Their intentions
ーそれぞれの思惑ー 14 *シリアス
「渋谷、目がさめたかい?」
まだ完全に覚めていないのだろう、ぼんやりと薄目を開けて僕の方を見ている。
いや、実際はその瞳に僕を映しているわけではない。
彼の時間はあの時から止まったままなのだ。
肉体的にはどこも傷ついていない。癒しの手の者たちに、何度となく治術を施して貰ったが、渋谷が目覚める事はなかった。
渋谷は心が傷ついてしまった、正確には魂が傷ついてしまったのだ。
これは、治術でも治らない─。
「僕では君の力にはならないのかい?」
どうせ聞こえてはいないだろうと、少し傷心気味に呟いてみたら、自分の服の袖を軽く引っぱられている事に気がついた。
「びっくりした!渋谷?どうしたんだい?」
僕のつまらない一人ごとを聞かれたかと、驚き焦っていると、渋谷が僕の方に向き、ロをパクパクと開閉している。もしかして…。
「渋谷、声が出せないのかい?」
コクコクと首を縦に振り、意志表示をしている。
「僕の言っている事はわかる?そうだなぁ…、」
「この、脳筋族っ!」
あっ、あからさまにムッとしてる。
こんな言葉でしか試せないなんて、僕とした事が。まあ、気が動転しているって事で許してよ。
メガネが白く光ったー。ワザとだ。
「じゃあ、筆談をしよう。君が意志表示をしやすいのは日本語だよね。」
紙、紙と部屋の中をドタバタと探しまくっている親友を横目に、魔王陛下は心の中で大きくため息をつくのだった。
探し物が見つかったのか、村田は嬉しそうにベッドまで持ってきた。
持ってきた貰った紙を有り難く受け取り何気なく裏に返してみた。
するとそれは、仮面作家の書いた妄想日記と魔王陛下の期末試験の答案用紙だった。
「っ!……。」
顔をまっ赤に染めて、恨めしそうに見ている渋谷に、僕は軽く肩を叩いて笑った。
「渋谷、君が何んで答案用紙をここに隠していたのかは、深く追求はしないよ。それに、この妄想日記ももう無駄なものだろうから。」
今ので完全に目覚めただろう親友に、僕が今まで知り得た情報を余て話した。
「と言うわけなんだよ。」
渋谷は、今までみた事のない真剣な表情で例の紙に書いた物をみせた。
『本当の事なんだな?何も隠していないな?』
「ああ、隠していないよ。君にはかなりショックかもしれないが」
『確かにショックだけど、そうじゃないんだよ。この国に来て俺が魔王になって築いた信頼関係が、一人の人物の出現で簡単に崩れる程度のものだったのかと思うと、なんかがっかりしちゃってさ。』
僕は努めて明るく渋谷に答えた。
「厄介な事に、彼はカリスマ性だけはあるからね。もうおじいちゃんなんだから、年寄りは年寄りらしく大人しくしていればいいのにさっ」
「渋谷、君は眞王が選んだ魔王だ。確かに彼は好戦的な性格をしているが、決して今のこの幸せな情況を壊す事はないと信じたい。」
「信じさせてくれよ…。」
渋谷はセンチメンタルな感情に陥った僕をなぐさめるつもりか、僕の手をギュッと握りしめてきた。
自分も傷ついて大変な時なのに、君って人は…。
「渋谷っ!大好きだよ!」
僕はたまらず、目の前の友人に抱きついた。渋谷は顔をまっ赤にして固まっていたけれども、これぐらい許してよ。
彼は筆談で
『突然やるなよーっ!びっくりするだろうが!…俺も頼りにしてる。親友!』
「僕は君を武力で守る事は出来ないけど、4000年培った知識で助ける事は出来る。でもそれには早く君にこちらに復活してくれないとね」
渋谷は、その言葉に力強く頷いた。
彼はもう大丈夫だ━
僕は安心したのか、どっと床に座り込んでしまった。
※※※
2012/2/12