老眼が進み、文庫本の細かい字が見づらくて、読んでいてすぐに疲れるので一週間ほどかけて毎晩少しずつ読み、やっとのことで読み終えた。

 鴨長明の『方丈記』は高校の授業で教わり、有名な出だしの部分だけは今でも覚えていたが、当時はちっとも読む気になれなかった。大体このようなものを高校生に読ませて、分かる生徒が何分の一いるのだろう。

 今回、原文そのものはよくは分からないながら、奈良岡康作という人の訳、注、解説の助けを借りて読んで、心に残るものがあったのは、うれしい予想外のことだった。

 鴨長明という千年前の人の自分を厳しく見つめる目、厳しいだけでなくそんな自分を公正に判断する態度、生き方に共感を覚えることができたのがこの本を読んで心に残った理由だ。自分に厳しいだけの人、自分を公正に見ることができるだけの人はいても、彼のような厳しさと公正さを兼ね備えた人物はそういないのでないだろうか。 

 ぼく自身が自分に厳しく、しかも自分に公正な人間で、そのような自分に近い人物に出会えて、心に残ったというのではなく、そのような人間になることをぼく自身がもしかしたら知らず知らずのうちに目指して生きてきたのだったのではないか、とこの本を読んで感じることができたのがうれしかった。

  

『方丈記 全訳注』奈良岡康作

 講談社学術文庫1994年4月20日 第19刷発行