王小波にはそれぞれ“黄金時代”“青銅時代”“白銀時代”と呼ばれるシリーズに含まれる作品群があり、この巻には“白銀時代”の作品が収められている。
“黄金時代”の時代背景が文革時代、“青銅時代”の時代背景が唐代であるのに比べると、“白銀時代”の時代背景は近未来である。
ぼくは“黄金時代”の作品群に魅了させられて王小波のファンになったのだったが、その後で“青銅時代”の作品群が好きになり、今回、全集のこの巻を何度目かに読み“白銀時代”にやっと興味を感じるようになった。
「やっと」というのは、これまではこれらの作品群が難解で理解できなかったのだが、今回、多少なりともその面白さがわかり始めたという意味だ。
つまり王小波の小説は“黄金時代”から“青銅時代”そして“白銀時代”へと難しくなっており、何度か繰り返して読むうちに次第に難しいものもわかり始めたということだ。
今回、苦労しながら『白銀時代』『未来世界』『2015』『2010』をともかく読み終えたけれど、それらの面白さの何パーセントかは味わうことができたのではないだろうか。
いずれも近未来の世界が舞台だが、SF小説ではない。では何が描かれているのか。描かれているのは小説でしか表現できないものだと言うことができるように思う。“黄金時代”の作品は映画でも十分に表現できるものだし、“青銅時代”の作品は音楽的だと言えるように思うが、“白銀時代”の作品は映画にならないし、音楽的でもない。小説でしか描けないものがそこにあるように思う。そしてそれはぼくがこのところ一番興味を感じる小説の形をしているように思う。そうか、ぼくはこのような小説を求めていたのかと思ってしまう。
長年、王小波を読んできて、“黄金時代”や“青銅時代”の作品には多少飽きてしまった感もするが、“白銀時代”の作品群はその面白さが多少わかってきたところで、今後、ますます面白くなってくるのではないかと期待している。
『王小波全集 第五巻 白銀時代』
譯林出版社2012年9月第3次印刷