ここは0学園の寮の一室。
火曜日の朝、電話が鳴った。
ルルルー、ルルルー、ルルルー…
「もしもし、デイヴィスくん?」
「おはようございます。僕、デイヴィスです!」
「おはよう、デイヴィスくん。相変わらず礼儀正しい言葉ね」
「おはようございます、レーヴちゃん。何か御用でしょうか?」
「御用じゃないけど、デイヴィスくん、何かヘンよ」
「やっぱりね。僕もそう思うけど、O先生が有馬大運動会が終わるまでそうしろって…」
「いろいろな人が来るからしょ?」
「そうなんだよ。カメラマンや記者がたくさん来てね、写真をいっぱい撮っていくんだよ」
「ああ、あれね。わたしも同じような経験があるわ」
「ぼくは初めてだし、昨日からそれが倍になっちゃってね」
「倍になったの?」
「そうなんだよ。なぜだろうと思ったら、運動会のパートナーが変わったらしいんだよ」
「誰に変わったの?」
「タケユタカさん…」
「ええー、あのタケユタカさん?」
「そう、あのタケさんなんだよ」
「それはすごいじゃない!」
「最初はアンカツさんって聞いていたんだけどね」
「でも、なぜ変わったのかしら?」
「ぼくもそう思って、O先生になぜですかと訊いたら、雲の上で決まったことだって」
「雲の上?」
「そうらしいんだよ。雲の上の山の神が決めたらしいよ」
「そう、山の神が決めたのね」
「でもね、それから急に記者の人が増えてたいへんなんだよ」
「それは仕方ないかもね。でも、いいじゃない」
「よくないよ。だって、ぼくは人気投票じゃ43位だったんだよ」
「たしか、わたしは15位だったわ」
「レーヴちゃんともずいぶん差があるけど、それが急に人気が上がっちゃってね」
「タケさん効果かしら?」
「たぶん、そうだと思うけど、走るのはぼくだからね」
「そうよね。でも、デイヴィスくんなら大丈夫よ」
「そうかなあ。ブエナ姉さんもいるし、オルフェーヴルくんもいるよ」
「オルフェーヴルくん以外はみんな先輩よね」
「そうなんだよ。みんな大運動会で優勝している先輩ばかりだよ」
「そうね、先輩には気をつけた方がいいわね」
「なぜ?」
「この間、わたしは小倉の運動会に出たでしょ?」
「うん、すごい人気だったけど、結果は残念だったね」
「それなのよ。パドックの準備体操の時からカメラがすごくてね」
「そうだろうね。小倉にレーヴちゃんが来るって大騒ぎだったらしいからね」
「それで睨まれちゃったのよ、先輩に」
「どの先輩?」
「フミノ姉さんやコスモ姉さんよ。ブロード姉さんはそうでもなかったけど」
「フミノ姉さんとコスモ姉さんか、それは恐いね」
「それでね、徒競争の時もずっと離れて後ろを走っていたの」
「あまり近寄らなかったんだね」
「そうなの。それでゴールテープの前で外から抜こうと思ったら、また睨まれちゃったのよ」
「何かあったと思ったけど、そうだったんだね」
「うん、でも、そんなことみんなに言っちゃだめよ。フミノ姉さんとコスモ姉さんが怒るから」
「うん、わかったけど、やっぱり先輩って恐いね」
「そうよ。あなたも気を付けた方がいいわよ」
「うん、わかった。パドックの時もグラウンドでもおとなしくしているよ」
「それがいいわね。でも、徒競争の時は遠慮しなくていいわよ」
「そうだね。この前の鳴尾の運動会にも先輩が出ていたけど、遠慮しなかったからね」
「もし、優勝したら、あのオグリ先輩のように伝説になるかもね」
「そうだろうね。でも、ブエナ姉さんには遠慮するかもしれないなあ」
「そうかあ、ブエナ姉さんはこれで卒業だものね」
「じゃあ、ブエナ姉さんのそばで走ってほしいって、タケさんに頼んでみるよ」
「それがいいわね。ブエナ姉さんならやさしいし」
「うん、そうするよ。レーヴちゃん、ありがとう!」
「じゃあ、デイヴィスくん、頑張ってね。応援してるわよ」
「うん、レーヴちゃんの分まで頑張るからね」
ガチャ、ツーツーツー。
(つづく)