小説家の立場から書かれた小説論、作家論、エッセー、文芸時評をまとめたこの『現代文学の進退』を半世紀ぶりに読んでみたが、書かれていることの大半がぼくにはよく分からなかった。一言で言えば書かれていることがぼくには専門的にすぎるように思えるのだ。

 半世紀前に読んだときはもっと分からなかったはずだけれど、難しかったという印象は残っていなかったので、今回読んで意外な気がした。

 意外な気がしたと言ったが、ぼくに大きな影響を与えたと思えるような人物の言葉はそれが印刷されたものであれ、目の前で発せられたものであれ、ときがたって改めて読んだり、聞いたりするとより深い意味があったことが分かり、印象が違うものになるのだろうなとも思う。

 文芸時評で、西脇順三郎のエッセー『詩学』について、《氏はくりかえしくりかえし、氏独特の、詩を書くような文章で、語っている。もともとアイマイなものは、アイマイにと心がけている。》と言っている。この指摘はこの本全体の小島の文章そのものについても言えることのように思う。

 

『現代文学の進退』小島信夫

 河出書房新社 昭和45520日初版発行