八月の路上に捨てる 伊藤たかみ(文藝春秋2006/09月特別号)
この作品の欠点は読み進める過程での面白さがないところで、具体的には、主人公の結婚から離婚に至る経緯になんの意外性もない点でしょう。冒頭からほぼ離婚を決意した様子の主人公が振り返る過去は、最初からうまくいきそうにないカップルが、ごく当たりまえに破局していくというものです。なぜ別れたかという現在の視点で整理された過去が語られるため、恋愛から別れに至る過程を読者が追体験できません。にもかかわらず、現在の水城さんとの関係と比べて長く詳細に語られています。この間、読者がストーリーの推移を楽しむことが拒絶されています。
それでも斯界で評価が高いのは、読み終わった後で全体を見通すと、テーマもモチーフも腑に落ちるし、それぞれのモチーフの関係も過不足なくきちんと整理されているからでしょう。しかしその「きちんとさ」は、有能な書評家が、あるストーリーをきちんと評価し要約したものであるかのようです。それは、小説というものをよく知っている人が、読み終わった後に自分の中で作品を再構成し、評価するときのそれと、ほぼ同じものでしょう。そのようなプロパーな読者が安心して評価できる作品なのだと思います。
あるいは、ストーリーではなくて、最初からこの作品のテーマやモチーフに共感できる人にとっては、細かな表現や会話の機微を楽しむことができるでしょう。猫好きの人が、猫を見ているだけで楽しめるように。
この作品はモチーフを手際よく整理して示していて、そこが評価されるところでもあり、若干物足りなく感じられるところでもあるようです。
- 伊藤 たかみ
- 八月の路上に捨てる
