『緑毛水怪(緑毛の海獣)』や『地久天長(オールド・ラング・ザイン)』のような純粋な愛に対する憧憬を表した初期作品は久しぶりに読むとやはり琴線に触れるものがある。

これらはおそらく文革の真っただ中で書かれた作品で、王小波はこのような純粋な悲恋の物語を書くことで猥雑で混乱した時代に耐えていたのではないだろうか。

 これらの初期作品には後に書かれる「唐人物語」や「似水柔情」に収められている作品にある衒学的、虚無的な要素は感じられず、健康的で童話的な世界が描かれている。健康的で童話的である分、何度も読むと物足りなさも感じてしまうのだが、このような健康さにたくましさが加わって、後に『黄金時代』や『似水流年(歳月流るる如し)』という佳作が書かれることになったのであろう。その意味でも王小波の作品について考える場合これらの初期の作品には捨てがたい味わいがある。

 

『王小波全集 第六巻 短篇小説 似水柔情』

 譯林出版社 20129月第3次印刷