…今日は…」
俺はいい機会だと、今後の自分のスケジュールを彼に伝えた。
「申し訳ないが、俺にも他の依頼の予定が入ってるんだ。あまりこの事だけに時間を費やす事も難しくなってくる。」
「そうだよな…すまない。とにかく今日である程度進めたいと思ってるんだ。付き合ってもらえるか?」
少しキツイ言い方だったかとは思った。でも、彼女の態度に冷静さを失いつつあった俺には、営業用スマイルなんて出来なかった。まあ、元々出来てはいなかったんだけどね。
「わかった。」
「クラウド、お前が知ってる俺との出来事を隠さずに話して欲しい。」
「出来事といわれてもなぁ。」
「なんでも良いんだ。じゃあ神羅でソルジャーやってた時の俺はどんなんだった?」
俺は悩んだ。ザックスとの思い出だったら短い間の事だけどたくさんある。
でも、それを今ここで話すという事は、俺たちの関係も話さなくてはいけないということで。
彼は今も昔も俺とは違ってノーマルだ。俺との関係を気持ち悪いと言われたら、立ち直れない。
思い出にしかならないのならば、綺麗なままでとっておきたいんだ。
「凄腕のソルジャーだったよ。神羅ではソルジャーをランク分けしていて、したから3rd、2nd、1stとなっていて、あんたはトントン拍子にランクアップしていった。」
「へぇー凄かったのね、マッドって。」
妙な所で相槌をうつジュリーを横目に、話を続けた。
「特に1stはたった3人しかいなかった。しかし、ある事件があって二人抜けたんだ。その後にあんたが1stに上がった。」
「事件ってなんだ?」
俺はふぅーっと大きく溜息をつき、マッドの方をみた。
「俺は…ソルジャーじゃなかったから、詳しくはわからないが、それでもいいか?」
「ああ。」
「謀反らしい。ある科学者が神羅の技術を利用して、彼らに別の研究をしていた。しかしそれは失敗に終わり、実験に使われた二人ともいなくなったそうだ。」
軍部の話が続くからか、退屈そうに話を聞いていたジュリーが、またもや横槍をいれてきた。
「ねえ、ソルジャーって怖いんでしょ?この人がまだ寝たっきりの時にお父様からそう聞いたわ。」
「外部の人からみれば怖いのかもしれないな。人間離れした所もあるし…あのソルジャーの証である瞳の色もな。」
ジュリーはソファーから勢いよく立ち上がったかと思ったら、突然俺の前に来て顔をしみじみと見つめた。
「そういえば、あなたの目もそうよね?」
不躾なその態度にムッと来て、不機嫌に俯いたのだが、ジュリーには通じなかった様だ。
こういう女性は苦手だ。
「そういえば、マッドは目の色が黒いな?いつからだ?」
「…さあ?」
そういって首を傾げてジュリーに助けを求めているマッドを、なんとも言えない気分で俺は見ていた。
記憶を巡っているのか、考え込んでいたジュリーが、弾かれる様に答えた。
「最初は、あなたよりもっと濃いブルーだったわ。でも、身体が治ってくるにつれて薄れていった。お医者様が言うには、この人の身体の細胞を修復するのに、?何だっけ?」
「ジェノバ細胞。」
「んー…なんかそういうものが力を使い果たしたんじゃないかって。」
俺もかなりの怪我をしたり、ライフストリームに落ちたりして、ジェノバ細胞を酷使して来たが、薄まる事はない。
やはり俺とは埋め込まれたものが違うのだろうか?
考え込んでいた俺に、マッドが尋ねてきた。
「あのさ、という事はだ、今の俺はソルジャーの体じゃないのか?」
「さあ、それはよくわからない。」
「俺さ、多分だぞ?大切な誰かを護っていた気がするんだよな。その、なんだ、ソルジャーの力が、なくなったらもう守れないのか?」
「守るのは、力だけじゃないだろう?」
「えっ?」
「あんたの存在だけでも、十分守れているんじゃないか?」
俺はマッドが誰を守りたかったかわかってる。しかし、あえてそれを匂わさず逸らそうと話を持っていった。
俺はそれで構わないと思ったんだ。
マッドの横に座ってるジュリーは、なんの疑いもなく当然だという表情でマッドを見つめている。
まあ、仕方が無い。俺がそういう風にもっていっているのだから。
しかしマッドは違ったのだ。
「いや、その存在自体も俺は不確かなんだよ。」
「クラウド…。俺が守りたいと思っていた相手って誰だ?」
「誰って…」
マッドはジュリーの方に向き直って頭を下げた。
「すまない。ここからは君には面白くない話が続くかもしれない。」
「えっ?」
「クラウド、俺が守りたいと思っていた相手がジュリーじゃないって事はわかってるんだ。」
「過去の事だ。今はその彼女を大切に思ってるんだろ?だったら彼女を守ってやればいい。」
マッドが静かに横に首を振る。
「違うんだ。わかるだろ?それじゃダメなんだ。」
「わからないな。」
「お前は、本当に大切な相手がいるのにそれを隠して別の相手と幸せになれるのか?」
「それは…」
「夕べ…夢をみたんだ。」
「夢?」
マッドは小さく頷くと、前にあるグラスの水を一気に飲み干した。
「俺は戦場にいた。俺は黒い戦闘服をきて馬鹿でかい剣を振り回していた。しかし、限界が来たんだろうな、囲まれてしまって撃たれた。」
「ひっ!」
ジュリーはその光景を思い浮かべたのか、その顔は恐怖に怯えていた。
それにも気後れせずマッドは話を続けた。
「そして力尽きて、地面に倒れた。そこに…一人の少年兵が這いつくばって近寄って来たんだ。それこそ必死に…。」
「彼なんだろうな、俺が命をかけてまでも守りたいと思っていた相手って。」
「……」
「クラウド、彼の事知らないか?」
「知らないな。」
「彼は綺麗な金髪で…」
そこまで言うと突然マッドが頭を押さえて苦しみ出した。
「っ!いってぇ!!」
「マッド!マッド!大丈夫?」
ジュリーは苦しみもがくマッドを抱きかかえながら、俺に向かって叫んだ。
「もういい!もういいわ!帰って!あなたが来てからマッドがおかしくなったの!もう記憶なんか戻らなくていい!お願いだから帰って!」
俺はあまりのジュリーの形相に、言葉を発することもできず素直にその場を去ろうとした。
すると、少し落ち着いたのかマッドが頭を抱えながら立ち上がった。
「待って、待ってくれ!クラウド!」
立ち去ろうとしていた俺の左手を掴み、マッドは叫び引き止めた。
「あれは!あの少年兵は!…お前か?クラウド。」
「違っ!」
「だって!待ってくれ!もう少しなんだ…もう少しで顔が見える!」
「だから俺じゃないって!」
「イテェ…俺の側で…泣いてる?こんな…顔をあげてくれ!!」
「やめろ!」
「やめて!」
マッドは眉を下げて情けない表情で、まるで泣き出しそうな顔をして俺を抱きしめた。
「やっぱり…お前だったんだな、クラウド。お前を守ってやるっていったのに…あんな形で…お前に凄く重い荷物を背負わせた…。」
俺はきつく抱きしめられた腕を少しずつ解きながら語った。
「違うよ。あんたは悪くない!俺が…身体の自由がきかなくてお荷物状態だった俺をあんたはずっと守ってくれていたよ、ザックス。」
ザックスは俺の左手の皮の手袋をそっと脱がせ、あの後から誰にも見せたことがない薬指のリングに、口つげを落としそっとリングを撫でた。
「まだつけていてくれたんだな、これ。」
咄嗟に引こうとした左手を、強くしかし大事そうに握りしめながらそう呟いた。
「捨てるわけないだろ!」
あの戦いの中でも、セフィロスの思念体との戦いの中でも、外すことのなかった指輪。
本来の自分を取り戻す前、この指輪がはまっている意味もわからずに、でも大切なものの様な気がして外さなかった。
ザックスとの唯一の繋がりの意味を持つこれを、そう簡単に捨てられるはずがない。
「絶対外さないって約束したから…」
「ありがとう…」
すると、ザックスは俺の手を離して謝ってきた。
「俺は…外しちまったみたいだ…ごめんな。」
「仕方がないよ、あんな状態だったし。」
「クラウド、少し待っていてくれるか?」
ザックスはそう言って昔よくやった俺の髪をクシャりと撫で回して、呆然としているジュリーの元へ歩いていった。
「俺、外に出てるよ。」
「悪いな。」
ここからはザックス自身の問題だ。俺が口を出せることじゃない。
そう思い外で待つことにした。
この後、ザックスがどんな結論を出すのかは俺にもわからない。
でも、どんな結果が待っていようが俺は受け止めて生きていく決心をした。
さっき、ザックスが口づけしてくれた指輪に同じ様に唇を落とし、革手袋をつけた。
2013/4/26
Ring of promise 8 ザックスside