この戯曲『一寸さきは闇』の本には舞台写真が収録されており、読みながら舞台の様子を想像することができて、それが楽しかった。

またこの本には『あの戯曲といたあいだ』という作者、小島信夫がこの芝居の稽古に立ち会ったときのことを書いたエッセーと『金曜日の夜十時』という当時渋谷の地下にあったジャンジャンという喫茶店で夜晩くにかけられていたイヨネスコの『授業』という芝居について書いたエッセーも収められており、ともに戯曲そのものよりも面白いと思った。

『一寸さきは闇』は前作の『どちらでも』よりも登場人物に屈折がなくて分かりやすいが、実際の舞台で観たら、その分軽い感じがして物足りないと思うかもしれない。

ところでジャンジャンでやっていた『授業』は、短大に通うために上京して千石のアパートでぼくと一緒に暮らしていた妹と観に行ったことがある。観終わっての帰り道でのことだったと思うが、教授役の中村伸郎のある場面での手つきに妹が感心したことを話してぼくにその手つきをして見せたことを今でも覚えている。40年以上昔のことだ。

 

『一寸さきは闇』小島信夫

 河出書房新社 昭和48420日発行