世界の貧困問題が論じられるとき、すぐに思いつくのは食糧援助や医療援助、そしてユニセフなどへの募金だ。
緊急対策としてはこれらの手段も有効だろう。

自分もときどき募金してきたが、本書を読んで「世界の貧困問題」を全く理解していなかった自分が恥ずかしくなると同時に、問題の深刻さを実感した。


「なぜ貧困問題が広がり深刻化しているのか」、その原因を理解せずに、解決を図ることはできないであろう。
本書は、先進国を含む世界の貧困がどのように作られてきたか、現在進行中であるかを暴き出している。
輸出(市場経済)のために農地を奪われ(つまり、生活手段を奪われ)、市場経済に組み込まれて貧困化していくさまを浮き彫りにしている。


著者は、
問題は、「もし世界がより豊かになっているのだとしたら、なぜ貧困が消滅しないのか」ということである。
<略>
貧困には歴史がある。開発・発展の物語は、同時に貧困化の物語でもある。
「発展」するためには、人々はまず、特定の方法で貧しくならなければならないのである。
と語り、それを詳細に本書で説明している。

IMFや世界銀行が市場開放を求めた結果、ダムや道路、アグリビジネス(輸出用作本栽培)のために土地を奪われ、難民となった人たちは、都市や農村で奴隷的な労働に従事させられている。
農作物や衣料などの輸出品を安く作るために低賃金で働かされ、自分たちは食べるものも買えないという貧困状態に陥ったのだ。

これを"進歩"というのだろうか?
人間は常にあらゆるものの中で最も儲かる換金作物だった。
という著者の言葉は、「貧困問題」の核心を突いているだけにゾッと寒気がする。
貧困は「乏しい資源」あるいは物の不足によってではなく、富によって引き起こされる。
グローバリゼーションとは、すべての国を一つの世界経済システムに統合することである。
それは、植民地主義からの際立った継続性を示している。
グローバリゼーションに対抗するものとして、著者はキューバやブラジルの例を挙げている。
自立は、人々を貧しくし富をより少数の人間の手に集中する中央集権化であるグローバリゼーションの対極に位置している
<略>
キューバはグローバルシステムから離脱したら社会的崩壊と暴力しかないと主張する人々が間違っていることを証明した。
かって、IMFの模範生だったアルゼンチンでは、2002年の経済危機によって人口の半分が貧困に陥った。
<略>
世界で最も成功した社会運動の一つが<略>ブラジルの土地なし農民運動である。

ブラジルの「土地なし農民運動」については、下記を参照されたい。
農地を我が手に ブラジル・土地なし農民たちの戦い
ブラジルMST(土地なし農民運動)代表


本書を読んで強く思ったのは、
「貧困に苦しむ人たちは、金を求めているのではない。
自分たちで自立していくことを求めている。」
ということだ。
そのために、命をかけてデモなど抗議行動を行い、警察や軍隊の犠牲になっている。


世界の貧困問題を語る上で、本書は必読書だと思う。
「反グローバリズム」を知るきっかけとなる良書である。

世界の貧困―1日1ドルで暮らす人びと/ジェレミー シーブルック
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