今晩はヤスさんの店でアーリントンCを勝ったノーザンリバーの祝勝会だ。



ムルソー日記~太陽に向かって撃て!~


女性カメラマンのNさんがヤスさんに連絡し、旅行雑誌の編集者で血統派のSさんにも来てもらった。


「やあ、Nさん。おめでとう!」


とSさんがNさんに言った。


Nさんはアグネスタキオンの熱烈なファンで、今年はレッドデイヴィスシンザン記念以来の祝勝会だ。


ノーザンリバーも武豊も完璧なレースだったね」


とSさん。


「ありがとう、Sさん。武さんも今年初めての重賞勝ちで、うれしかったみたいね」


とNさんが応えた。


昨年の落馬事故以来、武豊の成績が今ひとつで、騎乗馬にも恵まれていなかったようだ。


「今年はタキオンの仔が好調だね」


とヤスさん。今日も重賞勝ちを含めて4勝し、そのうちの3勝がダート戦だった。


「Sさんに教えてもらったダート作戦で、今日もプラスになったわ」


とNさん。


「でも、タキオンの仔が2頭出ている時に、人気薄からねらうのはなぜなの?」


とNさんが続けた。


「それは、アグネスタキオンの種牡馬としての素晴らしさだね」


とSさん。


「タキオンの仔は勝ち上がり率が高いように、産駒の能力にバラツキが少ない。人気はその前までのレースの成績で左右されるけど、能力自体はあまり差がない場合が多いからね」


とSさんが続けた。


「初ダートの馬をねらうのはなぜなの?」


とNさんが続けて訊いた。


「これはタキオンの仔だけじゃないけど、ダートになって一変するというより、芝よりも相手関係が楽になるためだね」


とSさんが応えた。


「それに、芝よりもスピードや瞬発力が要求されないから、タキオンの仔のように、先行力があって、レースのしやすいタイプの馬はダート戦に有利だよ」


とSさんが続けた。


「タキオンの仔が今年はダートでよく勝っているけど、そういう理由なのね」


とNさん。


「あなたもSさんにお礼しなくちゃね」


とNさんが僕に言った。


今日の中山9Rの水仙賞で3連単が的中し、久しぶりに29,350円という万馬券をゲットしたからだ。


「そうだね。3頭に絞って、6点で3連単が的中したからね」


と僕が続けた。


「2200mのレースで実績のある種牡馬の仔を3頭選び、それを組み合わせただけなんだですけどね」


と僕がSさんに説明した。


「それは素晴らしいね。確かに2200mのレースは得意不得意が出やすいからね」


とNさんが続けた。


「中山の1800mはどうなんですか?」


と僕が訊いた。


「中山の1800mも得意不得意があるよ。というより、欠点の少ない馬に有利なコースと距離だね」


とSさんが応えた。


「中山記念は昔から大人のレースだからな」


とヤスさんも続けた。


「つまり、中山コースで実績があるとか、2000mのレースで勝っているというような理由ではねらえないということだね」


とSさん。


「別な言葉で言えば、中山記念は競走馬の完成度の戦いと言ってもいいね」


とSさんが続けた。


「ということは、経験の多い馬の方が有利だということ?」


とNさんが訊いた。


「確かにそうで、この10年で見れば、6歳馬が4勝、4歳馬、7歳馬、8歳馬が各2勝だから、他のレースよりも年長馬が活躍しているね」


とSさんが応えた。


「前売りでは、ヴィクトワールピサが1倍台の圧倒的な人気で、2番人気は7倍台でリルダヴァルだね」


と僕がオッズを見ながら言った。どちらも4歳馬で、3番人気は5歳馬のリーチザクラウン、4番人気は6歳馬のキャプテントゥーレだ。


ヴィクトワールピサが人気になるのは仕方ないけど、2000mのレースほど絶対ではないよ」


とSさん。ヴィクトワールピサの全6勝のうち、2000mが5勝で、2500mが1勝だ。


「じゃあ、リルダヴァルキャプテントゥーレにもチャンスがあるのね」


とNさん。今日の勢いで、明日もタキオン産駒で勝負したいようだ。


「十分にチャンスはあるよ。それに2頭とも中山の1800mに向いたタイプだよ」


とSさんが応えた。


「明日のリルダヴァルが池江郎師の最後のレースになるようだから、頑張ってほしいな」


とヤスさん。義理と人情のヤスさんらしい。


「明日もいい日になりそうね」


とNさんが僕の顔を見ながら言った。


明日もベッドでお祝いかな、と思いながら、そうだね、と応えた。