今年4月1日から始まった「後期高齢者医療制度」により、75歳以上の医療費の負担が増えることになった。

しかし、医療費の負担が増えたのは、75歳以上の高齢者だけではない。
週刊ポスト 2008年5月23日号 によると、現役サラリーマンも平均で4万円のアップだという。

またJCASTニュース の記事「高齢者医療制度「改革」で 健保の保険料値上げ相次ぐ 」によると、
派遣社員の人も「増加率にすると約25%の大幅増加」になるという。

「国民皆保険制度」を導入しながら、保険料が支払えず保険証が発行されず、受診が遅れて死ぬ人が増えて社会問題化している。

このような日本の状況の中で、マイケル・ムーア監督の映画『シッコ』を見て、日本の「国民皆保険制度」について改めて考えさせられた。


映画『シッコ』は、西側諸国で唯一「国民皆保険制度」を持たないアメリカと、「国民皆保険制度」を導入し医療費が無料のカナダ、イギリス、フランス、キューバを取材し、その違いを浮き彫りにしていく。

アメリカでは、医療保険を持たない人が約5千万人おり、無保険が原因の死亡者が1年に1万8000人にのぼる。
また、民間の医療保険に加入する人が約2億5千万人いるが、個人が負担する医療費が高額で、しかも民間保険会社は利益のために保険加入者への支払いをしないような方策を取っている。

マイケル・ムーア監督が医療保険会社とのトラブル事例を募集したところ、2万5千件以上の電子メールが届き、映画で描かれるその状況は目を覆いたくなるほど酷いものだ。

50代の夫婦は夫の心臓発作と妻のガンの治療を受け、高額な医療費の支払いのために自己破産し、自宅を手放さざるを得ず、娘夫婦の家の地下室に身を寄せることになる。

薬代が払えずに70代でも働き続ける男性。

赤ちゃんが危篤状態になり、民間保険会社の指定病院でなかったため治療を断られ、手遅れで赤ちゃんを死なせてしまった母親。

無保険で医療費を払えない患者をタクシーに乗せ、貧民街に置き去りにする病院。

アメリカの酷い医療を取材した後、マイケル・ムーア監督はカナダ、イギリス、フランス、キューバと取材を進めていく。
低所得者を含め国民全員が医療を受けられる状況を知るにつれ、マイケル・ムーア監督が耳を塞ぐ気持ちが良く分かる。

底辺に生きる者への対し方でどんな社会か知れるという。”逆も真なり”か?
社会が知れる? エリートへの対し方で? 英雄への?
の言葉の後に描かれるのは、9.11テロ事件で救助活動を行ったボランティアの救命士たちの惨状だ。

9.11テロ事件直後には「英雄」と称えられたのに、5年後の彼らは救助活動による気管支系の疾病などに苦しみ、十分な治療を受けられないでいる。
彼らを救うために5千万ドルの基金が設けられたはずなのに、受給条件が厳しいために疾病手当を受けられないでいるのだ。

9.11テロ事件で気管支系の病気に罹った元救命士の女性がキューバの薬局で、
米国で120ドル(約1万2千円)の薬がキューバで5セント(約5円)で買える
ということを知り、「おかしい」と涙するシーンには胸をえぐられる思いがした。


この映画を見て「アメリカに住んでいなくて良かった」とだけ思える人は幸せだ。

自分が見た感想は、「国民皆保険」を謳いながら負担する医療費がどんどん増え、保険料を支払えない人が医療を受けられない日本は、アメリカに非常に似ていると思わざるをえなかった。


上述の「週刊ポスト」の記事から、中央社会保障推進協議会の相野谷安孝・事務局次長の言葉を引用しておく。
厚労省は最初に大げさな予測を出して、国民に負担は仕方がない諦めさせて制度を改悪してきたのです。日本の現在の国民医療費は33兆円で、GDPに占める割合は先進国でも低い。すでに低福祉の国になっている。それなのにまた、”団塊世代の医療費が大変だ”と負担増を打ち出した。騙されてはいけません

今後10年で道路整備に58兆円、米軍への思いやり予算に年間約2千億円、米軍のグアム移転に約6,100億円、電波の特定財源「電波利用料」 が年間約650億円。。。

上のように税金を使いながら、医療費などの国民負担をアップさせる政府に納得できるだろうか。


”どうして日本で医療費を無料にできないのか”、”なぜ日本に医療を受けられない人がいるのか”、考えさせられる映画だった。レンタルして、ぜひ見て欲しい。

『シッコ』
¥3,068
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なお、映画の詳しい内容は、マイコミジャーナル の「【レビュー】マイケル・ムーアの突撃取材が暴く米国のイカれた医療事情 - 『シッコ』 」で。

ネットで調べてみると、フランスは2000年に国民皆医療保障制度(CML)を実現したという (全日本民医連 )。