模造記憶

- P.K. ディック, 浅倉 久志
- 模造記憶
その中の特に一番面白いというわけではない「欠陥ビーバー」のあらすじを紹介しますと、妻に虐待され精神科医にぼられる安月給のしがないビーバーに、「あなたを愛しています」という手紙が届いて有頂天になって返事を書こうとすると、それは妻の策略で、浮気者め、とさらに罵られてしまう。そして再び、別の女性から同様の手紙をもらうのだけれども、彼女が妻の作り出した罠なのか、実在の女性なのか非常に不安であり、何度も手紙のやりとりをして確認し、とうとう会いに行く。何より彼女が妻の罠でもなく自分の作り上げた妄想でもなく、実在することが肝心だと考えているビーバーの前で、その女性は三人に分裂し、そのそれぞれが魅力的な女性だった。彼女たちはますます強く実在し始め、おしゃべりし続け、一方で、ビーバーのほうはだんだん実在しなくなって、影のように消えていく。
あまりうまい要約とは言えませんね。とにかく、非常に実験的な作品で、にもかかわらず面白く、そして「現代人の存在の不安」というやつが素直に伝わってきます。実験といえば、純文学こそが最も前衛的な実験を行える場であるはずですが、そういった実験はすべて何十年も前にSF作家たちがすっかりやってしまったのかもしれません、しかもずっと面白く。
100年後、古典として残るのは、凡百の現代文学ではなく、フィリップ・K・ディックかもしれません。
297.今更PKディックを読む・其の一
http://juji.hp.infoseek.co.jp/text/howto00297.htm