ユウキは夜、自宅で熱いシャワーを浴びていた。

石鹸で体を洗い、シャンプーで頭を洗った。

そしてしばらく目を閉じて、熱い温度に神経を集中している。

そして、手首を見てみる。

そこには、何重にも重なった切り傷があった。

ユウキは苦い顔をした。

そして目を離す。

見てると、つらい過去を思い出してまた傷跡を増やすことになる。
しばらく温まってから上がり、体を拭き、スウェットに着替えた。

冷蔵庫を開け、紙パックの牛乳を出し、コップに注いで一杯飲んだ。

リモコンを拾い、テレビをつけた。

どのチャンネルも例のテロのニュースしかやっていない。

犯人の顔写真が公開されていた。

犯人は、「我々の革命こそ正義!」などと叫んでいたという。

死んだら何もかも終わりなのに。とユウキは思った。

ユウキは超能力者だが、神や霊魂や生まれ変わりなどは信じない。

生物は細胞分裂を繰り返し、物を食べて排泄を繰り返す機械のようなものだ。

とユウキは思っている。

死んだら、幽霊などにはならず、ただ神経伝達が止まった死体となる。無となる。

という考えだ。

ただ、人間は時に奇跡的な力を発揮したり、幸運に満ちた体験をしたりすることは認める。

ユウキはテレビを消し、ウォークマンで音楽を聴きながら眠りについた。


朝。

ユウキは、あらかじめウォークマンにセットしてあった目覚まし音で目覚めた。

寒い。

エアコンを点ける。

薬缶に水を入れて、火を点けた。

ぴゅー!と薬缶が鳴くと、すぐ火を消した。

インスタントコーヒーとお湯をコップに入れ、ブラックで飲んだ。

朝食はビタミンコーンシリアルに牛乳をかけたもの。

テレビを点け、今日の天気をチェックした。

晴れだ。


ピリリリリ。

 

スマホの着信音が鳴った。ユイからだ。

ユウキは電話に出た。

「はい。」


「おはよう、ユウキ君。朝早くてごめんね。」

「いえ。大丈夫です。」

「報告は受けたよ。初日だったけど、マキさんとはうまくやってるみたいね。」

ユイは少し嬉しそうに言った。

「ええ、まあ。」

ユウキは上手い下手は気にしてなかったので、どうでもよかったが。

「研究所からの要請は特にないから、任務続行。がんばって。」

「はい。」

「それじゃあね。マキさんにも話したから。」

「はい。分かりました。」

電話は切れた。


「・・・・・・。」

ユウキは少し考え、マキに電話することにした。


プルルルル。


呼び出し音が鳴る。

「はい。」

マキの声だった。


「今日、どうする?」

ユウキが知りたいことを切り出した。

「そうだな・・・・・・。

テロの件は警察に任せて、行方不明のジャーナリストの足取りを追う。。」

「了解。どこで合流する?」

「そっちに迎えに行くよ。一時間後くらいに到着する。」

「OK。待機する。」


「ユウキはいつも通り準備をし、マキを待った。


そして丁度一時間後くらい経った。


ポーン

玄関の呼び出し音が鳴った。

ユウキはモニターからマキのことを確かめて、状況分析した。罠などではない。

玄関を開ける。


「どうも。」

ショートカットで長身細身のクールな女性、マキがいた。


「ああ、おはよう。」

ユウキもあいさつした。


二人は車に乗った。

「今日は、ちょっと気になることがあるから、そっちから行く。」

マキは言った。

「ジャーナリストの心当たりでも?」

そういうユウキに対して、マキは「うん。」と答えた。

「昨日、彼の部屋に行った時、住所録を見つけたんで、そこへ行ってみる。」

「どういう人たち?」

「大学時代の先輩とか、サークル仲間とか、ジャーナリストとして交流のある人たち。」

「なるほど。じゃあ総当たりか。」

「たぶん。」


と、いう訳で、二人は昼間から行方不明者の捜索を行った。


「あいつが、あんなことになるなんて・・・・・・。」

「俺たちも、明日は我が身ですよ。」

「ショックだ。仕方ないかもしれないけど、生きていてほしい。」


等々、色々な意見があったが、海外のことなので行方を掴むのは難しかった。


「そろそろ昼だな。何か食べよう。おごるよ。」

ユウキ自身腹が減ってきたので、言ってみた。

「いや、別に・・・・・・。割勘でいいよ。」

「いいさ。」

「じゃあ、遠慮なく。」

二人は適当に見つけたファミレスで、ユウキのおごりで食事をした。


午後も聞き込みは続く。

そして・・・・・・。


「ああ、ニュースで見たけど・・・・・・。」

ジャーナリスト仲間の一人に話を聞いていた。

「なにかご存知ありませんか?」

マキは淡々と質問する。

「なんか、言ってましたね。そういえば・・・・・・。」

「どんなことを、ですか?」

「なにか、今回はさすがにやばいかもしれない、とか。

まあ、戦場に行くんだから、ヤバいのはいつもの事なんで気にしませんでしたけど。

なんのことかまでは聞いてませんけど。」

「そうですか。ご協力ありがとうございます。」

マキが話を打ち切った。


「やばいこと、か。」

ユウキがつぶやいた。

「なんのことかはわからないが、なにかありそうだな。」

マキは返す。


「・・・・・・。」

ユウキが足を止める。


「・・・・・・囲まれている、か。」

マキが言う。


「ああ。」


そして人込みの中にいた一人の男が、ユウキとマキのほうを向いていた。

そしてそいつは懐に手を入れ、また出した。


その手には・・・・・・。



拳銃をもって、二人に狙いを定めていた。