《戸外にはたくさんの樹木があり、木ではいつもいろいろな小鳥たちが私のために――彼ら自身のためかもしれない――歌を唄っている。》『八方風雨』
まるで小学生の作文のようではないか。このような書き方をする作家をぼくは老舎以外に知らない。《私のために――彼ら自身のためかもしれない》、このようなユーモアはなかなか書けるものではないと思う。書いたら嫌みになるだけだ。ところが老舎が書くとちっとも嫌みではなく、彼の優しさを感じさせる。
『八方風雨』は八年に及ぶ抗日戦争時期に妻子と別れてあちこちに移り住み仕事をしていたときの苦難に満ちた生活について書いた散文だが、淡々とした書き方で、深刻ぶったりしたところはなくところどころにユーモアが散りばめられており、今読んでもちっとも古びていない。老舎という人の大きさを感じさせてくれる。
このような老舎が文化大革命のときに紅衛兵によって集団リンチを受けて自殺したことを思うと深い悲しみを覚える。
『老舎散文集』
吉林出版集団股份有限公司 2019年1月第1版