
とある晴天の昼下がり、私は車の洗車を終えてワックスをかけるために入念に車を拭き上げていた。
すると初老の男性が私の近くにきてうろうろし始めた。
何かと思って
「何か用ですか?」
と話しかけると
「20歳くらいの女の人、住んでますよね?」
と、意味深げな会話となってきた。
我が家には30中盤と10歳くらいの女は住んでいるけど、20歳くらいの女はどう考えても住んでいないし、質問の意味が良く判らない。
「住んでないけど・・・」
と答えると、その男性は
「そんなことは無い、さっきこっちのほうへ歩いてきた。
この前を曲がったのは間違いない。
女を見たでしょう。」
と食ってかかってきた。
正直言って、私の欠点の1つに注意力が低いというのがある。
確かに女は車の前を通ったかもしれないけど、全く記憶に無い。
「知らんけど。」
というと、
「○○から乗せてきたけど、金を取ってくると言ってこっちへ歩いてきて、10分以上経つ。」
とのことで、やっと事情が判ってきた。
男性はタクシーの運転手で、我が家の近くで金を取ってくるといって降りた女を待っていたけど、全然来ないので女の歩いていった方向の我が家の私に話し掛けたようだった。
一通り事情を聞いた後、騙されたみたいなんで
「我慢できなかったら警察に届けたら・・・」
といって男性と別れた。
運転手がどこかにいってすぐ近所の人が
「何かあった?」
と聞いてきたので、事情を話すとその人は自転車でどこかに行ってしまった。
さて車にワックスをかけようと準備していると、その近所の人が満身の笑顔で自転車をこいで帰ってきた。
「おったおったその女!」
聞くと、タクシーから降りた女と特徴の似た人が近所の駐車場におったらしい。
話を聞いて、無関心をよそおう私にその人は凄く不満そうな顔をして見せた。
私は心の中で
「おれかよ!」
と叫びながら、しぶしぶ行ってみる事にして駐車場に向かった。
確かに凄い挙動不審な女性がいて、特徴も完璧に運転手の話と一致する。
さすがにそのままにする訳にいかないので、最寄の警察に電話してタクシーの乗り逃げ被害の届けはありましたかと聞くと今運転手が警察署にいるという。
事情を話して、目の前に犯人がいると説明するとすぐに来ると言って電話は切れた。
頼むからじっとしてくれという願いも虚しく、その女は駐車場を出て歩き出した。
全然したくなかったのにやむを得ず尾行する事になってしまった。
警察から駐車場に着いたとの電話が入り、
「今は○○くらいを○○に向かって歩いている。」
と実況中継する羽目になり、悪い事に微妙に緊張して方向を逆に言ったりしたお陰で、20分くらい実況中継しっぱなしで尾行する事になってしまった。
携帯電話で話をしながらタオルとワックスを持って歩いている私も相当の挙動不審者である。
その女は疲れたのか急にアパートの階段で座り込んだところで、警察と私は合流しお嬢ちゃんは警察から
「タクシー乗ってかね払わんかったやろう?」
と聞かれて
「乗ってないよ」
と可愛くとぼけるも、警察が連れて来たタクシー運転手の剣幕に負けて素直に無賃乗車を認めたのだった。
厳密には犯罪だけど協力する気も無かった事件解決に勝手に協力してしまう不思議な体験となった。
警察に表彰がどうとか言われたけど、近所の人が見つけたので表彰するならその人をしてあげてくださいといって警察を出た。
なんだかなぁという1日となってしまった。
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