午後7時頃に女性カメラマンのNさんと僕の2人でヤスさんの店に行くと、旅行雑誌の編集者で血統派のSさんとヤスさんが話をしていた。


ヤスさんもSさんも東京7Rの馬連(38,630円)とワイド(9,100円)を仕留めたらしく、2人で祝杯をあげていた。


Sさんは、中山はダート1800m、東京はダート1600mのレースしか買わないことはみんなが知っている。


「どうだった?」


とSさんがNさんに訊いた。


「ありがとう。おかげさまで今日は楽しかったわ」


とNさん。それはそうだろう。馬券も当たったが、僕も馬並みに3回も頑張った。


「Sさんが言うように、タキオンの仔はダートも強いのね」


とNさんが続けた。


「そうだね。タキオン以外にも、今日のヒヤシンスSを勝ったラヴィアンクレールの父のマンハッタンカフェやネオユニヴァースもダートに強いよ」


とSさん。Sさんは東京9RのヒヤンシンスSもワイドが的中したようだ。


「ネオユニヴァースもそうなんですか?」


と僕が訊いた。


「そうなんだよ。タキオンと同じで、今年は芝よりもダートの方がいいんだ」


とSさんが応えた。



「ところで、今日の東京7Rはどうだったの?」


とSさんがNさんに訊いた。


タクティクスの複勝が的中したの。1,210円もついてビックリ!」


とNさんが応えた。


「それ以外に、京都5Rと6R、東京12Rが的中したけど、芝は1レースだけで、ダートは3レースだったから、今日は作戦的中ね」


とNさんがSさんに微笑みながら言った。


「明日もタキオンの仔が出るダート戦は楽しみだね」


とヤスさんが目を細くして笑いながら言った。


「今日のタクティクスのように、初ダートという馬がいれば面白いのにね」


と僕が言った。


「そうだね。残念ながら、明日の出走馬にはいないみたいだね」


とSさん。


「でも、今日の東京7Rもそうだったように、タキオンの仔が2頭出るなら人気薄の方をねらうのも面白いね」


とSさんが続けた。


「明日は京都1Rと7Rのダート戦に2頭ずつ出るね」


と僕が出馬表を見ながら言った。


「それなら、京都7Rね。明日のいちばんの勝負レースにするつもりだったの」


とNさん。



「明日は芝のレースも楽しみなの」


とNさんが続けた。京都11Rの洛陽Sに復帰したリディルが出走するが、それ以外にも、東京3Rの新馬戦に3頭、東京9Rのセントポーリア賞にカピオラニパレス、京都5Rの未勝利戦にアストリンジャーが出走する。


「今日の京都のこぶし賞が馬連で万馬券になったように、今の芝のレースは難しいね」


とSさん。


「穴党には面白いレースだけどね」


とヤスさん。


「確かにセントポーリア賞は難しいね。新馬を勝ったばかりの馬が5頭もいるしね」


と僕が続けた。


「そんな時は何を見て決めればいいの?」


とNさんがSさんに訊いた。


「これまでの対戦相手や時計、血統などなんだろうけど、最後は好き嫌いだね」


とSさん。


「じゃあ、わたしのようにタキオンの仔の応援でいいのね」


とNさん。


「そうだよ。名前の好き嫌いでもいいんだよ」


とSさんが続けた。人に説明できる理由であれば何でもいいと言う。


「Sさんならどうするの?」


とNさんが訊いた。Sさんは芝のレースを買わないことを知っていての質問だ。


「そうだね。まじめに検討していないけど、新馬を勝ったばかりの5頭の中から選ぶかもしれないね」


とSさんが応えた。負けていない馬は無限の可能性がある、ということらしい。


「あなたはどうなの?」


とNさんが僕に訊いた。


「いちばん気になるのは去年の札幌以来となるプランスデトワールだね」


と僕が応えた。父はディープインパクト、母はスキーパラダイスという良血馬だ。


「もし、ここをあっさり勝つようならばかなりの馬だけど、新馬戦の時の2着がマイネクイーンで、差も0.1秒しかなかったからね」


とSさん。


「ヤスさんはどう?」


とNさんが訊いた。


「新馬を逃げて勝ったテラノコブラがいいな。負かした相手もなかなか強いよ」


とヤスさんが応えた。テラノコブラに新馬戦で負けたヴァーゲンザイルは次の未勝利戦を1番人気で圧勝している。どちらも距離が伸びていいタイプだ。


「そうなんだ。カピオラニパレスもたいへんなのね」


とNさんがため息をつきながら言った。


「でも、ここを勝てばダービーの出走権争いに入れるからね。楽しみだよ」


と僕がNさんに言った。


「そうだね。今年のタキオンの仔は好調だから、可能性は十分にあるよ」


とSさんが続けた。


「そうよね。一生懸命に応援しなくちゃね」


とNさんはまた元気を取り戻したようだ。今日は朝から3回もあったのに、まったくその疲れはないようだ。


「あなた、明日も付き合ってね」


とNさんが僕に言った。


明日は何回だろうかと思いながら、うん、いいよ、とすぐに応えた。


僕もまだ若い。


(つづく)