9.11テロ事件の2年後に、著者がアメリカを取材して明らかにしたのは、日本でもアメリカでも報道されることのない、貧困やイラク戦争によるPTSDで苦しみながらも、団結し声を上げ、反戦・反貧困に立ち上がる人々の姿だった。

「イラク帰還兵反戦の会」を立ち上げたイヴァンは、2004年夏、原爆記念日に広島に招待され、スピーチを行っている。
その時、被爆者の人たちが彼のところに来て、彼の手を握って
「あなたがやっていることは世界の平和のために大切なこと、勇気あること、ありがとう、ありがとう」
と礼を言う場面が出てくるが、その文章を読んでいる最中に涙がこぼれた。涙した理由は全く分からない。
インタビューした著者も、これを聞いたとき、「涙があふれた」と書いている。
そこには、唯一の被爆国である日本人の心に響く何かがあるのだろう。


雨宮処凛さんの本に、日本の非正規雇用の若者に「自分たちの窮状から逃れるためには、戦争しかない」と考える人が多いと書いてあった。
本書に登場する、貧困から抜け出すために軍隊に入り、イラク戦争へと送られたアメリカの若者たちがどんな目に遭っているのかを知れば、戦争が希望にならないことが分かるであろう。
イラク帰還兵は次のように著者に語っている。
「生活が苦しくて入隊して、結局、社会の底辺から軍というシステムの底辺にスライドするだけだよ。<略>
僕たちって捨て駒なんだよ」

本書は、「プロローグ」、「エピローグ」、「あとがき」の20ページを読むだけでも価値がある。
「プロローグ」はインタビューした人が著者に語った言葉が載っているが、その中から心に残った言葉を引用しておく。
どれだけ変わるように願っても、一人でできることなんてたかが知れてる。
みんなそう思ってあきらめちゃうんだ。
でも俺たちみたいな普通の市民が力を手にする方法がたったひとつある。
それは真実を知ること。そしてそれをできるだけ多くの人に手渡すことだ。
もし、世の中の人たちみんながいまほんとうは何が起きているのかを知ったら、どうなると思う?
みんな立ち上がるよ。



報道が教えてくれないアメリカ弱者革命―なぜあの国にまだ希望があるのか/堤 未果
¥1,680
Amazon.co.jp


PS.
堤未果さんの最新刊『ルポ貧困大国アメリカ』は、自分が住む市の市立図書館の予約が"14人待ち"になっている。

ルポ貧困大国アメリカ (岩波新書 新赤版 1112)/堤 未果
¥735
Amazon.co.jp