まーやー 遠藤徹(新潮2006/04月号) | 朝の書評

まーやー 遠藤徹(新潮2006/04月号)

 
新潮 2006年 04月号
【完全ネタバレ全あらすじ】
 灼熱の砂漠で、薙と阿南は、崇拝する天照に「生き延びよ! 生き延びて七面、毛無らと合流し、強羅を倒せ!」と命じられた。巨躯の天照が去った後には、彼の足跡である大きな穴に彼の汗が溜まって、二つの湖ができた。しかしその水は非常に塩辛くて飲めなかった。薙と阿南は大きな岩をひっくり返してその下に隠れている、普段なら決して口にしない奇怪な虫を食べ、日に焼けやせ細りつつ、苦しみながら、かつては川であった場所を、かつて七面が教えてくれた海へ向かった。
 七面は人面疽によって七つ顔があった。彼はかつて強羅の家で働いていた。強羅には幼い少年たちが仕えていて、彼も幼い間は、そして人面疽に冒されるまでは、その一人だった。強羅には摩訶耶という美しく残酷な娘がいて、彼女には赤石という大男の侍従がいて、摩訶耶は赤石に命じて、幼い少年たちを些細なことで死に至るまで痛めつけた。少年たちは、殺した少年の血を啜ってますます妖しく成長する摩訶耶を崇拝にも近い気持ちで恋慕した。
 毛無は、アメーバのようなぐにゃぐにゃした無口な生き物だった。薙と阿南と七面の前に天照が初めて現れたとき、強羅を倒すため共に戦う仲間として紹介された。そして天照は薙と阿南から頼りにしていた七面を毛無と共に連れ去った。薙と阿南は太陽の熱にうなされながら抱き合ったまま海へ向かって転がり続けた。
 七面は失意を感じつつ毛無と共にかつて海であったところを歩いていた。海は干上がり、かつての海の生き物は化け物と化しており、しかし天照の命令に従い生き延びるためには、それら化け物を食わねばならなかった。七面は失意と怒りから毛無を罵倒し殴り続けるが、毛無はまったく痛痒を感じてない様子だった。
 七面は疲れ果て眠り夢を見た。夢の中で、七面は強羅の寵愛を取り戻し、摩訶耶も彼に秋波を送った。七面が土産として差し出した天照の首が料理として出され、七面は驚愕して目を覚ます。七面は夢に見たとおりに天照を裏切りすべてを取り戻そうと決意する。そして海が干上がった今こそ、深い海の底に棲むと言われる魔の元に行き、その力を借りようと思う。
 天照は魔の元に行き、昨夜の夢のお告げどおり自分は殺されるのかと尋ねる。「然り、そして否」と魔は答えた。
 薙と阿南は瑞々しい森に辿りつき、天照の命令も海に行って七面に会うこともどうでもよくなってしまった。その森は人面をした豊かな果実が実り、二人は健康と退屈を取り戻し森に安住した。やがて阿南が子供を生んだ。いつも眠っていて可睡と名づけられた。 天照は遠い所で毛無が死んだことを感知した。天照は毛無が絶命した地へ向かい、変わり果てたわが子、毛無しを撫でてやろうとしたが、その途端、黒い虫が一斉に飛び立ち、天照を刺した。虫によって毛無を殺し、天照も殺す、それは魔に力を借りて七面がしかけたことだった。
 七面は美しい少年に戻り、天照の首を土産に強羅を訪れた。強羅は女性だった。強羅と摩訶耶は彼を誉め、捕虜たちに天照の首を見せた後で残酷な方法で処刑した。天照の首を巨大な鍋で煮込みつつ、強羅は七面をも殺し、鍋に投げ捨てた。魔によって取り戻すことのできた美少年の顔を赤石に剥ぎ取られ、人面疽に冒された醜い七面の体は天照の口の中に落ちた。天照の口が動き出し七面を噛み砕いた。そして食い終わると、天照の首は強羅に元気そうだなと声を掛け、摩訶耶をわが娘と呼んだ。
 強羅と抵抗勢力との闘いは、灼熱の太陽と地下に残された水脈との闘いでもあった。カリスマ指導者天照の死の知らせにより、消沈した抵抗勢力は次々破られ、秘密の地下水脈を襲われ、地下水脈から水を得ていた、薙と阿南が住んでいる森も危機に瀕した。太陽の熱はさらに強く激しくなり、森はからからに乾燥し火事が発生し、薙と阿南は逃げ出した。森の外でうっかり強くなった太陽を見て二人ともめくらになってしまった。二人はどうしていいかわからず、昔みたいに抱き合って(可睡を腹に挟んで)ころころ転がり始めた。すると記憶が蘇って、海へ行って七面に会って、強羅を倒すんだと思った。
 強羅と摩訶耶は嫌がる忠臣の赤石の首を落とし、その体を夫の天照に与えた。天照は体を取り戻したが、毛無を連れてこの家を出たときからの記憶をなくしていた。強羅は、天照が、天照と摩訶耶との不義の子供である奇形の毛無を捨てに行くとき、毛無の夢に捕らわれてしまったのだと言う。毛無は自分を捨てる天照を恨み、天照と強羅が争い、太陽が二つに割れ落ちて大地に向かって降りていくという夢をみて、現にそのような事態を引き起こした。しかし毛無は途中から七面に夢を乗っ取られ、七面は自分の夢の通り強羅の家に戻ってきたが、そのことを予め魔から聞き及んでいた強羅たちは、七面の裏をかいて彼を殺したのだという。
 しかし、七面を殺しても太陽の熱は強まり続けた。誰かが毛無と七面の夢を引き継ぎ、この世に破滅をもたらそうとしているようだと強羅は言う。天照は、薙と阿南が夢を引き継いでいると気付くが時すでに遅く、まずは熱に弱い摩訶耶が倒れて溶け始め、続いてあたりの美少年たちも強羅も天照も溶け始めた。
 薙と阿南は転がるうちに焼け焦げた肉の塊になり、岩の下に隠れた虫たちの餌になったが、その肉の塊に挟まれて、可睡がすやすやと眠っていた。その子が今ようやく目を覚まそうとしている。その唇が動いた、まーやー、と。

【感想】
 長々要約してご苦労なことだと思われるかもしれないが、私は私のためにやってるので気にしてくれなくていいですよ。むしろこの私独自の要約を真に受けて、こんな小説なのかとあなたが思い込んでしまったとしたら心配だ。いや、こんな小説なんですけどね。
 これはやはり、なんだかんだ、いわゆる説話論的物語というやつじゃないですか。頼りになる兄貴分と見えた七面が天照を裏切り、抵抗勢力のカリスマと信じられていた天照が実は強羅の夫であり、毛無は自分を捨てた父母を恨み、といったストーリーの起伏は、面白いし意外性もあるし、でもそれは神話とかファンタジーとかで繰り返されてきた定型であるところの「意外性」ですね。
 神話のパロディが現代文学足りうるためには、神話的物語のプロットから現代文学すなわち小説への跳躍がなければならず、神話的予定調和にとどまっているこの作品をそもそもパロディとは言えず、目新しい表現やモチーフをいくら入れ込んだところで、できのいいエピゴーネン以上のものではないでしょう。
 あれ? なんだか、面白く読んだ割には辛口の感想になってしまいました。批評家の悪い影響を受けてしまったようです。実際のところ、要約では書き落とした、奇怪な虫たちの描写や、人面果実について薙と阿南が言い合うあたりなど、十分に面白かったです。