のんちゃん小説:「幸子」 _ 2005.11.22 15:38
限りなく、人の心を踏みにじる悪の文章の数々が通じないとなれば・・、もはや、のんちゃん最終秘密兵器「幸子」を・・。完全たる嘘だらけの小説をくらいなさい・・。そう、現実に、ありえない嘘を打ち込んじゃいけない・・。どう考えても詐欺文章だ・・。だが、あえて、リアルタイムのんちゃん小説を打ち込む・・。何か、余計に打ちたくなくなってきた・・。
太平洋戦争終戦後、日本が荒れてしまった。女は米国兵に寄り付き、体を提供し金を得る時代・・。横浜は荒れた。暴走族。極道の争いがかさみ、金を騙し取られ、倒産する会社は後を絶たない時代を背景に、幸子は生きていた・・。
「お母さん、お帰りなさい。」
「ただいま、幸子。」
「あのね、今日ね、髪がキラキラしたおじさ
んに、これ、もらったの。」
「あら、チョコレート。」
「お母さん、食べてもいい?」
幸子の母、幸代は、他人から貰ったお菓子に手をつけなかったことに感動した。そして、幸代がコクリと頷くと、幸子は「お母さんも、いっしょに食べよ。」と言った。幸代は、涙を落としそうになったけれども、我が子の前で泣くまいと誓った商売をしている。それでも、自然に流れる涙を堪えることが出来なかった。
「おかあさん、何でないてるの?ごめんなさ
い。かってに開けたから?」
幸代は、首を振りながら「ううん、幸子がお母さんの分まで残しておいくれたから、嬉しかったの。ありがとう、幸子」と、人差し指で涙を拭いて、幸子からチョコレートを受け取ると、それを一緒に食べた。
「それとね、コレ。」
「あら、ガムと歯ブラシ・・」
「おじさんが、こうやってやるんだって。」
チョコレートを食べ終わった幸代は、幸子に、はみがきを教えてあげると、「お母さん、どうしてこんなことするの?」と幸子が幸代に聞く。
「歯にチョコレートがついてみっともないでしょ、幸子。」
「あっ。」
「わかった?」
「うん。」
幸子は、学校に行かない。いや、行けなった。幸代は、水商売をしていたもののヤクザ世界では、ショバ代と称した支配体制が確立していた。立場の弱い幸代は、儲けの8割が?ぎ取られていた・・。だが、以前に勤めていた工場は、リンチが酷かったのである。工場長は、肛門に木の枝を差し込んだり、そのまま蹴り飛ばしたり尚も、集団強姦に低賃金と言う中で、乳児を守りきれない幸代は、工場から逃げ出し、飢えの中で、横浜へ辿り着いたものの、極道の縄張り争いに巻き込まれ、虫もわきたつアパートで、その2割で生きていた。それでも、工場で働いていた時よりも大きい給料なので、お客さんに体を提供していた。
とても、学校へ行かせる余裕はなかったである。幸代の心の中では、幸子だけは、穢れのない幸せな子であって欲しいと言う願いがあった。来る日も来る日も、男性のイチモ
ツを相手に、幸子は思春期を迎えた頃、ある日、忽然、母親が帰らなくなってしまった。いきなり、男の人が家に押し寄せ、慌しい中、幸子は、何をされているのかも気づかないまま、放心状態だった。連れ去られた場所は、恐そうなお姉さんたちが並び、訳の分からないおじさんたちは、わけのわからないことを言って去っていく。
体中の痛みを堪えて、幸子は言った。「お母さん・・お母さん・・」と・・。それを聞いていた周りのお姉さんたちは「お母さんかいやしないわ。めそめそ泣かないでくれる。うっとうしい。」と啖呵きる。
何がどうなったのか状況が把握できなかった幸子は、だんまりと、ただ呆然と座っていただけだった。しかし、「あんた、何、睨んでんの?」と蹴り飛ばされ、周囲もそれに混ざって幸子を蹴り飛ばした。その騒がしさに駆け込んだ男性は、一目散に、他の女性たちの頭を殴りつけた。
「何やっとんじゃい!新しいモン、傷つけたらぁ~、売り物にならんじゃろうがい!」
完全に震えきった幸子を目前とした男は、「こりゃぁ~使いモンにならんなぁ~、クソがぁ!おまえらぁぁ、キモから差し引いとく、おぼいとけやぁ~、分かったがぁぁ!ごらぁぁ!返事せいっ!」と怒鳴る。今度は、幸子を蹴りまくった女性たちが真っ青になった。狭い部屋に響き渡る甲高い声。
それでなくとも食うのが大変な時世。給料を差し引かれたら、死活の問題である。痣が出来やすい幸子は、男に引き取られ、部屋の片隅でガチガチ震えていた。男は、男は則和と言う。
「すみん(隅)で、いつまでガタガタやっとんの、お前。」
一向に、ガタガタから、丸二日、何も食べていない幸子に近づけない則和は、イライラが募りに募って、「おまえぇぇ、ぶちこむぞ!ごら!」と、則和が近づこうとした瞬く間に「ヒィー」と言う甲高い声を出し、座った状態から、横になった体を丸めて、さらに振るえが強まり、殴る気も失せた則和は、幼少の頃を思い出した。自分も小さな頃に、リンチを受け、こんな感じでやられ放題に震えたまま、相手が引いてくれるのを待った。そんな時代があったと・・。「悪かった。何もせん。怯えんな。」と言いながら、幸子に毛布をかけた。良く見ると、則和が思っていたよりも、ずっと幼い子供だった。暗い部屋で、顔を良く確認しないまま、震えていたことと、近づけないこともあってか。よく見もせずに、二十代の小柄な女性と勘違いしていたのである。当時の環境で、子供を上げたとなれば、組の恥さらしとして処罰される世界があった。処罰とは、「死」である。この姑息な手段で稼ぐ組は多数あったが、いずれも「親の知らぬ場での子供の不始末である」・・。子供は、親にも問題があると、金を稼ぎ、上を目指し、のし上がって行く。この頃から、男たちの任侠が遠ざかっていったのかもしれない・・。
則和は、焦った。3日も口にしていない。焦った。則和は、子供の頃の心に戻り、幸子の前で、朝から夕まで「勘弁してくれ、恐がらせて悪かった・・」を繰り返しまくった。則和は泣いた。とにかく、泣いた。そして、「食べてくれ」と、何度も、何度も、ひれ伏して泣いた。
夕が立ち、部屋に日差しがかかると、幸子はの震えがやんだ。幸子は「チョコレート」と則和に言った。
「チョコレト?あるある。これ、うまい。くうてみぃ。美味いぞ~。」
幸子が板チョコを小口で食うと、則和は嬉しかった。どうして、突然に幸子の震えが止まったのかは、則和にはわからなかった。夜、則和はお粥を作り、幸子に手渡した。則和のアパートは和室だけれども、この前まで幸子が住んでいた家よりも綺麗な和室だった。
「ありがとうございます。」
「なん、粥ぐらいで、美味いか?」
「はい、美味しいです。」
新しい子が入ると同時に、新しい現場をまかされた則和は、複雑な気持ちだった。一度、則和の兄貴分であるニックネーム、テツが、どうして、テツ?健太くんは、極道では恥ずかしかったようだ・・。テツが新入りの母親を別の現場へ強制的に移動させ、その娘が、新しい子となる。言わば、それが「幸子」である。兄貴に、どのように説明すれば良いのか?則和はどちらをどのようにすれば良いのか混乱した。則和は、中学を卒業しただけの学を有したヤクザである。その時代では、金の卵と呼ばれていた。けれども、極度の虐めが原因で、この世界へ足を踏み込んだのである。そして、鬼になりきろうとした束の間、「幸子」を見たとたん、心が揺らいでしまう。
兄貴を裏切れば殺される。かと言って、幸子を現場に戻したら、今度は、土下座しても回復してくれそうにない。本物の男の強さに憧れた則和は「詐欺」が大嫌いだった。親を忠実に信頼する極道に憧れたからである。こんなことが組長に知られたら大変である。
それでも、兄貴を裏切っても大変だから、尚、タチが悪い。追い詰められた則和は、兄貴のテツの前で、「この子を俺に下さい」と頼み込んだ。
「いいツラしてんなぁ~、コレか?コレ。」
「違います。また、同じようなことになったら・・」
「そんときゃ~な、口に突っ込んで、紐にでもつるしとけ。則和、恐くなったかぁ~。恐いんだろぉ。」
「俺の初仕事のお祝いに、一人寄こしてください。俺も女欲しいです。」
「ふっ、ははははは、ふっふっはははは、そんかわりゃ~、きちんとやれよぉ、則和。一人、やるよぉ、おめぇに。」
一回しのぎの則和。二度目は許してくれないだろう。幸子と同じような年代の子が再び連れて来られたら。そう思うと、幸子と顔を合わすだけでご飯が喉を通らなくなる。幸子が作ってくれるご飯が不味いのではない。幸子の様に震えて、ガタガタ震えた子を目の当たりにするのが深刻なのである。
「則和さん?」
「あ、ああ、何?何だ?」
「何か、味が?」
「いいや、少し、まあ、うん・・」
「あ、ごめんなさい。もう少し、上手に炊けるように頑張ります。」
「あ、ちが、あ、いや、食え。」
「あ、はい。」
今まで、面と面に向かって女の子と話すことなどなかった則和は、幸子の顔が目の前にあるだけで、詰まっていた喉元が通った。則和は、「それでも、兄貴分にたてついて、一人でも守った」と言う未知の達成感があった。男としての達成感を感じていたのである。
部屋に布団がない則和は、なるべく夜は、仕事と嘯いて、現場で寝泊りしていた。字の書き方を教えながら、金がたまり次第、一人でも屋っていけるようにと、なるべく愛情を注がずに、距離を置いていた。幸子の方は、母親と則和を重ねていた。商売上、極道が商品に手を出すことはない。それが、掟であった。そう、女も麻薬も、のめり込めば、力を失う。商品に手をつける奴や上がれない。テツも、則和を切り捨てようと考えていた。しかし、則和はキレ者である。商品として売り出す前に、「祝い」と言う言葉で、男を誘ったのである。他のヤクザならば、則和を殴っただろう。テツは、のし上がろうとしている極道である。つまり、自分の下につけた子分に祝いもなければ、兄貴も廃れる。則和は、テツに反抗した。それは、家業にではなく、「兄貴なら、お祝いぐらいしてください」と言う言葉が、テツの心をくすぐった。
現場を任されたということは、則和にしてみれば、「昇進」である。テツは、それに気づいた。しかし、お祝いと言う言葉に二度目は通じない。それが、則和の悩みだった。男として、極道に足を踏み込んだ則和にとって、親の名さえ貶しかねない男の名も廃る商売に対して悩んだ。
「幸子ちゃん、あんたぁ、これで、字ぃ覚えとけぇ~」
「えっ、」
「え?じゃねぇ~、たくさん本読んでぇ、立派になっとけ。」
「えっ?」
「え、じゃねぇ~って、勉強しとけってんだぁ。わがったか?」
「あ、はい。これ、貰ってもいいですか?」
「おめぇんために買ったんだ。いっぱい書いて、いっぱい覚えとけ。」
「あ、ありがとうございます。」
「なに喜んでんだぁ~。勉強しろってんだぞぉ、ごらぁ~」
「べんきょう?べんきょうって何ですか?」
「・・・・。」
則和は、幸子を無視したものの、幸子が則和にしつこく質問したので、則和はやむを得ず、幸子に「勉強」を説明した。何となく、分かってくれたのか笑いながら、字を書く練習をする幸子。幸子が「字って何でしょうか?」と則和に説明すると、則和は、発音と一緒に教えないといけないことに気がついた。
字が書けても「読めなければ意味がない」からである。結局、則和も一緒に勉強するハメになる。一つ一つ発音しながら、幸子に字を書かせ、一つ一つを日中にこなす。則和は、夜から現場へ向かう。そう、男に体を任せる女たちへの売春宿。学問とは程遠い世界である。則和は、そう言った自己中心的な女性が大嫌いである。故に、テツは則和を理解して、現場を任せたのである。テツにしてみれば、子分が商品にさえ手を出さなければ、誰だって良かったとも言える。その誰でもいい人間は、この世界には少ないのである。
「テツ兄貴、いらっしゃい。」
「おう、新しい客だ。」
「大きい兵隊さんですね。」
「松呼べ、松。」
「あ、はい。」
幸子に対して、言葉使いが悪くとも、兄貴に対してお行儀良くなる則和。はたして、これが「男」と言えるのだろうか?そこが、微妙である。乱れゆく女に兵士が力を奪う魔所の宿。横浜の闇に生きる則和の巣穴。その横浜暗黒街と称せる時代があった。
限りなく、人の心を踏みにじる悪の文章の数々が通じないとなれば・・、もはや、のんちゃん最終秘密兵器「幸子」を・・。完全たる嘘だらけの小説をくらいなさい・・。そう、現実に、ありえない嘘を打ち込んじゃいけない・・。どう考えても詐欺文章だ・・。だが、あえて、リアルタイムのんちゃん小説を打ち込む・・。何か、余計に打ちたくなくなってきた・・。
太平洋戦争終戦後、日本が荒れてしまった。女は米国兵に寄り付き、体を提供し金を得る時代・・。横浜は荒れた。暴走族。極道の争いがかさみ、金を騙し取られ、倒産する会社は後を絶たない時代を背景に、幸子は生きていた・・。
「お母さん、お帰りなさい。」
「ただいま、幸子。」
「あのね、今日ね、髪がキラキラしたおじさ
んに、これ、もらったの。」
「あら、チョコレート。」
「お母さん、食べてもいい?」
幸子の母、幸代は、他人から貰ったお菓子に手をつけなかったことに感動した。そして、幸代がコクリと頷くと、幸子は「お母さんも、いっしょに食べよ。」と言った。幸代は、涙を落としそうになったけれども、我が子の前で泣くまいと誓った商売をしている。それでも、自然に流れる涙を堪えることが出来なかった。
「おかあさん、何でないてるの?ごめんなさ
い。かってに開けたから?」
幸代は、首を振りながら「ううん、幸子がお母さんの分まで残しておいくれたから、嬉しかったの。ありがとう、幸子」と、人差し指で涙を拭いて、幸子からチョコレートを受け取ると、それを一緒に食べた。
「それとね、コレ。」
「あら、ガムと歯ブラシ・・」
「おじさんが、こうやってやるんだって。」
チョコレートを食べ終わった幸代は、幸子に、はみがきを教えてあげると、「お母さん、どうしてこんなことするの?」と幸子が幸代に聞く。
「歯にチョコレートがついてみっともないでしょ、幸子。」
「あっ。」
「わかった?」
「うん。」
幸子は、学校に行かない。いや、行けなった。幸代は、水商売をしていたもののヤクザ世界では、ショバ代と称した支配体制が確立していた。立場の弱い幸代は、儲けの8割が?ぎ取られていた・・。だが、以前に勤めていた工場は、リンチが酷かったのである。工場長は、肛門に木の枝を差し込んだり、そのまま蹴り飛ばしたり尚も、集団強姦に低賃金と言う中で、乳児を守りきれない幸代は、工場から逃げ出し、飢えの中で、横浜へ辿り着いたものの、極道の縄張り争いに巻き込まれ、虫もわきたつアパートで、その2割で生きていた。それでも、工場で働いていた時よりも大きい給料なので、お客さんに体を提供していた。
とても、学校へ行かせる余裕はなかったである。幸代の心の中では、幸子だけは、穢れのない幸せな子であって欲しいと言う願いがあった。来る日も来る日も、男性のイチモ
ツを相手に、幸子は思春期を迎えた頃、ある日、忽然、母親が帰らなくなってしまった。いきなり、男の人が家に押し寄せ、慌しい中、幸子は、何をされているのかも気づかないまま、放心状態だった。連れ去られた場所は、恐そうなお姉さんたちが並び、訳の分からないおじさんたちは、わけのわからないことを言って去っていく。
体中の痛みを堪えて、幸子は言った。「お母さん・・お母さん・・」と・・。それを聞いていた周りのお姉さんたちは「お母さんかいやしないわ。めそめそ泣かないでくれる。うっとうしい。」と啖呵きる。
何がどうなったのか状況が把握できなかった幸子は、だんまりと、ただ呆然と座っていただけだった。しかし、「あんた、何、睨んでんの?」と蹴り飛ばされ、周囲もそれに混ざって幸子を蹴り飛ばした。その騒がしさに駆け込んだ男性は、一目散に、他の女性たちの頭を殴りつけた。
「何やっとんじゃい!新しいモン、傷つけたらぁ~、売り物にならんじゃろうがい!」
完全に震えきった幸子を目前とした男は、「こりゃぁ~使いモンにならんなぁ~、クソがぁ!おまえらぁぁ、キモから差し引いとく、おぼいとけやぁ~、分かったがぁぁ!ごらぁぁ!返事せいっ!」と怒鳴る。今度は、幸子を蹴りまくった女性たちが真っ青になった。狭い部屋に響き渡る甲高い声。
それでなくとも食うのが大変な時世。給料を差し引かれたら、死活の問題である。痣が出来やすい幸子は、男に引き取られ、部屋の片隅でガチガチ震えていた。男は、男は則和と言う。
「すみん(隅)で、いつまでガタガタやっとんの、お前。」
一向に、ガタガタから、丸二日、何も食べていない幸子に近づけない則和は、イライラが募りに募って、「おまえぇぇ、ぶちこむぞ!ごら!」と、則和が近づこうとした瞬く間に「ヒィー」と言う甲高い声を出し、座った状態から、横になった体を丸めて、さらに振るえが強まり、殴る気も失せた則和は、幼少の頃を思い出した。自分も小さな頃に、リンチを受け、こんな感じでやられ放題に震えたまま、相手が引いてくれるのを待った。そんな時代があったと・・。「悪かった。何もせん。怯えんな。」と言いながら、幸子に毛布をかけた。良く見ると、則和が思っていたよりも、ずっと幼い子供だった。暗い部屋で、顔を良く確認しないまま、震えていたことと、近づけないこともあってか。よく見もせずに、二十代の小柄な女性と勘違いしていたのである。当時の環境で、子供を上げたとなれば、組の恥さらしとして処罰される世界があった。処罰とは、「死」である。この姑息な手段で稼ぐ組は多数あったが、いずれも「親の知らぬ場での子供の不始末である」・・。子供は、親にも問題があると、金を稼ぎ、上を目指し、のし上がって行く。この頃から、男たちの任侠が遠ざかっていったのかもしれない・・。
則和は、焦った。3日も口にしていない。焦った。則和は、子供の頃の心に戻り、幸子の前で、朝から夕まで「勘弁してくれ、恐がらせて悪かった・・」を繰り返しまくった。則和は泣いた。とにかく、泣いた。そして、「食べてくれ」と、何度も、何度も、ひれ伏して泣いた。
夕が立ち、部屋に日差しがかかると、幸子はの震えがやんだ。幸子は「チョコレート」と則和に言った。
「チョコレト?あるある。これ、うまい。くうてみぃ。美味いぞ~。」
幸子が板チョコを小口で食うと、則和は嬉しかった。どうして、突然に幸子の震えが止まったのかは、則和にはわからなかった。夜、則和はお粥を作り、幸子に手渡した。則和のアパートは和室だけれども、この前まで幸子が住んでいた家よりも綺麗な和室だった。
「ありがとうございます。」
「なん、粥ぐらいで、美味いか?」
「はい、美味しいです。」
新しい子が入ると同時に、新しい現場をまかされた則和は、複雑な気持ちだった。一度、則和の兄貴分であるニックネーム、テツが、どうして、テツ?健太くんは、極道では恥ずかしかったようだ・・。テツが新入りの母親を別の現場へ強制的に移動させ、その娘が、新しい子となる。言わば、それが「幸子」である。兄貴に、どのように説明すれば良いのか?則和はどちらをどのようにすれば良いのか混乱した。則和は、中学を卒業しただけの学を有したヤクザである。その時代では、金の卵と呼ばれていた。けれども、極度の虐めが原因で、この世界へ足を踏み込んだのである。そして、鬼になりきろうとした束の間、「幸子」を見たとたん、心が揺らいでしまう。
兄貴を裏切れば殺される。かと言って、幸子を現場に戻したら、今度は、土下座しても回復してくれそうにない。本物の男の強さに憧れた則和は「詐欺」が大嫌いだった。親を忠実に信頼する極道に憧れたからである。こんなことが組長に知られたら大変である。
それでも、兄貴を裏切っても大変だから、尚、タチが悪い。追い詰められた則和は、兄貴のテツの前で、「この子を俺に下さい」と頼み込んだ。
「いいツラしてんなぁ~、コレか?コレ。」
「違います。また、同じようなことになったら・・」
「そんときゃ~な、口に突っ込んで、紐にでもつるしとけ。則和、恐くなったかぁ~。恐いんだろぉ。」
「俺の初仕事のお祝いに、一人寄こしてください。俺も女欲しいです。」
「ふっ、ははははは、ふっふっはははは、そんかわりゃ~、きちんとやれよぉ、則和。一人、やるよぉ、おめぇに。」
一回しのぎの則和。二度目は許してくれないだろう。幸子と同じような年代の子が再び連れて来られたら。そう思うと、幸子と顔を合わすだけでご飯が喉を通らなくなる。幸子が作ってくれるご飯が不味いのではない。幸子の様に震えて、ガタガタ震えた子を目の当たりにするのが深刻なのである。
「則和さん?」
「あ、ああ、何?何だ?」
「何か、味が?」
「いいや、少し、まあ、うん・・」
「あ、ごめんなさい。もう少し、上手に炊けるように頑張ります。」
「あ、ちが、あ、いや、食え。」
「あ、はい。」
今まで、面と面に向かって女の子と話すことなどなかった則和は、幸子の顔が目の前にあるだけで、詰まっていた喉元が通った。則和は、「それでも、兄貴分にたてついて、一人でも守った」と言う未知の達成感があった。男としての達成感を感じていたのである。
部屋に布団がない則和は、なるべく夜は、仕事と嘯いて、現場で寝泊りしていた。字の書き方を教えながら、金がたまり次第、一人でも屋っていけるようにと、なるべく愛情を注がずに、距離を置いていた。幸子の方は、母親と則和を重ねていた。商売上、極道が商品に手を出すことはない。それが、掟であった。そう、女も麻薬も、のめり込めば、力を失う。商品に手をつける奴や上がれない。テツも、則和を切り捨てようと考えていた。しかし、則和はキレ者である。商品として売り出す前に、「祝い」と言う言葉で、男を誘ったのである。他のヤクザならば、則和を殴っただろう。テツは、のし上がろうとしている極道である。つまり、自分の下につけた子分に祝いもなければ、兄貴も廃れる。則和は、テツに反抗した。それは、家業にではなく、「兄貴なら、お祝いぐらいしてください」と言う言葉が、テツの心をくすぐった。
現場を任されたということは、則和にしてみれば、「昇進」である。テツは、それに気づいた。しかし、お祝いと言う言葉に二度目は通じない。それが、則和の悩みだった。男として、極道に足を踏み込んだ則和にとって、親の名さえ貶しかねない男の名も廃る商売に対して悩んだ。
「幸子ちゃん、あんたぁ、これで、字ぃ覚えとけぇ~」
「えっ、」
「え?じゃねぇ~、たくさん本読んでぇ、立派になっとけ。」
「えっ?」
「え、じゃねぇ~って、勉強しとけってんだぁ。わがったか?」
「あ、はい。これ、貰ってもいいですか?」
「おめぇんために買ったんだ。いっぱい書いて、いっぱい覚えとけ。」
「あ、ありがとうございます。」
「なに喜んでんだぁ~。勉強しろってんだぞぉ、ごらぁ~」
「べんきょう?べんきょうって何ですか?」
「・・・・。」
則和は、幸子を無視したものの、幸子が則和にしつこく質問したので、則和はやむを得ず、幸子に「勉強」を説明した。何となく、分かってくれたのか笑いながら、字を書く練習をする幸子。幸子が「字って何でしょうか?」と則和に説明すると、則和は、発音と一緒に教えないといけないことに気がついた。
字が書けても「読めなければ意味がない」からである。結局、則和も一緒に勉強するハメになる。一つ一つ発音しながら、幸子に字を書かせ、一つ一つを日中にこなす。則和は、夜から現場へ向かう。そう、男に体を任せる女たちへの売春宿。学問とは程遠い世界である。則和は、そう言った自己中心的な女性が大嫌いである。故に、テツは則和を理解して、現場を任せたのである。テツにしてみれば、子分が商品にさえ手を出さなければ、誰だって良かったとも言える。その誰でもいい人間は、この世界には少ないのである。
「テツ兄貴、いらっしゃい。」
「おう、新しい客だ。」
「大きい兵隊さんですね。」
「松呼べ、松。」
「あ、はい。」
幸子に対して、言葉使いが悪くとも、兄貴に対してお行儀良くなる則和。はたして、これが「男」と言えるのだろうか?そこが、微妙である。乱れゆく女に兵士が力を奪う魔所の宿。横浜の闇に生きる則和の巣穴。その横浜暗黒街と称せる時代があった。
幸子 _ 完
Nobuyuki Araki - 18:04 -
バウ探偵事務所所長 - 投稿 -
-22:35